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語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【後藤謙次】前代未聞の「トランプ解散」へ ~日程に伴う大きな北朝鮮リスク~

2017年09月25日 | 社会
 <それでは安倍はいつ決断したのか。(中略)
 (安倍を)一気に臨時国会召集日の9月28日の冒頭解散に駆り立てたのは「山尾ショック」だ。
 一時は9月1日の民進党代表選で誕生した前原誠司新体制の幹事長に内定した元政調会長の山尾志桜里。ところが、「民進党の救世主」とみられていた山尾の若手弁護士とのスキャンダルが発覚した。山尾は一転して離党に追い込まれる。9月7日夜のことだった。これをきっかけに安倍が動く。自民党選対幹部に電話を入れた。
 「詳細な選挙情勢調査をやってもらいたい」>

 <一方、安倍は翌11日昼、連立与党のパートナーである公明党代表の山口那津男と首相官邸で会談する。翌12日から山口がロシアを訪問するため、その直前に解散を検討していることを伝えるのが目的だった。この会談を受けて公明党の支持母体である創価学会が全国に指令を発した。
 週末の16日土曜日、創価学会は全国13ブロックに分けた「方面長会議」を緊急招集した。14年の衆院解散前と同じ手順が踏まれた。>

 <「9月28日解散、10月10日公示、22日投開票」
 まさしく「初めにスケジュールありき」。トランプの来日日程から逆算して決まった。11月5日に新内閣でトランプを迎えるには、22日投開票がぎりぎりのタイムリミット。首相指名選挙を行うための特別国会を召集するには最短でも10日が必要だからだ。現に安倍は過去2回の衆院選挙後の特別国会を10日後に召集している。一部に報じられた29日投票ではトランプの来日には間に合わない。>

 <ただし、この選挙日程は大きな「北朝鮮リスク」を伴う。10月10日は朝鮮労働党の創設記念日。北朝鮮が最初の核実験を行ったのは06年10月9日。創設記念日の前日だった。10月18日には中国共産党大会が開かれる。北朝鮮は昨年9月に北京で開かれたG20首脳会議以来、中国の国家主席、習近平の晴れ舞台を狙うかのように弾道ミサイルの発射などの挑発行為を繰り返してきた。
 次期衆院選挙の最中に北朝鮮が何もせずにやり過ごすだろうか。ましてや国連総会に出席したトランプが行った9月19日の演説はこれまでにない激越なものだった。>

 <「(韓国の首都)ソウルを重大な危険にさらさずに、北朝鮮に軍事力を行使する選択肢はある」
 過激な演説に北朝鮮が強く反発するのは避けられまい。衆院選挙中に北朝鮮が弾道ミサイルを発射し、Jアラートが鳴るような事態になった場合に選挙戦はどうなるのか。
 「少なくともNSC(国家安全保障会議)メンバーは選挙遊説のために首都圏を出ることはできない」
 首相の安倍を筆頭に菅、外相の河野太郎、防衛相の小野寺五典らの全国遊説がなくなる異例の選挙戦になるのは確実だ。それどころか米朝の不測の事態にどう備えるかというこれまで経験したことがない衆院選挙になるのは確実だ。にもかかわらず、あえて解散に踏み切るのは、今以上に北朝鮮の危機が忍び寄るからだという。
 「国連の北朝鮮制裁の効果が出てくる年末から年明けにかけ、緊張がピークを迎える。そうなれば解散ができるタイミングはほとんどなくなる」(政府高官)
 安倍の思惑通り奇襲が奏功するかどうか。前代未聞の「トランプ選挙」の幕が上がる。>

□後藤謙次「前代未聞の「トランプ解散」へ/日程に伴う大きな北朝鮮リスク ~永田町ライブ!No.357」(「週刊ダイヤモンド」2017年9月30日号)から一部引用
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 【参考】
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【後藤謙次】急浮上する電撃解散説 ~ダブル補選と内閣支持率急落の絡み合い~
【後藤謙次】反自民の受け皿になれないし、小池知事との連携も困難 ~民進党~
【後藤謙次】内閣改造は「専守防衛」でも活路が見えない「守りの安倍」
【後藤謙次】経世会(額賀派)・宏池会(岸田派)・石田茂 ~都議選大惨敗後の動き~
【後藤謙次】安倍首相の改憲案の前倒し発言 ~「年内解散」に向けた思惑~
【後藤謙次】支持率急落で首相が「反省の弁」 ~それでも止まらぬ内部文書流出~
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【本】生命はいかに「調節」されるかを豊富な事例で解き明かす ~『セレンゲティ・ルール』~

2017年09月25日 | 批評・思想
★ショーン・B・キャロル(高橋洋・訳)『セレンゲティ・ルール--生命はいかに調節されるか』(紀伊國屋書店 2,200円)

 (1)東アフリカ全域で家畜に牛痘の予防接種をしたところ、タンザニアのセレンゲティ国立公園内の水牛とヌーが急増した。特に、ヌーは大量の草を消費し、そのために乾期の火災が減少した。若い苗木の生長を抑える火災が減ったために植生が多様化し、森林が拡大して餌が増えたことからキリンも急増した。

 (2)われわれを取り巻く環境は、こうした複雑な「調節」の関係に満ちている。
 ヌーが増えたため捕食動物のライオンやハイエナが増えたというのは分かりやすい。
 だが、草食動物のキリンも増えたというのは意外である。
 草を食べるバッタやイナゴは減ったが、植生が多様化したためにチョウの種類が増えたというのも、かなり意外だ。

 (3)促進と抑制の調節メカニズムは、実は、われわれの体内を支配する原理でもある。
 高脂血症は、「レダクターゼ酵素」の活動によって血中のLDL(いわゆる悪玉コレステロール)が過剰となるため起こる。
 健康な体内では、LDLの増加は細胞のLDLレセプターを活性化させ、同時にレダクターゼ酵素の活動を抑制している。
 日本の製薬会社で研究していた遠藤章は、レダクターゼ酵素の活動を抑制する物質が高脂血症の治療薬になるとの発想から菌類を研究して、「スタチン」を発見した。製薬会社内部の事情など紆余曲折があったものの、それが同時にLDLレセプターを増加させるとの発見も加わり、画期的な発明がもたらされた。各種の新薬が普及した結果、心臓病による米国人の死亡率は推定で約6割減った。

  (4)今日、われわれは複雑で精妙な調節のメカニズムを知らねばならない。そして、得られた知識を前向きに生かし、生活を改善していかねばならない。これが、本書の主要なメッセージである。
 絶滅に瀕した魚類を河川や湖沼にただ放流しても、調節メカニズムへの洞察抜きでは、対策になりにくい。生態系の回復には、食物連鎖の上方や下方に働き掛けるといった知恵が必要なのだ。

 (5)「自然のままがよい」「自然を取り戻そう」という言説を、よく耳にする。だが、ありのままの自然などないのだ。本書が生き生きと描くのは、いったん絶滅したオオカミを放ったことによるイエローストーン国立公園(米国)の生態系の回復であり、内戦で破壊されたゴンゴローザ国立公園(モザンビーク)の再構築であり、天然痘の撲滅であり、癌の新たな治療法の開拓だ。全て人為の所産である。
 自然をどう保つかは、やはり人類の知恵に懸かっている。感動的な数々の事例と読みやすい文章で、本書はそれを語りかけている。

□玉井克哉(東京大学教授・信州大学教授)「生命はいかに「調節」されるか/豊富な事例で解き明かす好著  ~私の「イチオシ収穫本」~」(「週刊ダイヤモンド」2017年9月30日号)
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