語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【心理】職場のストレス対処法 ~ABC理論、ストレス日記、四つのR、GNN~

2018年04月22日 | 心理
(1)ABC理論
 金太郎(かねたろう) さあ、今日はいよいよ本題の「ストレス対処法」だね!
 得子(とくこ) では、まず質問。一言でストレスっていっても、とらえ方次第で変化するって、知ってた?
 金 いや、知らなかった。
 得 それじゃあ、ストレスとうまくつき合うための「ABC理論」から説明するわね。
 金 ABC?
 得 そう。Aは「Activating event(出来事)」。Bは「Belief(信念・価値観)」で、その人なりの物事のとらえ方のことを指すわ。難しい言葉で、「認知」というのよ。最後のCは「Consequence(結果)」。出来事の結果として表れる感情や体調の変化のことをいうの。
 金 ABCの意味はわかったけど、どう関係しているの?
 得 ストレスの原因となる出来事(A)を受けた結果として、今の心身の状態(C)が決まると思いがちだけど、違うの。AとCの間には、Bというフィルターがあるのよ。

(2)「ストレス日記」
 金 難しくなってきたな。
 得 簡単よ。例えば、「プレゼン資料の内容について、上司から厳しく叱責(しっせき)された」という出来事があった、と仮定しましょう。金ちゃんなら、どう感じる?
 金 そりゃ落ち込むに決まってるでしょ。
 得 でも、例えば「僕の将来のことを考えて叱ってくれた」「人前ではなく、個室に呼んで叱ってくれた」と考えてみたらどう?
 金 ちょっと気が楽になるかな。
 得 でしょ? これは「認知を変える」というのよ。精神療法の一種「認知療法」を応用した考え方よ。
 金 でも、今の上司のことを考えると、そう簡単に前向きにはなれないなあ。
 得 うん、わかるよ。そこで一つの方法として、日記をつけることをお勧めするわ。その日のストレスの元になった出来事を書き出すの。そのときの怒りや落ち込みなど、浮かんだ感情のキーワードを点数化してみて。何日か経って、少し客観的に日記を読み返すと、その点数が下がっていると思うわ。新しい点数は、赤字で「上書き」してね。
 金 日記をつけるコツはある?
 得 数日後に日記を読み返すとき、「こうあるべきだ、と決めつけていないか」「悪いことを、針小棒大にとらえていないか」「完璧主義に陥っていないか」などを意識するの。これを繰り返していくと、自分の「考え方の悪い癖」がわかって、少しずつ前向きな考え方ができるようになるはずよ。

(3)「四つのR」と「GNN」
 金 よし、やってみよう! あとは、どんな対処法があるの?
 得 「四つのR」と「GNN」ね。
 金 何かアルファベットの頭文字が多いなあ(笑)。
 得 覚えやすいからね。四つのRは、(1)Rest(休息)、(2)Recreation(遊び・気晴らし)、(3)Relaxation(神経を休める)、(4)Retreatment(転地療法)のことよ。(1)は睡眠やマッサージ、(2)はスポーツやカラオケとかね。(3)は、例えば呼吸法やアロマセラピー、(4)は旅行とか森林浴など、非日常の場に身を置いてリフレッシュすることね。
 金 GNNは?
 得 それゃ、決まってるじゃん。義理、人情、浪花節だよ、人生は! 成果主義の導入などで、今の日本の会社には、そういう人間的な温かさが減ったのよ。無駄話の多い職場はメンタルの健全度が高い、ともいわれてるわ。実は、GNNが職場のストレス改善に一番大事かもね。

 取材協力・渡部卓さん(帝京平成大学現代ライフ学部教授、ライフバランスマネジメント研究所代表)
 (構成・佐藤陽)=全4回

 【職場のストレス対処法は?】
●ABC理論→同じストレスの元になる出来事でも、物事のとらえ方次第で、不快な感情は減らせる
●物事のとらえ方をポジティブに変えるため、「ストレス日記」をつける。怒りや落ち込みを点数化し、数日後に見直すことを繰り返す
●休息(レスト)や気晴らし(レクリエーション)など「四つのR」も重要
●義理、人情、浪花節の「GNN」も大切に

□「(知っ得 なっ得)ストレスとつき合う:2 どう対処すればいい?」(朝日新聞デジタル 2018年4月14日)を引用、かつ、小見出し追記
(知っ得 なっ得)ストレスとつき合う:2 どう対処すればいい?

【佐藤優】テロリズムの定義 ~対テロ(4)~

2018年04月22日 | ●佐藤優
 <ガノール氏はまず、「テロリズム」について定義することの意義について説明する。

  〈「テロリズム」という言葉が定義されない限り、それぞれ異なるテロ組織の共通理解も、テロ組織を非合法化することも、彼らの資金集めや国際的なマネー・ロンダリングを阻止することもできない。国際会議や地域レベルの国家間の話し合いなどを見れば、世界中がテロの脅威を真剣に受け止めていることはわかるが、そういった会合に参加する国々がテロリズムの定義で合意できなければ、意味のある結果は出ない。
  「テロリズムとは何か」について共通する考え方がなければ、テロリズムを支援する国家にその責任を問うことも、世界レベルでテロに対抗する方策を考え出すことも、またテロリスト、テロ組織とその支援者たちと効果的に戦うこともできない。さらにテロリズムの定義がなければ、反テロの国際条約を締結することは不可能だし、間接的にでもテロリズムに関係した国際条約が文書化・署名され、それを実施しようとしても機能しないだろう。
  その非常にわかりやすい例は、犯人の引き渡しである。全世界で多数の国が、さまざまな犯罪に関係した二国間、または多国間条約に署名している。それらの条約は普通、テロリズムだけに関係したものではなく、一般的な犯罪を犯した者が対象となっており、その多くは犯罪に政治的な背景があれば、引き渡す必要はないと明記している。テロリズムは常に政治的な背景がある。この抜け穴によって多くの国がテロリストを引き渡す義務を怠ってきた。〉(本書50頁) 

 なぜこのようなことを説明するかというと、行政官は、テロリズムが定義されることによって、テロ対策に縛りがかかることを嫌う傾向があるからだ。以下の指摘が興味深い。

  〈定義することに反対する者に言わせれば、政策決定者(安全保障エスタブリッシュメントを含めて)には共通したテロリズムの定義などなくてもまったく構わない。「テロリズムは見ればそれとわかる」が彼らの基本的な考え方だ。テロリストが行うのは本質的に強盗、放火、殺人といった刑法で禁じられた通常の犯罪行為と同じ、と彼らは主張する。つまり、テロリズムを定義して新たな犯罪を作らなくてもテロリストを罰することはできるということだ。〉(本書54頁) 

 ガノール氏は、テロリズムの政治性を強調する。プロシアのカール・フォン・クラウゼヴィッツは『戦争論』(初版1832年)で、「戦争は政治の延長である」と指摘したが、ガノール氏は「テロリズムも政治の延長である」と考える。

  〈テロリズムの基礎をなす目的は、常に政治的なものである。現存する政府を転覆させる、政府の形態を変える、政府の人事を変える、経済や社会その他の政策を修正させる、社会経済的なイデオロギーを広める、宗教的ないし国粋的な目標等々といった政治分野での目標を達成することを目的とする。
 政治的な目的なしに市民に暴力をふるうのは、純粋に刑事事件、凶悪犯罪あるいは単なる狂った人間の行為であり、テロリズムとはまったく異なる。こうした観点から、われわれはテロリズムを過激主義者の政治的反対運動と見るべきである。〉(本書58頁) 

 テロリズムは、バンダリズム(破壊主義)とは異なるのである。ガノール氏は、テロリズムに関して、以下の暫定的定義に従って議論を進める。

  〈テロリズムとは、政治目標(民族的、社会経済的、イデオロギー的、宗教的ほか)を達成するため、意図的に民間人に対して暴力を行使する闘争の一形態である。〉(本書65頁) 

 この定義を敷衍して、ガノール氏はこう説明する。

  〈この定義は3つの要素に基づいている。
  (1)行動の本質--暴力闘争。この定義では、暴力を行使しない行為はテロリズムにはならない(たとえばストライキ、非暴力デモ、納税者の反乱など)。
  (2)テロリズムの目標--常に政治的。政府の打倒、統治形態の変更、権力者の交代、経済、社会その他政策の変更、イデオロギーの拡散といった政治的な目標を達成することを目的とする。政治的な目標のない行為はテロリズムとは見なされない。政治目的のない民間人への暴力行為は単なる重犯罪、あるいはテロリズムとは関係のない狂気の行動に過ぎない。政治目標の根底にある動機は、テロリズムを定義する目的にはそぐわない。動機にはイデオロギー的なもの、宗教的なもの、社会経済的なもの、ナショナリズムその他さまざまだが、この点についてはストールとデュバルの『政治的テロリズム』の概念には動機は関係ないという指摘に注目したい。ほとんどの研究者はこのことを認識しておらず、さまざまな動機を挙げてテロリズムを説明しようとする傾向にある。
  (3)攻撃の標的--民間人。これでテロリズムをほかの形態の政治的バイオレンス(ゲリラ戦、民衆蜂起など)と区別することができる。提案した定義では、テロリズムは暴力的な政治活動が行われている地域に偶然居合わせた民間人たちが暴力に巻き込まれてしまった結果ではなく、はじめから民間人を殺傷するのが目的であることが強調されている。テロリズムは民間のターゲットの脆さ、また激しい恐怖とメディアへのインパクトを利用している。〉(本書65~66頁) 

 この定義は、現下、世界的規模で流行になっている「生きているテロリズム」を分析するにあたってとても有益だ。

□ボアズ・ガノール(佐藤優・監訳、河合洋一郎・訳)『カウンター・テロリズム・パズル 政策決定者への提
言』(並木書房 2018)の冒頭、佐藤優「監訳者のことば--テロリズムに関する実用書兼実務書」の「(4)テロリズムの定義」を引用

 【参考】
【佐藤優】政治(国家)指導者の能力 ~対テロ(3)~
【佐藤優】アート(芸術)としてのインテリジェンス ~対テロ(2)~
【佐藤優】ボアズ・ガノール氏との出会い
【佐藤優】「監訳者のことば--テロリズムに関する実用書兼実務書」の目次