語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】回想の宇沢弘文

2015年03月07日 | ノンフィクション
 鳥取県米子市出身の世界的経済学者、宇沢弘文に関する回想ふたつ。

 八幡泰治は、全国自治研究集会(1998年10月)における地元事務局として宇沢に講演を依頼した。2年前の長野大会でもメイン講演を行っていたが、ふるさと米子でも是非、とお願いしたら、快諾を得た。
 以後数か月間、打ち合わせなどで宇沢その人と、さらには会話を成立させるためその著作に付き合った。
 当時70歳だったが、ビールを大量に飲む人だった。体力も凄い人で、講演のあと皆生の温泉宿に泊まったが、翌朝湊山の城山までランニングした。

 中川幾郎・帝塚山大学名誉教授は、その仕事を要約する。
 20世紀の欧米先進諸国の経済政策と経済学は、ケインズ的な政策と新古典派的な政策とが振り子のように主導権争いを繰り返してきた。
 しかし、21世紀のいま、双方の限界が露呈している。
 ①ハードの公共土木投資を主流としたケインズ主義的な政策の有効性は落ちてきた。
 ②シカゴ学派的な市場原理主義的政策が社会的格差を急速に拡大し、社会不安をもたらしている。
 宇沢経済学は人間を大切にする。
 宇沢は、シカゴ学派的な市場原理主義に厳しく対抗しつつ、ケインズを超える公共政策の理論的地平を切り開いた。特に、「社会的共通資本」の概念は、公共投資の向かうべき新たな対象を明確に示した。
 ハードウェアだけでなく、ソフトウェアやヒューマンウェアにも示唆が及んでいるこの概念は、成熟経済段階に到達しないまま、いたずらに巨額の国公債を増加させている日本国の政策に、厳しく警鐘を鳴らすものだ。

 宇沢弘文:
 1928(昭和3)年7月21日~2014(平成26)年9月18日。享年86。
 東京大学名誉教授。従三位。1983年文化功労者、1989年日本学士院会員、1995年米国科学アカデミー客員会員、1997年文化勲章、2009年ブループラネット賞、Econometric SocietyのFellow(終身)、1976年から1977年までEconometric Society会長。

□記事「経済学者「宇沢弘文」がくれた救いと勇気」(今井書店「かわら版」第140号、2014年12月22日)
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【震災】過剰徴収したビル管理費の返還は ~神戸市長田区~

2015年03月07日 | 社会
 (1)阪神・淡路大震災後に再開発で建てられた高層ビルの「管理費が高すぎる」として、入居していた商店主ら(神戸市長田区)が、ビル管理会社を相手取り、過剰徴収した管理費の返還を求めていた。
 返還請求額は、約3億1,500万円。これをめぐる訴訟で、神戸地裁は2月10日、店主らの請求を棄却する判決を言い渡した。

 (2)原告は、「アスタくにづか」9棟の店舗所有者58人。
 (1)のビルは、JR新長田駅南側の再開発地区に立地する。1、2階および地下が店舗で、上階は分譲マンション。
 神戸市は、同ビルの管理を第三セクター「新長田まちづくり」に委託してきた。同社は、エスカレータや空調の維持費など管理費の多くを店主から徴収していた。
 これに対し、原告は「住宅所有者より4.75倍から8.7倍も高いのは違法」と主張していた。

 (3)(1)の判決で、酒井和徒・裁判長は、格差が生じていても店舗所有者と住宅所有者で釣り合いが取れていないとは言えない、と退けた。
 原告は語る。
 「頭にきます。後から入ってきた住人の方がずっと安い。不公平です」【藤原満世】
 「管理費が高すぎて毎月ほとんど赤字。これでは商売人として生きていけない」【染谷繁】
 「敗訴したが、この裁判過程で二つのビルでは管理者を交代させることもできた」【江後利幸・弁護士/代理人】

 (4)同地区は長屋がひしめいていた。
 震災で消滅したのを契機に、神戸市は44棟もの高層ビルを建てる再開発計画を強行、8割近くを完成させた。さらに、店主らが元の地区で商売する条件として、分譲店舗購入も押し付けた。
 だが、現在、商店街は閑散としている。店舗を売ろうにも買い手がつかない。
 過剰開発のしわ寄せの責任を、市当局の誰一人取ろうとしない。

□粟野仁雄(ジャーナリスト)「神戸地裁訴えを棄却 ~“高額管理費”に返還請求~」(「週刊金曜日」2015年2月20日号)
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 【参考】
【震災】住民無視の巨大開発のツケ ~神戸市~
【震災】住民の生命や生活より箱モノ造りを優先 ~神戸市~
【震災】神戸市長田区に見る「復興災害」(2)
【震災】神戸市長田区に見る「復興災害」(1)
【旅】復興を絵画で表現できるか ~平町公の試み~
【震災】二重ローン 得するのは銀行だけだ ~その対策~
【震災】復興のカギはパイプ役(住民の自主組織) ~神戸の過ち、奥尻の教訓~
書評:『神戸発 阪神大震災以後』
書評:『復興の闇・都市の非情 --阪神大震災、五年の軌跡』

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