これはもう、誰も文句が言えない歴史的名作。
黒澤明監督、三船敏郎主演、脇に仲代達矢、山田五十鈴、司葉子、東野英治郎、志村喬、藤原釜足、山茶花究。まだ無名時代の加藤武、ジェリー藤尾、西村晃、天本英世、夏木陽介……ものすごいメンツ。加えて音楽が佐藤勝で撮影が宮川一夫。鉄壁の布陣。
分かれ道で、路傍の枝を放り投げ、向いた先に進む素浪人。肩をゆさゆさ揺らしながら歩く三船敏郎を見ているだけでうれしくなる。
彼がたどり着いた宿場は、やくざのふたつの勢力が激突し、地獄のような(人間の手首をくわえた犬で象徴)様相を呈していた。
「マルタの鷹」のときにお伝えしたように、ダシール・ハメットの「血の収穫」が元ネタになっている。凄腕のクールな男が、双方を戦わせることで共倒れをもくろむ。
考えてみれば、これはよほど陰惨な話で、三船敏郎の明るいキャラがなかったら印象として苦いものが残っただろう。とにかく人が死ぬ死ぬ。
もちろん、それまでのチャンバラだと斬りあいは一種の舞踏なので、いくら人が切られても観客はなんとも感じないのだけれども、クロサワは斬りあいにリアリズムを持ちこみ、肉を断つ効果音まで挿入したものだから、現代の客もたじろぐほどだ。わたし、たじろぎました。
なによりハードボイルドなのは、主人公が暴力によって徹底的に痛めつけられる(そして復活する)ことで、王道のミステリの匂いがする。時代劇なのに英米製の肌ざわりがあるのはそのせいだろうか。そして三船敏郎の凄みは……これ、つづきます。
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