事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「モダンタイムス」 伊坂幸太郎著 講談社刊

2008-11-18 | ミステリ

Logo_modernモーニング」に連載されていたこともあってか、かなりスラップスティックなテイスト。なにしろ冒頭から主人公は浮気を妻に疑われたために(してたんだけど)、妻が雇った暴力のエキスパートに拷問されるという、とんでもないシチュエーションにいる。もちろん伊坂作品のことだから、泣きがはいる以上にへらず口の連続で笑わせてくれるのだが。

 この暴力的場面で展開に入りこめるかどうかが評価の分かれ目だろうか。ストーリーは(いつものように)政治的色彩を帯びてゆき、“超能力”や“小説内小説”など、派手な仕掛けが待っているので、最初でのれないとちょっときついかも。

 しかしこの大作(1200枚。伊坂史上最長、が講談社のキャッチコピー)は、次第に様相を変えてくる。ある“力”を持った主人公が、特定のフレーズの検索に反応するソフトの謎に迫る基本線から逸脱を始め、いつも以上に村上春樹的展開を見せながら(主人公が自らのルーツを求めて岩手を訪れるくだりははっきりと「ノルウェイの森」だ)、はたして“リアル”とは何か、勇気とは、責任とは何なのかを探る物語になっていく。

 その過程で、暴虐の限りをつくす妻の存在がどんどん大きくなる。自分の感情に正直で、夫への愛のために暴力という直接的な手段にうったえるこの女性こそが“リアル”なのであり、次第にたのもしく、そして愛らしく思えてくるから不思議。だから最後は愛妻物語にまで変貌する結末が待っている。やるもんだー。

2150731   読み終えてから「魔王」の後日譚だったことにやっと気づいたけど(笑)、読んでなくても全然かまいません。例によって作中には伊坂的名言がたーくさん仕込んであるので、いくつか紹介しておきましょう。法学部を出て、システムエンジニア出身で、村上春樹フリークであることがよくわかりますよ。

“「こういった情報装置も、別段、俺たちの生活を向上させるために作られたんじゃない。より利益を上げる、という資本主義のシステムが作っただけだ。どこかの広告代理店の社員がアイディアを思いつく。広告主を喜ばせ、会社に誉められるためだ。もしくは、ある種の達成感を得るためだ。それが自分の価値や利益、目的と重なっていく。利益を生むものは、進化する。人のためになるからじゃない。利益が出るからだ。」”

“「人生を損ないたくなかったんです」彼の前に立つ、現れたばかりの依頼人は言った。同時に、男の匂いが漂ってくる。ガムでも噛んでいたのか、不自然な果実の香りが鼻をまさぐってくる。”

“出汁を取るために、鍋に入れられた肉のことを考えた。高価で、貴重な肉だ。ぐつぐつと煮立った鍋の中で、旨味を充分に出し、料理に貢献するが、最後の最後は抜け殻の味気ない塊となるだけで、捨て去られる。周期的に出現する指導者や英雄は、まさにその、出汁のための肉ではないか?国家が生き長らえるために、力を発揮するがそれだけ、そういう存在ではないのか?”

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