語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【後藤謙次】築地市場の移転延期の決断が小池都知事の手足を縛るリスク

2016年09月13日 | 社会
 (1)8月31日、小池百合子・東京都知事が最初の政治的決断を下した。築地市場の江東区豊洲への移転を延期する方針を表明した。都の計画では11月7に移転。それを前提にさまざまな準備が進んでいた。
 確かに、移転先の豊洲新市場の土壌汚染問題に対する不信は根強く存在する。しかも11月18日から8回目の水質検査が予定されており、その検査結果を待たずに移転するのは大きな矛盾だといえる。小池の「延期」にも理がある。
 検査結果が出るのは年明けとされ、実現は早くても2017年2月以降にずれ込む見込み。
 場合によっては5月の大型連休明けになるという噂もある。【築地市場がある中央区関係者】

 (2)今度は「延期」のリスクを小池が抱え込む。それを承知で小池はなぜあえて築地移転問題に一石を投じたのか。8月2日の就任記者会見で小池はこう明言した。
 ①「いったん立ち止まり、市場関係者の話を聞く時間を設けたい」
 その上で築地と豊洲の両方を視察した後、移転是非の判断の時期に言及した。
 ②「リオ五輪の閉会式出席後、できるだけ早く結論を出したい」
 ①、②を反故にすれば、小池が都知事選で獲得した291万票という大量票の価値が一気に消えかねない。この圧勝の大きな要因は、都政に絶大な影響力を持つ都議会自民党を「ブラックボックス」と断じたことにあったといっていい。
 それだけに、都知事選ですっかり「敵役」に仕立てあげられた自民党東京都連幹部は小池に新たな「敵意」をむき出しにする。
 「新しい対立軸をつくって都議会での主導権を握ろうとしているのではないか。来年には都議選が予定されているため、都連が強力な反対には出ないと高をくくっているとしか思えない」

 (3)ただし、今度の築地移転問題は「抵抗勢力vs.改革派」の図式では割り切れない問題をはらんでいる。
 <例>「食の安全・衛生」については築地も問題を抱える。関係者も「築地と豊洲の比較論が出てきたら収拾がつかなくなる」と疑問を呈している。
 加えて、築地移転で問題を一層複雑なものにしているのが、密接に絡み合う2020年の東京五輪だ。築地の対岸にある中央区晴海と都心部を結ぶ「環状2号線」の建設が予定されている。晴海には選手村の建設が決まっている。2号線は五輪の運営には欠かせない基幹道路と位置づけられる。その2号線の一部が移転後の築地市場の跡地に建設されることになっている。
 遅くとも年内に着工しなければ五輪開会式に間に合わない。【五輪関係者】
 建設の工期には「まだ少しのりしろがある」という見方もあるにせよ、楽観できる状況ではない。五輪を主催するのは東京都。築地市場の豊洲移転延期の決断が小池の手足を縛ることになりかねない。

 (4)それだけではない。「判断の先送り」によって、小池にこれまでなかった「敵」が生まれるかもしれない。移転「延期」が「中止」につながることへの期待感を生むからだ。築地市場の仲卸の中にはもともと移転に反対だった業者も多い。いったん諦めた「移転反対」の思いに再び火をつける可能性がある。
 しかし、小池は記者会見で「移転延期は中止を含むものか」との問いに「検査結果を精査する」と述べただけで言葉を濁した。結局「移転」となれば反対派の不満が増幅する。逆に移転賛成派には「延期」で失望が広がる。

 (5)移転延期に伴う損失の補填など新たな問題は、小池に対する不信の種をまくことにつながる。
 中央区は、築地移転を前提に着々と準備を進めてきた。いわゆる場外市場内に水産物と青果を扱う仲卸業者がテナントとして入所する「築地魚河岸」とネーミングされた施設を建設した。築地移転に先立って10月15日にオープンさせる方針だったが、入所予定の仲卸業者には「家賃の二重払いになる」という声もあり、不安が広がっている。
 矢田美英・中央区長も予定の変更を示唆した。「築地魚河岸」の開所時期について、もう一度関係者と相談したいと。

 (6)小池は、8月31日の記者会見で延期の理由について、①豊洲新市場の安全性への懸念、②建設費用の増大、③情報公開の不足・・・・の三点を指摘し、繰り返し、「都民ファースト」の言葉を口にした。その上で、こう力説した。
 「小池都政におきましては、『既定路線』『一度決めたから、造ってしまったから何も考えなくてよい』という考え方は採りません」
 築地移転問題を語りながら、同時に都知事としての「所信表明」でもあった。小池は9月1日に「都政改革本部」を発足させた。築地移転問題についても、「市場問題プロジェクトチーム」を設置する方針を明らかにしている。
 いずれも小池が選挙中から指摘してきた「ブラックボックス(自民党都連)」に対する「挑戦状」といっていいかもしれない。今年の第3回定例都議会は9月28日から始まる。築地移転問題の主戦場は都議会に移る。

□後藤謙次「築地市場の移転延期の決断が小池都知事の手足を縛るリスク ~永田町ライブ!No.306」(「週刊ダイヤモンド」2016年9月10日号)
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