原正人、という名前を、おそらくは映画のエンドクレジットで見たことのある人は多いと思う。洋画配給会社ヘラルドの最強の宣伝部を率い、「エマニエル夫人」「カサンドラ・クロス」「バラキ」など“お安い”映画を、言い方は悪いが観客をだまくらかして大ヒットさせ、製作側に転じてからは「失楽園」「戦場のメリークリスマス」「リング」などの問題作に関わり続けた人。
この書では、その裏側をこれでもかとさらすと同時に(自慢話だけではない。大赤字になった「乱」の反省もふくんでいる)、日本映画の採算分岐点はどのあたりかなど、ビジネスとしての映画を考察している。その意味で、業界志望者にとって最適のテキストなのだけれど、それ以上にひたすら面白いネタが満載。トリビアふうに紹介してみよう。
・わずか数千万円の仕込み原価だった「エマニエル夫人」の売り上げは16億円。その年のヘラルドのボーナスは二十ヶ月分。世に言う“エマニエル・ボーナス”。
・ゴダールの「女と男のいる舗道」の原題は「人生を生きる」。トリュフォーの「突然炎のごとく」の原題は「ジュールとジム」。
・「小さな恋のメロディ」はイギリス本国では劇場公開されず、テレビのみで放映された。
・「戦場のメリークリスマス」の、ビートたけしがやった軍曹役は、当初緒形拳に、坂本龍一が演じた将校役は滝田栄、デビッド・ボウイの役はロバート・レッドフォードにオファーされた。
・「乱」においては、仲代達矢の演じた役は三船敏郎、井川比佐志の役は高倉健にアプローチされた。
・「風の又三郎 ガラスのマント」の監督は、当時「スワロウテイル」にかかりきりだった岩井俊二にオファーされた。
・「失楽園」の凛子役を演じた黒木瞳の心配は肉体的なこと。いざとなったら監督の森田芳光に「こんな裸でいいですか」と見てもらおうとまで覚悟していた。
……やっぱり、この業界は面白いや。
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