さて、それから
以上がP.G.ウッドハウス『階上の男』の全文である。
さて、このあと物語はどうなったでしょう。
1.アネットは降りてきたベイツをそのポールで撲殺し、ピアノのなかに死体を隠した。
2.モリスンのアパートに送らせた楽譜を全部売ってこい、と、イギリス全土に行商に行かせた。
3.アンタなんかと絶対結婚しない、顔も見たくない、イギリスから消えてちょうだい、と宣言した。傷心のベイツは、老いた母親と一緒にアメリカに渡り、心機一転、名前をビルからノーマンに改名し、片田舎でモーテルを開業する。あるときそこへ銀行の金を横領したマリオンという女がやってきた。そのマリオンはあろうことか、アネットにそっくりで……(この話のつづきがどうなるかわかる人、います?)
だけど、たぶんそうじゃないんだろうなぁ……。
自分の「翻訳のページ」では、英米では有名、だけど日本ではあまり知られていない作品や作家を、ぼつぼつを紹介していこうと思っている。
まさにウッドハウスはそれにふさわしい作家なのだけれど、何を訳すかでは少し迷った。イギリスばかりでなく、アメリカでも大変人気のあるユーモア作家なのだけれど、なんとなく微妙に笑いのツボがちがうような気がする(といっても、わたしがそれほどウッドハウスを読んでいる、というわけでもないのだが)。
そのなかでは『階上の男』というのは、アメリカのラブ・コメディものの映画のような、ずいぶんわかりやすいもの(現実に映画化もされているようだ)。
それでもストーリーとは別個に、名前に含まれるダブル・ミーニングや、随所で同じことばが繰り返されているような、ことば遊び的な要素などはうまく伝えられなかった。
ただ、個人的にはこの結末は、なんだかな~、なのである。
やっぱ、それはダメでしょう。
アネット、そんな男に引っ掛かっちゃいけないぞ、なのである。
まぁ、それはわたしの感じ方、人それぞれ、ということで。
なお、この作品には先行訳があります(『20世紀イギリス短編選(上)』岩波文庫)。
P.G.ウッドハウスは1881-1975、イギリスの作家。学生の頃から創作活動を始め、パブリックスクールを卒業後、二年ほど銀行員として働くが、じき、文筆による収入の方が多くなったために銀行を辞めて、専業作家となる。極めて多作で、生涯を通じて、膨大な量の作品を書いた。彼の感覚はきわめて「イギリス的」とされ、同時に多くの作家に影響を与えた。とくにジョージ・オーウェルの手によるウッドハウス論(岩波文庫『オーウェル評論集』)は秀逸。
ウッドハウスの作品は、短編のシリーズで有名な“完璧な執事のジーヴス”シリーズが『比類なきジーヴス ウッドハウスコレクション』として森村たまき訳で国書刊行会から出ています。
『階上の男』は訳文に手を入れて、近日中にサイトの方に一挙掲載いたします。
あ、よかったら、感想聞かせてください。
以上がP.G.ウッドハウス『階上の男』の全文である。
さて、このあと物語はどうなったでしょう。
1.アネットは降りてきたベイツをそのポールで撲殺し、ピアノのなかに死体を隠した。
2.モリスンのアパートに送らせた楽譜を全部売ってこい、と、イギリス全土に行商に行かせた。
3.アンタなんかと絶対結婚しない、顔も見たくない、イギリスから消えてちょうだい、と宣言した。傷心のベイツは、老いた母親と一緒にアメリカに渡り、心機一転、名前をビルからノーマンに改名し、片田舎でモーテルを開業する。あるときそこへ銀行の金を横領したマリオンという女がやってきた。そのマリオンはあろうことか、アネットにそっくりで……(この話のつづきがどうなるかわかる人、います?)
だけど、たぶんそうじゃないんだろうなぁ……。
自分の「翻訳のページ」では、英米では有名、だけど日本ではあまり知られていない作品や作家を、ぼつぼつを紹介していこうと思っている。
まさにウッドハウスはそれにふさわしい作家なのだけれど、何を訳すかでは少し迷った。イギリスばかりでなく、アメリカでも大変人気のあるユーモア作家なのだけれど、なんとなく微妙に笑いのツボがちがうような気がする(といっても、わたしがそれほどウッドハウスを読んでいる、というわけでもないのだが)。
そのなかでは『階上の男』というのは、アメリカのラブ・コメディものの映画のような、ずいぶんわかりやすいもの(現実に映画化もされているようだ)。
それでもストーリーとは別個に、名前に含まれるダブル・ミーニングや、随所で同じことばが繰り返されているような、ことば遊び的な要素などはうまく伝えられなかった。
ただ、個人的にはこの結末は、なんだかな~、なのである。
やっぱ、それはダメでしょう。
アネット、そんな男に引っ掛かっちゃいけないぞ、なのである。
まぁ、それはわたしの感じ方、人それぞれ、ということで。
なお、この作品には先行訳があります(『20世紀イギリス短編選(上)』岩波文庫)。
P.G.ウッドハウスは1881-1975、イギリスの作家。学生の頃から創作活動を始め、パブリックスクールを卒業後、二年ほど銀行員として働くが、じき、文筆による収入の方が多くなったために銀行を辞めて、専業作家となる。極めて多作で、生涯を通じて、膨大な量の作品を書いた。彼の感覚はきわめて「イギリス的」とされ、同時に多くの作家に影響を与えた。とくにジョージ・オーウェルの手によるウッドハウス論(岩波文庫『オーウェル評論集』)は秀逸。
ウッドハウスの作品は、短編のシリーズで有名な“完璧な執事のジーヴス”シリーズが『比類なきジーヴス ウッドハウスコレクション』として森村たまき訳で国書刊行会から出ています。
『階上の男』は訳文に手を入れて、近日中にサイトの方に一挙掲載いたします。
あ、よかったら、感想聞かせてください。
億万長者のビル・ベイツって、彼の有名な億万長者のもじりかなと思いましたが、ビル・ゲイツが名前を知られるようになったのは1975年頃なので、パソコンマニアでもなければ、ウッドハウスは彼の名前を知らないはずですね。
しかし、女性に近付く口実として、床を足で蹴飛ばすというのは、あまりいい作戦とは思えないのですが。
>さて、このあと物語はどうなったでしょう。
やがて上の階から足音が聞こえてきた。行ったり来たりする単調な足音。とつぜん、アネットは立ち上がった。彼女は部屋にあった長いポールを手にして、少しの間迷った。それからすばやく持ち上げて、天井を三回、突いた。
上の階の足音は止んだ。
しばらくして、アネットはワルツの作曲を再開した。突然、上の部屋から聞こえてきた床を激しく蹴りつける音。アネットは怒りに身を震わせた。
「受けてやろうじゃないの」
彼女は伸音ペダルを踏みながら、鍵盤を叩き付けた。
・・・・・・・・・・
なんて、こんなオチくらいしか思い浮かびません。
しかし、大変おもしろい話でした。ありがとうございます。
ビル・ゲイツとビル・ベイツ、確かにそっくりの名前ですよね。
ただしこの作品は1925年の作品なので、どう考えてもビル・ゲイツとは無関係です。
だけど、ベイツときたら、わたしがパブロフの犬のごとく連想してしまうのは、ノーマン・ベイツ、そう、ヒッチコックの(原作はロバート・ブロック)『サイコ』なんです(3.は途中から『サイコ』のストーリーになってます^^;)。
なんかねー、彼がやったことっていうのは、許し難い。
で、そのことの問題点に、ウッドハウス自身が気がついてないような気がする。
やっぱり女性の「ハッピーエンディング」は結婚、って思う時代の人なのかもしれません。
おもしろいって言ってくださって、ありがとうございました。
自分では文句はありつつも、それでも結構おもしろい、と思ったものを、そう言っていただけて、ほんとうにホッとしています。
また、よろしくお願いします。
そうそう、arareさんの「それから」は、メビウスの輪になってますね?
ぐるっとまわってまた最初に。
なかなかおもしろい結末だと思います。
わたしの『サイコ』に続いていくのは、どうでしょう、『サイコ』だけに……「サイコー」って言うと石が飛んでくるかも(イテッ)。
ベイツの部屋には別の女がいた。
「あら、今、床の下で音がしたけど何かしら?」
「さあ、気づかなかったな。(汗)」
「そういえば、わたしがあなたと知り合ったのは、階下の音が気になって来てみたのがはじまりだったわけだけど、よく音の響く建物ね。」
「そんなことはどうでもいいじゃないか。
それより、ハニー、ぼくと結婚してくれないか。」
◆ちょっとツッコミ
サイトの方で、「すっかり爪をひっこめたアネットが意味消沈した様子でやってきて」とあるのですが、「意味消沈」は「意気消沈」のミスタイプですか。
◆>『サイコ』だけに……「サイコー」
……………………………………
◇「なんちゃって創作」と駄洒落の専門家、いや、経験者として黙っておられず、おじゃましました。
では、また。
まずなによりも!
タイプミスのご指摘、ありがとうございました。さっそく帝政、じゃなかった、訂正させていただきました。
タイプミス、変換ミス、多いんです。どうか気がついたら、マメにお知らせくださいませ。
なるほど~。考えましたね。
『階上の男』ならぬ『階下の男』というわけですね。
でベイツ君はこのアパートを釣り堀にしていたわけだ。
確かにアパートって構造は、外から見ると不思議なものですよね。
垂直方向に、まったく同じ部屋で、まったくちがう生活が営まれてる。
それを外から見てみたのが、同じヒッチコックでも『裏窓』ですね。
ウッドハウスってね、絶対キワドクならないんです。
恋愛も出てくるんだけど、何も起こらない。
そういうところがもっとも大衆的な作家として受け容れられた要因のひとつ、とされています。
日本でも、佐々木邦、なんていまどき読んだことのある人間はわたしくらいかもしれないのだけれど、戦後のユーモア作家ね、あと、獅子文六なんかもそうですよね。そういえば北杜夫も、狐狸庵先生も際どくない(古い物なら任せとけ)。
キワドクなってしまうと、ユーモアにやっぱり毒が混じるのかな、そんな気がします。
だからアネットとベイツも、手も握らない。キスもしない。
まさに「絵空事」なんです。
だから、三角関係は、ウッドハウス的世界では出てこないだろうなー。
それを言うなら『サイコ』ももっと無縁ですが。
書きこみありがとうございました。
また遊びにいらしてください。
後を考えるのにぴったりな作品ですね。
私の支持する「いかにもな相場」は、
>さて、このあと物語はどうなったでしょう。
降りてきてたベイツにアネットは言った。
「あなたとの結婚をお受けしたいと思います」
それから*十年後 ──。
二人の間には二男一女が授けられた。長女は国際的なピアニストとして活躍し、息子達は事業主として成功していた。毎年クリスマスに、孫に囲まれながら「もっとも幸せなファミリー」としてマスコミの取材に応じていたベイツだったが、74歳の夏に調子を崩し秋口には病床の人となっていた。先のないことを悟ったベイツは枕元にアネットを呼んだ。
「ア、アネット……、君がいてくれて、人生は夢のように幸せだったよ」
アネットはベイツの手を取って言った。
「楽譜を買っていただいたほんの御礼ですわ。憶えてらっしゃいます?」
了
「本好きへの100の質問」
梅図かずお
↓
楳図かずお
日出づる処の天子
↓
日出処の天子
(どっちでも良さそうなものだけど、一応。)
「破壊者」
ブラッキーの大きなノコギリを見つけて、口も聞かず、
↓
口も利かず,口もきかず
(これは自信なし。趣味の問題か……)
誤記、誤変換、変な日本語は私も多いのですが、これってなぜか書いている最中ではなく、後で気がつきます。それに自分の文章より、ひとの文章の方がよく気づく。なぜだろう。もっとも私は大量の文章を書く人ではないけれど。
余談ですが、マンガの中で一番好きなのは楳図かずおの「わたしは真悟」です。(それがどうしたって言わないで)
新しい連載、続きを楽しみにしています。
では、また。
開始9行目 > 50年間、毎日毎日レジを見張り続けてきて、
"40年間"の間違いでは。
helleborusさん、こんばんは。
happyなストーリーですね。なんだかとってもいい感じです。
ウッドハウスが続きを書いたらこんな感じになるかも。
ただベイツは末期にも、何かひとひねりあることを言いそうではありますが。
アネットはどうなっちゃうんでしょうか。
ベイツと結婚したら、作曲の道に邁進するのはむずかしそうですが。
なんとなく子どもにその夢を託す……というのは、悲しいような気がします。
ベイツはなー、結婚すると楽しそうだけど、歯を食いしばって何かをやっていこうとしている人のパートナーじゃないですよね。
書きこみありがとうございました。
ご指摘の点、あとで検討しておきますね。
また遊びにいらしてください。
ゆふさん、こんばんは。
引き続きのご指摘どうもありがとうございます。
「楳図かずお」は、実はいま初めて知りました!
(いかにいい加減に見ているかの証拠ですよね)
『わたしは真吾』おもしろいんですか? 読んでみよう。
『漂流教室』は話の展開のさせかたのうまさに舌を巻きます。
登場人物がみな類型的な人たちばかりなのですが、そのぶん、進行がスムーズで、扁平人物っていうのはこのように動かすものなんだ、ってお手本のような気がする(その意味では漫画家はちがうけど、いまの『20世紀少年』も近いな)。
連載というのも、いま書いているのは、実は考えながら書いているので、そのうち帳尻が合わなくなってくるかもしれません。
まぁ、一応の着地場所だけは決まっているので、なんとかたどり着けるんじゃないかと思っています。
もう少し、おつきあいくださいね。
まだまだいっぱいあると思います。
どうか今後ともよろしくお願いいたします。