Vol.36「魔術師の幻想」はこちら。
このエピソードが日本で初めてオンエアされたのは1977年。仕方のないこととはいえ、新聞などで騒がれていた。
「コロンボ史上初めて……」
うん、ネタバレだけど仕方ない。刑事コロンボを全部観ると決めたとき、確かロバート・ボーンが犯人の回は“あれ”だったはずとだけおぼえていて、だから「歌声が消えた海」の回がいつものパターンでエンディングを迎えたときに「あれっ?」と思ったのだった。
えーい、もうばらしちゃいましょう。そう、この回は史上初めてコロンボが犯人を見誤る記念すべきエピソードなのだ。
“TITANIC”と船尾にペイントされた小舟がオープニングショット。後で重要な意味をもっていることがわかる。享楽的なパーティを行う娘夫婦のもとへ、“提督”と呼ばれる造船会社社長オーティス・スワンソンが現れ、会社を処分すると告げる。その夜、彼はヨットの道具で撲殺され、娘婿チャーリー・クレイ(ロバート・ボーン)は後始末を急ぐ。
作り手がめざしたのは本格ミステリ。ダイイング・メッセージとなる型紙「S」「A」「I」「L」「S」「.」の意味はなにか、容疑者一同を集め、コロンボに謎解きをさせたかったわけだ。提督の娘ジョアンナ、顧問弁護士ケタリング、“パートナー”である若い娘リサ、弟スワニー、造船所長ウエインの誰が犯人なのか。コロンボは提督のある持ち物を使って罠をしかける。
コロンボにいつものキレがないのは、めずらしく禁煙したりするからだけではなくて、どうも演出がトリッキーで妙なのである。アップが多用されすぎだし、アル中である娘の演技にカメラがまとわりつくのが不自然。こりゃー役者の演出だな、と思ったらそのとおり、おなじみパトリック・マクグーハンPatrick McGoohanが「仮面の男」につづいてメガホンをとっているのでした。
新米の刑事が
「マックと呼んでください」
「マック……アイルランド入ってる?」
「いえ、入ってません」
「アイルランド系じゃないのにマックかあ」
とくりかえされるギャグはマクグーハンのことをさしていたわけ。
最終回として撮影されたのでエンディングもいっぷう変わっていて、「古畑任三郎」において田村正和が西園寺くんに別れを告げる形で継承されている。原題はLAST SALUTE TO THE COMMODORE(提督への最後の敬礼)。このCOMMODOREの部分をLieutenant(警部補)と視聴者に読みかえてほしい回だったわけだ。
Vol.38「ルーサン警部の犯罪」にめでたくつづく。
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