ロバート・デ・ニーロの名は、「ゴッドファーザーPARTⅡ」(74)と、この作品(76年)で完全に確立した。コッポラとスコセッシの代表作、というかエバーグリーンにつづけざまに起用されたのだから、いかに嘱望されていたか、そしてその期待に応えた彼の実力のほどが知れる。
伝説の映画の伝説のキャラクターであるトラヴィスは、不眠症のタクシー運転手。イエロー・キャブと称される黄色いタクシーのフロントグリルが、NYの路上に蒸気のなかから登場。一種のモンスターであるトラヴィスを、タクシーにシンボライズさせたこのオープニングはすでに伝説(音楽はバーナード・ハーマン。サックスはなんとトム・スコット)。
その伝説は“ベトナム帰りの後遺症を抱える男が暴力衝動を爆発させる”という文脈で語られがち。しかし数十年ぶりに再見して、ベトナム云々は小さなファクターにすぎなかったことがわかる(習作に近い処女短編「The Big Shave」は明らかに泥沼化するベトナムを皮肉ったものだけれど)。
インテリの選挙ボランティア(シビル・シェパード)や少女娼婦(ジョディ・フォスター)と“つき合う距離感がうまくつかめない”不器用さは、男だったら誰でも経験があるはずだ。そこから暴発への小さなジャンプは、当時のNYに近くなった現代の日本だからこそ「あるよな、その感じ」と納得できる。誰にでもトラヴィス的要素があることを、今さらながらに思い知らされた。
トラヴィスは、わたしだ。
この映画を観ていたら、はたして彼の衝動は昇華しただろうか。
うーん、そこは微妙かな。
ブラジル人にきいてみればよかったか(笑)