語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【後藤謙次】政府与党内の二つの見方 ~北方領土交渉は頓挫?~

2016年12月07日 | 社会
 (1)「トランプをTPPに引き戻すとなると、相当の代償を求められるのは確実だ」(政府高官)
 日米同盟を基本に組み上げる日本外交の戦略見直しは必至。トランプという予期せぬ“触媒”による“化学変化”の兆しが他の外交でも見え始めた。わけても注目されるのは、オバマ米大統領との確執を続けたプーチン露大統領が北方領土交渉をめぐってどう出てくるのか、だ。
 政府与党内に二つの見方がある。
  (a)米露対立を背景に日露関係の前進に難色を示してきた米国の圧力がなくなり、交渉がやりやすい環境が生まれる。長く北方領土問題に関わってきた鈴木宗男・新党大地代表も、そう見る。「ヒラリー・クリントンが当選していたら相当圧力をかけてきたはず。その障害がなくなるので交渉は円滑に進む」
  (b)米露関係が厳しいからこそ日本が介在する余地があり、トランプとプーチンによる英露関係の改善が進めば日本の価値が低下する。

 (2)(1)の二つの見方が交錯する中で行われた安倍・プーチン会談、於ペルー・リマ。
 12月15日には山口県長門市(安倍の地元)で安倍・プーチン会談が予定されており、ここで大きく交渉を進展させるのが当面の日本外交の基本戦略だった。しかし、トランプの登場を契機に、ロシア側が次々と否定的なシグナルを送り始めた。
 世耕弘成・経済産業相がまとめつつある対露経済協力プランのロシア側カンターパートだったウリュカエフ・露経済発展担当相がリマ会談の直前に巨額賄賂容疑で刑事訴追された。ロシア国内の、領土交渉の進展に反対する勢力の存在をうかがわせる。
 こうした予兆が示したとおり、リマ会談ではこれまでの友好ムードから一転して、プーチンは日本側に厳しいボールを投げ込んできた。プーチンは、自らこの提案の中身を記者会見で明らかにした。リマ発の共同通信電はこう伝える。
 「北方四島での共同の経済、人道面の活動について協議した」
 「クリール諸島(北方領土を含む千島列島)は今、ロシアの主権がある領土だ。(北方四島)全てが交渉の対象だ」
 この意味するところは、北方四島では日露間の「共同経済活動」を行うが、それはロシアの法制度下で領土の帰属を決めるというものだ。
 この考えは、日本で共有されている領土交渉をめぐる最大公約数とは大きく懸け離れている。「2島プラスアルファ」が交渉の出発点という日本側の認識への“挑戦状”ともいえる。日本側が危惧する経済協力を“食い逃げ”される懸念が、早くも浮上した。

 (3)プーチンとの会談後、安倍は表情を曇らせながら「(領土交渉は)そう簡単ではない」と述べた上で、「一歩一歩」を4回繰り返した。
 もはや「長門会談」で交渉が劇的に進展する可能性は消えたと見ていい。
 ただし、政府関係者は「プーチンが手ぶらで来ることは考えにくい。そんなことをすれば安倍総理との信頼関係が瓦解する」とも指摘する。
 順風満帆の航海を続けてきた安倍が得意とする外交で、大きな試練に直面した。トランプとプーチン、そして習近平・中国国家主席のそれぞれの立ち位置を見極めるまで、安倍は迂闊には動けない。

□後藤謙次「プーチンが突き付けた“挑戦状” 日本外交の戦略見直しは必至 ~永田町ライブ!No.317」(「週刊ダイヤモンド」2016年12月3日号)
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