事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「台北プライベートアイ」紀蔚然著 文藝春秋

2022-01-04 | ミステリ

華文ミステリが近ごろやけに面白いので(というか、面白い作品がようやく次々に翻訳されるようになったので)、地元の図書館では必ず中国文学の棚に寄るようにしている。ん?この本は新作かな。

タイトルも魅力的。台湾にもハードボイルドの時代がやってきたのか。もちろん借りる。

ところが、別の本に時間をとられてしまい、期限が来たので読まずに返却。そしたら、年末のミステリランキングで上位に食い込んでるじゃないの。ああ、こういうパターンは前にもあったなあ。そうだ「拳銃使いの娘」(ジョーダン・ハーパー)のときだ。あれは面白かったなあ。借りなおしてよかった。

こちらもまたあの棚に行き、借りなおし。さっそく読む。

意外。ハードボイルドミステリに登場する私立探偵といえば、へらずグチの連続だったり、暴力の応酬の果てに犯人を追いつめる……的な印象なのに、この台湾人探偵は全然印象が違います。

大学で演劇を教え(作者も実際に演劇の教授らしい)、脚本家としてもそれなりのキャリアを積み上げてきた主人公は、不安定な精神状態から脱却するために職を辞し、ダウンタウンで探偵事務所を開業する。探偵になる動機として空前絶後かも。

そして、彼も、まわりもこう認識している。

「ミステリに出てくるような私立探偵(プライベートアイ)なんて現実には存在しない」

だからこそ、彼は自分の職業に意識的。そのくせ運転免許すらもっていないというアンチハードボイルドな男。だからこそ彼は歩く。台北に張りめぐらされた監視カメラに見つめられながら。

ミステリの形を借りた台湾論。日本のミステリへの言及もあり、いかに華文ミステリに影響を与えていたかも理解できる。読み逃さなくてよかった。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« スナックラジオ | トップ | うまい店ピンポイント 年末... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ミステリ」カテゴリの最新記事