語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【後藤謙次】幹事長の入院が人事に波及、「ポスト安倍」めぐり早くも火花

2016年07月26日 | 社会
 (1)7月14日、東京都知事選が告示された(投票日は31日)。
 選挙の現場を尻目に、安倍晋三・首相は一足早く夏休み入りした(24日まで)。北朝鮮の相次ぐミサイル発射、トルコのクーデター未遂など国際社会は激動しており、党内から不満が聞こえる。
 7月16日、谷垣禎一・自民党幹事長が自転車転倒事故を起こし、政界全体を驚かせた。谷垣は野党自民党の総裁時代にも転倒事故を起こしている。搬送先は、聖路加病院(東京・中央区)。検査入院と発表されていたが、17日になって谷垣の転院の事実が伝わると一変した。転院先の総合病院(東京・港区)に脊椎治療で日本を代表する名医がいたからだ。
 7月19日、出席が予定されていた自民党総務会に谷垣は姿を見せず、同時に脊椎の手術を受けたという話が流れた。
 情報がきちんと公開されずにいたことで、脊椎に損傷があるのではないか、などの憶測が飛び交い、混乱に拍車をかけた。

 (2)自民党幹事長は、政権ナンバー2の権限をもつ。かつて田中角栄は自民党幹事長の重みをこう語っていた。「政党政治かにとって最高の栄誉は総理になることではない。政権与党の幹事長になることだ」
 国会、党内運営の最高責任者が幹事長だ。ましてや今の時期は参院選が終わった直後で、臨時国会の召集時期や国会内の人事、さらに安倍が企画している党役員人事、内閣改造など重要決定事項が目白押しだ。いずれもが「安倍-谷垣会談」から始まる。
 その谷垣がけがで不在だ。憶測と思惑が絡み合い、自民党内でさまざまな動きが表面化した。中でも注目はポスト安倍の動きを誘発させたことだ。
 今や谷垣を凌ぐほど存在感を発揮する二階が口火を切った。
 「(安倍が)余人をもって代え難しという状況が生まれてくれば、対応を柔軟に考えていくのは大いに検討に値する。(総裁任期延長の)必要があると大方が認めれば、延長も考慮に入れていいのでは」
 これに対し、安倍と距離を置く野田聖子・前総務会長は反対の立場を鮮明にした。
 「かつて相当人気のあった小泉純一郎・元首相ですら、任期を守った。安倍首相も守る人だ」
 早くも2年後の自民党総裁選をめぐって火花が散った。
 今のところ安倍は静観の構えを崩さない。

 (3)幹事長の入院によって政治の流れが大きく変わった、という歴史がある。
  (a)1984年10月、田中六助・幹事長(当時)が病気入院した。幹事長不在の中、中曽根康弘・首相(当時)の追い落としを図った「二階堂擁立劇」が表面化した。中曽根を退陣に追い込み、二階堂進・副総裁(当時)を首相にしようとする企てだった。この“クーデター”を田中に代わって封じたのが、金丸信・総務会長(当時)。金丸は中曽根を守った論功でそのまま幹事長に昇格した。これを契機に金丸が政権運営の主導権を握り、盟友だった竹下登の総理総裁への道を切り開くことになった。
  (b)1989年4月、竹下政権末期、竹下が宿願の消費税導入を果たしたものの、リクルート事件に直撃され、政権は弱体化し、限界にきていた。とどめをさしたのが、安倍晋太郎・幹事長(当時)の入院だった。病名は「胆管結石」。竹下は退陣表明に追い込まれ、安倍幹事長代行職に、幹事長代理だった橋本龍太郎を指名した。橋本は、その後竹下の後を継いだ宇野宗佑政権の幹事長に就任した。急場しのぎに見えながら、幹事長の代役はそのまま幹事長に就くという流れが生まれた。幹事長という政権中枢のポストを動かすと、政権全体のバランス、カラーが崩れるからだ。 

 (4)安倍も、父、晋太郎の病気入院当時の状況と重ねたに違いない。幹事長代行の細田博之に谷垣の代行を委ねた。細田は事実上の安倍派といっていい細田派会長で、幹事長経験者でもある。安倍にとって最も使い勝手のいい人材だ。そのまま幹事長への昇格もあれば、岸田文雄・外相の登用など多くの選択肢を手にした。
 これにより、安倍は「ポスト安倍」をにらんだ政局絡みの人事で、手の内を明かさずにこの局面を乗り切ることが可能になった。むろん谷垣を続投させるシナリオもあるが、党内の大勢は幹事長交代を前提に動き始めている。安倍にとって谷垣はあらゆる面で「安全牌」だったが、転倒事故という予期せぬ自体が政治の歯車を大きく動かすことになった。

□後藤謙次「幹事長の転倒事故が人事に波及 「ポスト安倍」めぐり早くも火花 ~永田町ライブ!No.301」(「週刊ダイヤモンド」2016年7月30日号)
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 【参考】
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