最終回
真夜中、少年は丘のてっぺんにすわっていた。いまが真夜中であることにも気がついていなかったし、自分がどこまで来たのかもわかっていなかった。だが、いまはもう向こうに炎は見えず、ともかくも自分が四日のあいだ家と呼んでいた場所には背を向けて、腰を下ろしていた。目の前に拡がるのは暗い森で、ふたたび呼吸がしっかりとしてきたら入っていこうと考えていた。寒さに身を縮め、闇の中でひっきりなしに身を震わせながら、すり切れたぼろぼろのシャツの残骸をまとった自分の体を抱きしめていた。悲しみとやるせなさは、もはや恐怖や恐れとは無縁の、ただの悲しみとやるせない気持ちそれだけだった。父さんは、おれの父さんは、と考えた。
「父さんは勇敢だったんだ!」不意に彼は声を出した。大きな声ではなかった、というより、ささやき声よりわずかに大きいだけだったが、声に出して言ったのだった。「父さんは勇敢だったんだ! 戦争に行ったんだから! サートリス大佐の騎兵隊にいたんだ」
父親が戦争に行ったのは、古きよきヨーロッパ的な意味での「私人」としてだった。軍服も着なければ、いかなる人にも、軍隊にも、軍旗にも権威を認めない、マールブルック(※18世紀ヨーロッパのわらべ歌に出てくる登場人物)のように、戦争に出かけたのだ。略奪品のため――つまりぶんどる相手は、敵であろうが味方であろうが、おかまいなしだったのだ。
星座はゆっくりと動いた。夜明けも近い。ほどなく日が昇り、彼も飢えを感じるだろう。だが、それは明日がきたということなのだ。いまはただ寒いだけだったが、歩いていれば寒さもなくなるだろう。もう呼吸はずいぶん楽になっていたので、立ち上がって歩いていくことにした。どうやら自分は眠っていたらしい。明け方も近く、夜も終わりそうだ。ヨタカの鳴き声がそれを告げている。ヨタカはいまや足下の暗い森のあちらにもこちらにもいて、高く低く休むことなく鳴き続けていた。そのために、朝の鳥に鳴き声を譲る時間が近づいてきても、鳴き声の間隔は少しも開かないのだった。彼は立ち上がった。体が少しこわばっていたが、冷えと一緒に、歩いているうちにそれも回復するだろう。じきに日も昇る。彼は丘を降りて、暗い森のなかへ入っていった。銀色の鳥たちの鳴く澄んだ声のほうへ、ひっきりなしに呼ぶ声――速い、せきたてるように脈打つ、強く声を合わせて歌う心臓の鼓動のような声のほうへ。彼は振り返らなかった。
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真夜中、少年は丘のてっぺんにすわっていた。いまが真夜中であることにも気がついていなかったし、自分がどこまで来たのかもわかっていなかった。だが、いまはもう向こうに炎は見えず、ともかくも自分が四日のあいだ家と呼んでいた場所には背を向けて、腰を下ろしていた。目の前に拡がるのは暗い森で、ふたたび呼吸がしっかりとしてきたら入っていこうと考えていた。寒さに身を縮め、闇の中でひっきりなしに身を震わせながら、すり切れたぼろぼろのシャツの残骸をまとった自分の体を抱きしめていた。悲しみとやるせなさは、もはや恐怖や恐れとは無縁の、ただの悲しみとやるせない気持ちそれだけだった。父さんは、おれの父さんは、と考えた。
「父さんは勇敢だったんだ!」不意に彼は声を出した。大きな声ではなかった、というより、ささやき声よりわずかに大きいだけだったが、声に出して言ったのだった。「父さんは勇敢だったんだ! 戦争に行ったんだから! サートリス大佐の騎兵隊にいたんだ」
父親が戦争に行ったのは、古きよきヨーロッパ的な意味での「私人」としてだった。軍服も着なければ、いかなる人にも、軍隊にも、軍旗にも権威を認めない、マールブルック(※18世紀ヨーロッパのわらべ歌に出てくる登場人物)のように、戦争に出かけたのだ。略奪品のため――つまりぶんどる相手は、敵であろうが味方であろうが、おかまいなしだったのだ。
星座はゆっくりと動いた。夜明けも近い。ほどなく日が昇り、彼も飢えを感じるだろう。だが、それは明日がきたということなのだ。いまはただ寒いだけだったが、歩いていれば寒さもなくなるだろう。もう呼吸はずいぶん楽になっていたので、立ち上がって歩いていくことにした。どうやら自分は眠っていたらしい。明け方も近く、夜も終わりそうだ。ヨタカの鳴き声がそれを告げている。ヨタカはいまや足下の暗い森のあちらにもこちらにもいて、高く低く休むことなく鳴き続けていた。そのために、朝の鳥に鳴き声を譲る時間が近づいてきても、鳴き声の間隔は少しも開かないのだった。彼は立ち上がった。体が少しこわばっていたが、冷えと一緒に、歩いているうちにそれも回復するだろう。じきに日も昇る。彼は丘を降りて、暗い森のなかへ入っていった。銀色の鳥たちの鳴く澄んだ声のほうへ、ひっきりなしに呼ぶ声――速い、せきたてるように脈打つ、強く声を合わせて歌う心臓の鼓動のような声のほうへ。彼は振り返らなかった。
The End
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