事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「影の外に出る」 片岡義男著 NHK出版

2008-03-17 | 国際・政治

Kagenosotonideru 2004年当時の政治状況を思い浮かべながら読んでね。

今さら何を言っている、と突っ込まれそうだが、わたしはアメリカ人が好きだ。近頃はその単純な性向だけがピックアップされているけれど、多くの移民を受け入れ、日本の比ではない数多くの高度な知性を生み出したふところの広さ、底抜けの明るさ、そして何よりも文学や映画で彼らのことを“知っている”……。

9.11以降、親米と思われていた人々が、むしろアメリカへ苦言を呈している。「この1冊」で何度もとりあげた藤原帰一の心の故郷はアメリカだし、非戦を主張する坂本龍一や佐野元春にしても、そこに自由が期待され、実際に存在したからこそニューヨークを指向したのではなかったか。

片岡義男は、日系二世の家庭に育ったバイリンガルという生い立ちから、アメリカとの関係を抜きにしては語れない人だ。「スローなブギにしてくれ」や「彼のオートバイ、彼女の島」などで角川商法にのせられ、消費し尽くされた感があるのは、彼にとって不幸だったか。そのせいか評価されずにいるが、「ミス・リグビーの幸福」などの若すぎる探偵ものや、ほとんどポルノ「東京青年」は傑作なのでぜひ。

Kataokayoshio そんな彼が、社会情勢への積極的な発言を繰り返している。アメリカを、そして日本を愛するが故に、現状への批判・展望は苦く、そして鋭い。加えてさすがだと恐れ入るのは、彼が情報を得る方法はわれわれと同じ“新聞を読む”という行為なのだが、しかしわれわれよりもはるかに深く読み込んでいる。心の中に、アメリカと日本を並立させた定点観測がそうさせているのだろうか。

例えば、彼はアメリカの高官の発言をこう読む。

「(イラクへの自衛隊の派遣は)日本の独自性、主体性、国益から判断されることだ」

これが片岡訳では

「早くしろ」

これ以上はない名訳(笑)。そういえば今日もこんな発言はバシバシ新聞に載っている。問題は、わたしたちがそれを読み取る能力以前に、知っていながら書きはしない記者の姿勢にもあるだろうが。
まばゆい光(アメリカ)の影から外に出て、日本がどう進むべきかを考えさせる、冷静な好著。責任の所在をはっきりさせるためか、小泉純一郎ジョージ・ウォーカー・ブッシュの名はほとんど出てこない。単に「首相」「大統領」と記述されるだけ。そのことからも、読者はさまざまなことを読みとらなければならないだろう。

……2008年現在、片岡義男は、サブカルの象徴として復権しつつあるように感じられる。文句なく、めでたいことである。

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