語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~

2014年10月14日 | ●佐藤優
 9月に国際情勢が大きく変化した。特に、次の二点(相互に密接に関係する)によって国際政治の与件が変化した。
  (1)ロシアが、ウクライナ問題で事実上勝利した。
  (2)米国が、「イスラム国」(シリアの一部地域を実効支配するイスラム教スンニー派武装組織)の拠点に対して空爆を行った。

 9月5日、ミンスク(ベラルーシの首都)で、ウクライナ中央政府と、同国東部を実効支配する親露派が停戦協定に合意した(協定内容は非公表)。
 同月16日、ウクライナ最高会議が、東部のドネツク、ルガンスクの一部地域に自治権を付与する決議(3年間の期限付き)を採択した。
 <【モスクワ=遠藤良介】ウクライナ東部の紛争をめぐり、同国最高会議(議会、定数450)は16日、東部ドネツク、ルガンスク両州の特定地域に、3年間に限って大幅な自治権を付与する法案を賛成多数で可決した。独自の「民警」を持つ権限を与えるほか、12月7日に地方首長や議会の選挙を行うことなどを定めている。同国政権と親露派武装勢力の和平合意に盛り込まれていた東部の「特別な地位」を具体化するもので、親露派が受け入れるかが当面の焦点となる。
 法案には他に、(1)地元検察と裁判所の人事への関与(2)ロシア語を使用する権利の尊重(3)ロシアの自治体との関係強化(4)復興に向けた特別措置の導入-といった内容が盛り込まれた。適用範囲となる「特定地域」は2州の州都など親露派の支配領域を指すとみられる。法案には277議員が賛成し、大統領の署名を経て近く発効する見通しだ。
 ポロシェンコ氏は、法案の定めた3年間で懸案の地方分権改革を進め、東部情勢の長期的な正常化につなげたい考えだ。ただ、親露派の幹部はあくまでも東部の「独立」を追求する構えを崩しておらず、現状が固定化される懸念も強い。>【9月17日付けMSN産経ニュース】

 この法案は、停戦協定に基づいて採択された。
 親露派は、ドネツク、ルガンスク両州で自らが実効支配している地域のみではなく、両州全域を「特定地域」とすることを主張している。しかし、この点は親露派が譲歩する形で軟着陸することになるだろう。
 「特定地域」で、12月7日に首長と議会の選挙が行われ、民意を反映した自治政府が組織される。自治政府は、民警(ウクライナ中央政府の指揮命令系統に従わない独自の警察)を組織し、検察および裁判所の人事に関与し、ロシア語を尊重する政策等を実施する。・・・・これは、「特定地域」に準国家が誕生することを意味する。

 8月26日、ミンスクで、プーチン・ロシア大統領とポロシェンコ・ウクライナ大統領が会談した。その時点で、次の秘密合意が得られていたのだろう。
 「ロシアはウクライナの連邦化という要求を取り下げるが、ウクライナは親露派が実効支配する地域については事実上の連邦化を実施する」
  
 客観的に見れば、プーチンの勝利だ。
 法案は自治権の期間を3年に限定しているが、この間に「特定地域」では親露派のエリートが統治能力を強化するから、今後キエフの中央政府が巻き返すのは難しい。ロシア語を常用する住民が多数派を占め、ポロシェンコ政権に対する反発の強い他の東部、南部の動きが強まり、ウクライナ中央政府は譲歩を余儀なくされるだろう。
 米国は、イラクとシリアで拡大する「イスラム国」の動きを封じ込めることで手一杯だ。だから、ウクライナ問題に本格的に関与することはできない。・・・・と分析し、プーチンはポロシェンコに圧力を加えたのだろう。
 ロシアの、ウクライナに対する外交攻勢、インテリジェンス工作を米国は傍観するしかなかった。

 安倍政権は、この機会を最大限に利用し、日露の政治対話を強化するとよい。具体的には、11月に北京で開催されるAPECでの日露首脳会談でプーチン大統領の公式訪日日程に係る合意を図るとよい。米露の不信感が高まっている情況の中、ウクライナ情勢を沈静化させ、「イスラム国」対策について日本が仲介者となることで、米露が不必要な対立を起こさないで済むからだ。
 しかし、現在の安倍政権、外務省には千載一遇の機会を活用する積極外交の徴候はみられない。

□佐藤優「国際情勢の変化に対応できない安倍政権 ~佐藤優の飛耳長目 第100回~」(「週金曜日」2014年10月10日号)
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 【参考】
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【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 
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1 コメント

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何故外務省は影響を与えられないのか? (武尊43)
2014-10-15 04:26:03
 話は簡単。日米だけが大事だから。そんな国の官僚がロシアなどという国に近づく事は考え付かないのさ。本当は佐藤氏の云うように、米国の為に為る、と思われる事でも踏み出せないのさ。
 日米安保、協定、原子力協定など寄るべき先は憲法よりも左様な法律、というのが日本の官僚の思考なんだな。
 若し近づくことが有るとすれば、米国に「俺達の為に汗を掛け」と云われてからだな。
 もう完全に巷間言われるポチそのもの。
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