語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【南雲つぐみ】ドライアイを胃薬で治す

2018年04月19日 | 医療・保健・福祉・介護
 「新聞の文字がチラチラして見えにくい」「まぶしくて、目がすぐに疲れる」という目の不調に悩まされていたKさん(35)。疲労用の目薬を使っても良くならず、眼鏡店で視力を測ってもらっても、視力は1.2と低下していなかった。
 いくつかの眼科で受診し、ようやくドライアイだとわかったという。眼科専門医の石岡みさき医師(みさき眼科クリニック・東京)は、「ドライアイは、目の表面を覆っている涙の層が不安定になるため光が乱反射して見えにくくなる。目の乾きよりも疲れ目の症状を感じる人が多い」という。
 Aさんは点眼薬「ムコスタ」を処方されると徐々に見えにくさが和らぎ、目の疲れを感じにくくなったそうだ。「ムコスタ」はもともと胃薬の名前で、胃粘膜を保護するムチンを増やして、胃潰瘍や胃炎を治療するそうだ。目の粘膜にも同じように作用し、ドライアイを改善するという。同様の効果の点眼薬に「ジクアス」がある。
 「どちらも、2週間から1カ月間きちんと点眼を続けることで効果の出てくる人が多い」(石岡医師)とのことだ。

□南雲つぐみ(医学ライター)「胃薬から目薬 ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2017年7月16日)を引用

【ターナー】ラスキンとの出会い ~ターナーの評価の定着~

2018年04月19日 | 批評・思想
 <1840年代半ば以降の、さらには没後のターナーの名声は、ジョン・ラスキンの存在が無ければかなり違ったものになっていたろう。>
 <のちに彼は、『近代画家論』全5巻(1843-60年刊行)を通して、ターナー擁護の論陣を張ることになる。ラスキンにとってターナーは、「自然の全体系を写し取った唯ひとりの人間であり、この世に存在した唯ひとりの完璧な風景画家」であった。彼の芸術は、自然の表層を正確に描写するだけでなく、見る者の精神をより深い思索へと導くからこそ重要である、とラスキンは主張した。ターナー本人はラスキンの解釈を全面的に肯定していたわけではなく、二人のあいだには常に一定の距離があった。とはいえ、ヴィクトリア朝時代(1837-1901)の最大の美術批評家となったラスキンの支持を得たことは、ターナーの評価に大きな影響をおよぼし、画家自身もそのことを十分に認識していたらしい。>

●ターナー擁護の起爆剤となった問題作《ジュリエットと乳母》
 <前景右手に、バルコニーにもたれたジュリエットが描かれている。『ロミオとジュリエット』の名高いバルコニーの場面を、ターナーがなぜヴェローナではなくヴェネツィアに設定したのかは明らかではない。おそらく彼は、ヴェネツィアの伝統的なカーニヴァルの夜の賑わいを、キャピュレット家の仮面舞踏会のそれに重ね合わせたのであろう。眼下に見えるサン・マルコ広場には、美しく着飾った大勢の人びとが繰り出し、右手遠方の空には花火が上がっている。この不思議に幻想的な画面は、「色彩を媒介にして想像力に訴えかけてくる」と称賛される一方で、「太陽の光でも、月の光でも、星の光でも、火明かりでもない奇妙なごたまぜ」と激しく非難された。この批判が、17歳のラスキンを奮い立たせたのである。>

□荒川裕子『もっと知りたいターナー 生涯と作品』(東京美術、2017)のpp.58-59「ラスキンとの出会い」から一部引用

 【参考】
【ターナー】時の移ろいと歴史の変遷への思いを投影《戦艦テメレール号》 ~思いを表現するテクニック~
【ターナー】の松と『坊っちゃん』

 J・M・W・ターナー《ジュリエットと乳母》1836年 油彩、カンヴァス アマリア・ラクロゼ・デ・フォンタバート・コレクション、ブエノス・アイレス
 

【佐藤優】トランプvs.インテリジェンス・コミュニティー ~『炎と怒り』(その2)~ 

2018年04月19日 | ●佐藤優
★マイケル・ウォルフ(関根光宏、藤田美菜子、ほか・訳)『炎と怒り--トランプ政権の内幕』(早川書房、2018)
 (承前)

 (5)当然、側近たちもトランプ氏を馬鹿にしている。本書によれば、スティーヴ・ムニューシン財務長官とラインス・プリーバスは「間抜け」と言い、ゲーリー・コーンは「はっきりいって馬鹿」、H・R・マクマスターは「うすのろ」と言った。
 にもかかわらず、トランプ氏のさまざまな愚行を側近は諌めない。この点については、スティーヴ・バノン・前大統領首席戦略官兼上級顧問【注2】の分析が本質を突いている。
 <ただひたすら「呆れてものがいえない」と繰り返すメディアは、どうして、事実は違うということを明らかにするだけではトランプを葬り去れないのかを理解できずにいた。(略)
 バノンの見解はこうだった。(一)トランプはけっして変わらない、(二)トランプを無理に変えようとすれば、彼のスタイルが制約されることになる、(三)いずれにしてもトランプの支持者は気にしない、(四)いずれにしても、メディアがトランプに好意を寄せることはない、(五)メディアに迎合するより、メディアと敵対したほうがいい、(六)情報の正確性や信憑性の擁護者であるというメディアの主張自体がいんちきである、(七)トランプ革命とは、型にはまった思い込みや専門的意見への反撃である。それなら、トランプの態度を矯正したり抑えつけたりするよりも、そのまま受け入れたほうがよい。
 問題は、言うことはころころ変わるのに(「そういう頭の構造の人なんですよ」と内輪の人間は弁明している)、トランプ本人はメディアから受け入れられることを切望していたという点だ。しかし、(略)トランプが事実を正しく述べることはけっしてないだろうし、そのくせ自分の間違いをけっして認めないので、メディアから認められるはずはなかった。次善の策として、トランプはメディアからの非難に対して強硬に反論するしかなかった>
 一言で言えば、トランプ氏は幼児的な全能感を克服できていない人物だ。だから、正面から諌めても逆効果で、阿(おもね)りながら歪曲された情報を入れることによって操作した方がいいと側近たちは考えているのだ。

 (6)本書の、トランプ政権と米国のインテリジェンス・コミュニティーの関係に関する考察が秀逸だ。
 <当時、よくクシュナーのもとを訪れるようになっていた賢者の一人がヘンリー・キッシンジャーだった。かつて、リチャード・ニクソンに対して官僚と情報機関が反乱を起こしたとき、キッシンジャーはその一部始終を最前列で見ていた。彼はクシュナーに、新政権が直面する恐れのある、さまざまな災いを講釈してみせた。
 “闇の国家(ディープ・ステイト)”とは、情報網による政府の陰謀を指す左翼と右翼の概念で、(略)いまではトランプ陣営の専門用語となった。トランプは“闇の国家”という凶暴なクマをつついてしまったというわけだ。
 “闇の国家”のメンバーには、次のような名前が挙げられていた。CIA長官ジョン・ブレナン、国家情報長官ジェームズ・クラッパー、退任間近の国家安全保障問題担当大統領補佐官スーザン・ライス、さらにライスの側近にしてオバマのお気に入りだったベン・ローズ。
 そして、次のようなシナリオが描かれた--情報界の手先は、トランプの無分別な行動やいかがわしい取引に関する由々しき証拠に通じており、トランプの名を傷つけ、辱(はずかし)め、破滅させるために戦略的に情報をリークし、トランプのホワイトハウスを機能不全に陥らせるつもりだ。
 (略)トランプは選挙期間を通してずっと、当選後はいっそう強硬に、アメリカの情報機関は役立たずの嘘つきだと批判していたからだ。つまり、CIA、FBI、NSC(国家安全保障会議)をはじめとする17の情報機関をまとめて敵に回していたのである(もっとも、トランプ本人は「何も考えずに言っていた」と側近の一人は言っている)。保守本流の見解とは相反するトランプの数多くの発言のなかでも、これはとりわけ大きな問題をはらんでいた。アメリカの情報機関に対するトランプの批判は、(略)トランプ自身とロシアの関係にまつわるいわれのない情報を流したことまで、多岐にわたっていた>

 (7)共和党、民主党にかかわらず、米国大統領は、CIA(米中央情報局)やNSA(国家安全保障局)などインテリジェンス・コミュニティーとの関係には細心の配慮を払ってきた。インテリジェンス情報が、国益にとって不可欠であるとともに、敵に回したら大統領を失脚させる情報戦を展開する力をインテリジェンス・コミュニティーは持っている、という認識があるからだ。
 これに対して、トランプ大統領は情報機関をいわば「使用人」と見ている。こういうメンタリティは、ロシアのエリツィン元大統領や田中真紀子・元外相に通じるものだ。
 トランプ政権下の米国は、ポピュリズムとインテリジェンス機関の暗闘が繰り広げられている場でもあるのだ。

 【注2】2017年8月18日に辞任した後も大統領とは良好な関係を維持していたが、『炎と怒り』のインタビューに応じたことがトランプ氏の逆鱗に触れ、絶交状態になった。

□佐藤優「マイケル・ウォルフ『炎と怒り』/日本はトランプ大統領に命運を託せるのか? ~ベストセラーで読む日本の近現代史 第56回~」(「文藝春秋」2018年5月号)

 【参考】
【佐藤優】日本はトランプ大統領に命運を託せるのか? ~マイケル・ウォルフ『炎と怒り』~