事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「王とサーカス」 米澤穂信著 東京創元社

2016-03-23 | ミステリ

「このミステリーがすごい!2016」のベストワン。去年の「満願」につづいて米澤穂信の連覇だ。二年連続トップは、高村薫も宮部みゆきも東野圭吾も成し遂げられなかったのだから、このミステリー作家もすごい。

米澤穂信を読んだのは「犬はどこだ」からだったと思う。犬探し専門を標榜する田舎の探偵が……不思議な味わいのお話。そこから執筆順とは逆に、古典部小市民シリーズなどのライトノベルにはまり、「折れた竜骨」にとどめをさされた感じ。

この「王とサーカス」の前日譚である「さよなら妖精」は、刊行までに紆余曲折があったようだけれど、ユーゴスラヴィア情勢をからめて、シリアスなラストと温かい余韻を両立させていたっけ。読み終えて、しゅんとしました。日本人はよその国のことを本気で考えたことは一度もないんだと。いつも自国自国自国だもんね。

登場人物のひとりだった太刀洗万智は、あの事件から十年たって新聞記者を辞め、ライターとなりネパールを訪れる。そこで起こったのがかの有名な(というかわたしにはさっぱり意味が分からなかった)王宮での王族殺害事件。太刀洗は現場近くにいることでジャーナリストとしての行動を開始する。

内包するテーマはかなり苦い。先進国の目線からしか見ることのできないジャーナリズムを、現地の民は苦い思いで見ているのではないか、人はサーカス=娯楽としてしか報道を欲していないのではないか、報ずる側は独善的な側面をあえて無視しているのではないか……事件の背景にはこれらの要素が複雑にからみあっていて、太刀洗は惑い、そして真相にたどりつく。

実は「満願」にはちょっと懐疑的だった。しかしこの作品はおみごとだと思いました。ただ、ある登場人物の批判は、わたしたち日本人にも鋭く向けられているため、すっきりさわやかな読後感というわけにはいかない。卑怯なようだけれども、すっきり爽やか&ほんわか系への回帰も、ひとつよろしくお願いします。油断してると米澤は大作家になっちゃうなあ。

コメント
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