短編集なのかと思っていた。最初の章に出てくる主人公が電車の技士で、世話になったばあさんを菩提寺に弔っているあたりの描写で、あ、これ「坊っちゃん」じゃないかと気づく(もちろん彼の名は最後まで出てこない)。いくらなんでもこのパターンで長篇にはできないだろう?ところが……彼のまわりに登場するのは
竹取の翁……『竹取物語』より。一党のリーダー。特技:自らの血を輸血し、不老の力を授ける
六条院………『源氏物語』より。貴族。「光源氏」とも。特技(?):女たらし
聖……………『高野聖』より。山奥の妖婦。特技:色仕掛け。触れるものの傷を癒す
薫……………『伊豆の踊子』より。踊子。特技:清純無垢
李徴…………『山月記』より。中国の元官吏。特技:虎になること
机龍之助……『大菩薩峠』より。剣客。特技:脊髄反射のごとく人を殺める
坊っちゃん…『坊っちゃん』より。元教師。特技:なし(←ダイジョブ?)
【文春BOOKS】より
他にも、遠藤平吉という、名前だけでは誰だかわからないけれどもおなじみの人物が登場し、物語にからむ。それぞれ、巻末に長大な注釈がついているので、読んだことのない古典でも読んだ気になれます(笑)。
これだけのメンバーを用意して、それぞれのオリジナルのエピソードを利用し、描かれるのは伝奇小説。面白くならないわけがない。まあ、成立させるのは至難の業だったはずだけど、「宝島」であれほど興奮させてくれた真藤のことなので、今回も圧倒的に読ませてくれます。
日本文学のアベンジャーズ、というコピーには笑った。いやー坊っちゃんはやっぱり泣かせる。