語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【後藤謙次】経世会(額賀派)・宏池会(岸田派)・石田茂 ~都議選大惨敗後の動き~

2017年07月10日 | 社会
 (1)「問題発言をした大臣(稲田朋美・防衛相)を選挙中に首にしておけば、自民党はこんなに負けはしなかった。このままでは自民党は駄目になる。こういうタイミングでこの種の会合が開かれたことを好機と捉えて奮起をしてほしい」
 東京都議会議員選における自民党大惨敗の余韻冷めやらぬ7月4日夜、「プリンスパークタワー東京」(東京・芝)。
 かつて「政界の狙撃手」といわれた野中広務(91)・元自民党幹事長が現役時代そのままに吠えまくった。

 (2)この日は、竹下登・元首相が旧田中派の大多数を引き連れて「経世会」(竹下派)を発足させてから満30年に当たる“派閥結成記念日”。経世会は、その後「平成研究会」(現・額賀派)と名称を変え、今日に至るが、その存在感は見る影もない。
 そこで、「30周年を凋落する平成研の復活のきっかけにしたい」(同派幹部)と、いわば再起に向けた“決起大会”にする狙いがあった。このため、現職の額賀派所属議員に加え、野中を筆頭に綿貫民輔・元衆院議長、津島雄二・元厚相/前平成研会長ら派閥OB、さらに橋本龍太郎、小渕恵三の2人の元首相夫人がゲストで招かれた。
 野中と同様に、津島も苦言を呈した。
 竹下は、経世会を足場に首相の座に上り詰め、日本の税制史上初めて消費税導入を実現させた。旧大蔵官僚の津島は、安倍晋三・首相の2度にわたる消費増税の延期に我慢がならなかったのだろう。現職議員の奮起を促しながら、安倍政権にも批判の矛先を向けた。
 「国民を怒らせる原因は、首相官邸からしか声が出ていない。なぜ額賀派として意見を言わないのか」
 確かに都議選(7月2日)の結果は、「安倍1強」に対して都民が突き付けた「レッドカード」といっていい。自民党の獲得議席は定数127に対してわずか23議席。選挙前の57議席からの急降下は、誰も予想できなかった歴史的大惨敗だった。不遇をかこつ額賀派が反安倍ののろしを上げるタイミングでもあった。
 ところが、派閥会長の額賀福志郎のあいさつには、安倍に対する批判は全くなかった。むしろ安倍支持の考えを鮮明にした。
 「党内抗争で自民党が混乱している印象を与えるのはいけない」
 そんな額賀に対する派内の不満は今や爆発寸前の状態といえる。
 その象徴が、この日の会合に1人のキーマンの姿がなかったことだ。竹下登の元秘書から参院議員になり、“参院のドン”と呼ばれた青木幹雄だ。青木は政界を引退した今も、参院額賀派というよりは参院自民党全体に大きな影響力を持つ。
 その青木が欠席した理由は言うまでもなく、額賀に対する牽制にあった。約1年前、青木は額賀に派閥会長の座を退くよう申し渡しをしている。青木の思いは竹下登の実弟で現自民党国会対策委員長、竹下亘へのバトンタッチにある。
 「竹下派」の復活だ。竹下が会長になれば、派閥を離れた議員が再結集する可能性が高いからだ。
 30年前に竹下登が経世会を発足させた際に結集したのは114人。竹下が所属した旧田中派の約8割に当たる。この参加者の中から橋本、小渕の2人の首相が誕生した。その後自民党を出た羽田孜、鳩山由紀夫も首相になっている。
 このほか、二階俊博・現幹事長、石破茂・元幹事長、小沢一郎・現自由党共同代表、梶山静六、渡部恒三・元衆院副議長や鈴木宗男・新党大地代表らを輩出した。このため、この“同窓会”には今も健在の小沢や渡部、鈴木らも呼んで「安倍1強を牽制すべき」との声が旧竹下派の秘書グループには存在した。
 しかし、今や「牙を抜かれたトラ」になった額賀にはそれだけの度胸や覚悟はなかった。

 (3)その経世会の全盛時に、対極にいたのが安倍晋三の実父の安倍晋太郎・元外相が率いた旧安倍派だった。
 晋太郎はトップリーダーの座を目前にして他界したが、小渕の病気退陣後に首相になった森喜朗以降、小泉純一郎、そして安倍が2度にわたって首相となり、今日の「安倍1強体制」を築くことになる。栄枯盛衰は世の常とはいえ、30年を経て政界の勢力図がこれほど激変すると誰が想像したか。

 (4)一方、安倍に対するスタンスを額賀とは微妙に変えたのが、「宏池会」(岸田派)会長の岸田文雄・外相だ。岸田派は、池田勇人・元首相に始まる宏池会を引き継ぐ党内きっての名門派閥。その宏池会も4日、派閥創設60周年を記念してシンポジウムを開いた。この中で岸田はポスト安倍への意欲を強くにじませた。
 「政権を取ることを考えた場合、大事なのは忍耐や謙虚さだ。政治が国民から信頼を得る上で重要なポイントだ」
 池田が政権を引き継いだのは、安倍の祖父、岸信介。岸は日米安保条約の改定などの実績を残したが、その強引な手法に反発も強かった。
 この反省から池田は「低姿勢」と「寛容と忍耐」をスローガンに掲げた。岸田の「忍耐と謙虚」は明らかに池田を意識したものだろう。「ポスト安倍への名乗り」とまではいえないが、ジワリと足を踏み出したのは間違いない。

 (5)石破茂は、都議選後、岸田よりさらに大きく踏み込んだ。
 「街頭で一番厳しい雰囲気を感じたのは候補者。都民の反応はこうだったというところから始めるべきだ。街頭に立つと、駆け寄ってきて政権に不満を言う人が相当数いた」

 (6)党内の勢力は依然として安倍支持が圧倒的だ。しかし、溜まっていた「不満のガス」が、少しずつ水泡となって水面から見えるようになってきた。
 安倍にとって最大の痛手は、首相の大権である衆院解散権の行使についてフリーハンドを失ったことだ。少なくとも年内解散は消えた。安倍は二階の幹事長続投でこの難局を乗り切る意向だが、起死回生の挽回策は見当たらない。潮目は大きく変わった。

□後藤謙次「“参院のドン”が「経世会」の結成30周年会合を欠席した理由 ~永田町ライブ!No.347」(「週刊ダイヤモンド」2017年7月15日号)
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