<テロ対策では、平和な環境に慣れた日本人には、考えつかないような選択肢もある。ガノール氏は、端的にターゲット・キリング(暗殺)という言葉を用いるが、インテリジェンスの世界では、「中立化(nutralisation)」と表現されることが多い。暗殺の必要性についてガノール氏はこう説明する。
〈ターゲット・キリング(暗殺)は、対テロ政策の最先端に位置する攻撃行動である。ターゲット・キリングとは、テロリズムと戦っている国家が、組織内でテロ攻撃の立案、指揮、準備、要員のリクルート、訓練、支援などを行っている者たちを殺害するか、少なくともテロ活動に参加できなくなるようにする目的で攻撃することである。
個人に対する攻撃行動には、相互に関係し合ったふたつの問題がある。基準となるモラルの問題とこうした行為の有効性の問題だ。言い換えれば、個人に対して実施する攻撃行動の正当性である。「ターゲット・キリング」の有効性は、先に分析した攻撃行動の問題と密接に結びついている。そのため基準となるモラルについてまず考えてみる。
モラルの問題は文化によって異なり、その価値観には絶対性がないため、誰もが同意できるモラルを見つけるのは難しい。それは文化や時代によって変化する価値観であり、同じ社会の中でもグループ間や個人で変わってくる。〉(本書157頁)
モラルは文化によって拘束される。したがって、イスラエルの文化的文脈で書かれている本書の内容をそのまま日本に輸入することは不可能であるし、そのようなアプローチを取ってはならない。しかし、ガノール氏が本書で示した暗殺、行政拘束、マスメディアの自主規制について、感情的に反発するのではなく、なぜそのような方策を取る必要に民主主義国家であるイスラエルが迫られたのかについて論理的に考えることが重要だ。>
□ボアズ・ガノール(佐藤優・監訳、河合洋一郎・訳)『カウンター・テロリズム・パズル 政策決定者への提
言』(並木書房 2018)の冒頭、佐藤優「監訳者のことば--テロリズムに関する実用書兼実務書」の「(9)中立化(暗殺)工作」を引用
【参考】
「【佐藤優】レッドラインを設けない ~対テロ(8)~」
「【佐藤優】インテリジェンスの重要性 ~対テロ(7)~」
「【佐藤優】テロ対策と国民感情 ~対テロ(6)~」
「【佐藤優】戦争犯罪とテロリズムの区別 ~対テロ(5)~」
「【佐藤優】テロリズムの定義 ~対テロ(4)~」
「【佐藤優】政治(国家)指導者の能力 ~対テロ(3)~」
「【佐藤優】アート(芸術)としてのインテリジェンス ~対テロ(2)~」
「【佐藤優】ボアズ・ガノール氏との出会い」
「【佐藤優】「監訳者のことば--テロリズムに関する実用書兼実務書」の目次」
〈ターゲット・キリング(暗殺)は、対テロ政策の最先端に位置する攻撃行動である。ターゲット・キリングとは、テロリズムと戦っている国家が、組織内でテロ攻撃の立案、指揮、準備、要員のリクルート、訓練、支援などを行っている者たちを殺害するか、少なくともテロ活動に参加できなくなるようにする目的で攻撃することである。
個人に対する攻撃行動には、相互に関係し合ったふたつの問題がある。基準となるモラルの問題とこうした行為の有効性の問題だ。言い換えれば、個人に対して実施する攻撃行動の正当性である。「ターゲット・キリング」の有効性は、先に分析した攻撃行動の問題と密接に結びついている。そのため基準となるモラルについてまず考えてみる。
モラルの問題は文化によって異なり、その価値観には絶対性がないため、誰もが同意できるモラルを見つけるのは難しい。それは文化や時代によって変化する価値観であり、同じ社会の中でもグループ間や個人で変わってくる。〉(本書157頁)
モラルは文化によって拘束される。したがって、イスラエルの文化的文脈で書かれている本書の内容をそのまま日本に輸入することは不可能であるし、そのようなアプローチを取ってはならない。しかし、ガノール氏が本書で示した暗殺、行政拘束、マスメディアの自主規制について、感情的に反発するのではなく、なぜそのような方策を取る必要に民主主義国家であるイスラエルが迫られたのかについて論理的に考えることが重要だ。>
□ボアズ・ガノール(佐藤優・監訳、河合洋一郎・訳)『カウンター・テロリズム・パズル 政策決定者への提
言』(並木書房 2018)の冒頭、佐藤優「監訳者のことば--テロリズムに関する実用書兼実務書」の「(9)中立化(暗殺)工作」を引用
【参考】
「【佐藤優】レッドラインを設けない ~対テロ(8)~」
「【佐藤優】インテリジェンスの重要性 ~対テロ(7)~」
「【佐藤優】テロ対策と国民感情 ~対テロ(6)~」
「【佐藤優】戦争犯罪とテロリズムの区別 ~対テロ(5)~」
「【佐藤優】テロリズムの定義 ~対テロ(4)~」
「【佐藤優】政治(国家)指導者の能力 ~対テロ(3)~」
「【佐藤優】アート(芸術)としてのインテリジェンス ~対テロ(2)~」
「【佐藤優】ボアズ・ガノール氏との出会い」
「【佐藤優】「監訳者のことば--テロリズムに関する実用書兼実務書」の目次」