語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【匠の技】名古屋城再建、のシャチホコに託す ~プロジェクトX 29~

2015年03月20日 | ノンフィクション
 名古屋城は、1612(慶長17)年12月、その天守閣がほぼ完工。シャチホコに使われた金の量は雌雄合わせて320kg、小判に換算して17,975両だった。
 しかし、復元されたシャチホコには、元の4分の1の88kgしか使われていない。それ以上の予算がなかったためだ。それでも、時価で1億円もした(復元開始は1957(昭和32)年)。

 シャチホコは高さ2.6mもある。その巨大な雌雄2体のブロンズ像は、文化財修理の第一人者と言われていた大谷隆義・鋳物職人が請け負った。彼の工房は大阪にあったが、製作は城の横にある作業小屋で行われた。

 できあがったブロンズ像に金の鱗を施す作業は、大阪造幣局へ依頼された。
 金をかぶせる技術は鎚金といって、江戸時代にはキセルやかんざし、明治以降は金杯や銀杯など鎚金師の腕が要求される仕事がたくさんあった。
 しかし、杯のような単純な形状の加工は機械にとって代わられた。追い打ちをかけたのが、日中戦争下の1940(昭和15)年に贅沢品の制作を禁じた「7・7禁令」だ。
 使わない技術はすたれる。が、大阪造幣局にはその技をもつ職人がいたのだ。
 シャチホコの胴体をおおう鱗は、雌が126枚、雄が112枚。厚さ1mmの銅の基板に銀メッキを施し、その上に漆を塗ったものが鱗になる。この鱗1枚1枚に金板をかぶせていく、複雑な形状をもつ頭部も、同様の工程でつくられた金片で覆っていくのだ。
 サビつく寸前の技術を発揮する機会だ・・・・と勇んで、奥野茂一は取り組み始めた。
 だが、使える金の総量が最大のネックとなることが分かった。使える金は江戸時代に使われた金の4分の1でしかない。計算してみると、金箔1枚の厚さは0.15mm。葉書より薄い。金槌でたたけば、破れる。ヘラを使って金を延ばして鱗に張りつけようとしても、やはり破れる。
 奥野は、「共付け」という伝統的な技を援用した。破れたら、火で溶かして穴をふさぐのだ。しかし、火を離すタイミングが問題だった。タイミングを間違えると、表面が凸凹になったり、継ぎ目ができたりする。
 鱗1枚に金をかぶせるまで2週間かかった。しかし、費やした時間は無駄ではなかった。その期間に奥野は、「共付け」の高度な技をマスターした。
 1959(昭和34)年7月、すべての鱗の取り付けが終わった。

□NHKプロジェクトX制作班・編『曙光激闘の果てに ~プロジェクトX挑戦者たち 29~』(日本放送出版協会、2005)の「①名古屋城再建 金のシャチホコに託す」
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【経済】高齢者は年金のほかに月額7万円弱の「収入」 ~帰属家賃~

2015年03月20日 | 社会
 (1)平均的な厚生年金支給額は、月221,507円だ【注1】。現役男性の手取り収入の平均額(月35万円ほど【注2】)の6割強を保証している。

 (2)高齢者の生活を支えるのは、年金だけではない。
 高齢者世帯の9割以上は自宅を保有している。自宅保有者のうち、住宅ローンが残っているのは1割未満だ【注3】。
 現役世帯のほとんどは家賃を払っているが、家を持っていても住宅ローンを返済中だ。
 他方、持ち家に住み、住宅ローンもない高齢者世帯は、家賃相当額を支払わなくてよい分、同じ収入でも生活費に余裕が出る。この分を「帰属家賃」と呼び、収入と見なす考え方がある。高齢者世帯が得る「帰属家賃」は、平均して月68,225円だ。

 (3)年金と「帰属家賃」を合わせると、高齢者世帯の標準的な収入は、月29万円となる。現役男性の手取り収入の8割を超える。
 高齢者世帯は、これに加えて、退職金等を取り崩しながら生活している。

 (4)高齢者世帯は、現在の社会保障制度上で「低所得者」とされ、各種の給付や減免を受けるための基準「住民税非課税」であることが多い。
 住民税の課税標準算定にあたり、公的年金に多額の控除が認められ、「帰属家賃」は考慮されない。よって、「帰属家賃」込みで月29万円の収入がある標準的な高齢者世帯も、「低所得者」となり得る。

 (5)税引き前の給与収入が月15万円(高卒初任給程度)で賃貸し住宅に住む単身者の暮らし向きは、「標準的な高齢者世帯」よりも明らかに厳しい。
 しかし、「低所得者」とは扱われず、月15万円の中から税や社会保険料等を支払う。 

 【注1】2015年度、夫婦2人分の標準的な額、老齢基礎年金を含む。 
 【注2】厚生労働省「平成26年財政検証」。
 【注3】総務省「平成21年全国消費者実態調査」における世帯主が65歳以上の「二人以上の世帯」の値)。以下同じ。

□是枝俊悟(大和総研金融調査部研究員)「帰属家賃を含めれば所得代替率は8割超 「高齢者=低所得者」は誤り ~数字は語る~」(「週刊ダイヤモンド」2015年3月14日号)
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