パブリックイメージとは違い、植木等がめちゃめちゃに真面目な人で、無責任男と呼ばれたり、コミックソングを歌っていることに決して自足していなかったことは、小林信彦や大瀧詠一らによって語られてきた。宗教家である父親が強烈な人であることも。
戸井のこの書ではもう一歩すすめて、父親に対して植木が決して尊敬しているだけの関係ではなかったことも語られている。社会主義者&僧侶&キリスト者だった父親(すごいですな)が、世の平等をもとめて「等」と名付けた次男坊が、のちに無責任男「平均(たいらひとし)」として一世を風靡したのは因縁というものだろうか。
自己主張の強いミュージシャンたちが、解散することなくクレージー・キャッツとして最後まで過ごすことができたのは(犬塚弘だけが存命)、リーダーのハナ肇の親分肌キャラと同時に、渡辺プロダクションの渡辺晋と美佐の夫婦への共感だったらしいことがうかがわれ、なんとなくうれしい。若い頃にはあんなに渡辺プロを嫌っていたのに(ザ・芸能界って感じでしたから)。
黒澤明に対して、とても批判的な発言をしているあたりも植木等らしい。王様は裸だと、同じ東宝の巨匠に対してきちんと言える人だったわけだ。
彼らのライブを、わたしたち世代が見ることはなかったのはいかにもさみしい。戦後のジャズミュージシャンたちの交流がとにかく面白い年代記でもある。いきなり秋吉敏子が出てきたのにはびっくりです。
![]() |
植木等伝「わかっちゃいるけど、やめられない!」 (小学館文庫) 価格:¥ 600(税込) 発売日:2010-03-05 |