陰陽師的日常

読みながら歩き、歩きながら読む

サキ 『スレドニ・ヴァシター』 その2.

2005-05-09 22:00:59 | 翻訳
生気のない、気が滅入りそうな庭にいても、庭に面したいくつもの窓のどれかがいまにも開いて、「こんなことしちゃいけませんよ」とか「あんなこともダメですよ」と注意が飛んできたり、「お薬を飲む時間ですよ」と呼び戻されたりしそうで、ちっとも楽しいことはなかった。ほんの二、三本、生えているくだものがなる木も、コンラディンがもいだりしないよう、大切に隔離されていた。まるで不毛の地にやっと花をつけた珍しい植物かなにかのように。だが、くだものを買い取ってやろう、などと言ってくれそうな果物屋なんて、一年間に収穫できる全部を10シリングでいいから、と言ったって、見つかりそうにはなかった。

だが、ほの暗い植え込みの陰、だれもが忘れてしまった一角に、いまは使っていない、かなり大きな物置があって、そこはコンラディンの隠れ家、遊び場にもなれば、大聖堂にもなる、さまざまな顔を持つ場所なのだった。そこにコンラディンは空想のともだちをたくさん住まわせていた。昔話からその一部を借りたもの、自分の頭のなかで作りだされたもの、それだけでなく、血肉を備えた二匹の生き物もいた。

一方の隅には毛むくじゃらのフーダン種の雌鶏が一羽いて、コンラディンはほかに持って行き場のない愛情を、ひたすらにこの雌鳥に注いでいた。ずっと奥の暗がりには、大きな檻があった。ふたつに仕切られていて、一方には前面に目の詰まった鉄格子がはめてある。そこは大きなケナガイタチの住処だった。なじみの肉屋の見習い小僧が、コンラディンが長いことかけてこっそり貯めておいた小銭と交換に、檻ごと、こっそりと持ち込んだのである。コンラディンはしなやかな、鋭い牙を持つこの獣がおそろしくてたまらなかったが、同時に最高の宝物であるとも思っていた。

物置にイタチがいる、ということは、秘密であると同時にこの上ない喜びでもあり、細心の注意を払って「あの女」――コンラディンはひそかに従姉妹のことをそう呼んでいた――を遠ざけておかなければならない。ある日、まったく自分だけの思いつきで、このイタチにすばらしい名前をつけてやった。そして、そのときからこの獣は神となり、信仰の対象となったのである。「あの女」は信心深く、週に一度近所の教会にせっせと通い、コンラディンも連れて行くのだが、教会の礼拝など、自分の信念に反する、まったくなじめないものだった。

毎週木曜日、薄暗く黴くさい、静かな物置のなかで、コンラディンは、偉大なるケナガイタチ、スレドニ・ヴァシターがおわします木の檻にぬかずいて、神秘的で念入りな儀式を行った。赤い花が咲く季節はその花を、そして冬には深紅の苺を神殿に供える。スレドニ・ヴァシターは、たいそう荒々しい側面をことのほか強調した神であり、「あの女」が信じる神とは正反対、コンラディンの見方によると、まったく逆の方向、はるか隔たったところにいるのだった。

重要な祝祭日には、ナツメグの粉を檻の前に撒く。このささげものの大切な点は、ナツメグは盗まれなければならない、ということだった。祝祭日は定期的なものではなく、たいていは何か祝い事が持ち上がるたびに定められた。デ・ロップ夫人が三日間、激しい歯痛に悩まされたときは、コンラディンも三日通じてお祝いをし、スレドニ・ヴァシターの力によって歯痛が起こったのだ、と半ば信じることに成功したほとだった。歯痛がもう一日続いたら、ナツメグはすっかりなくなってしまっただろう。

(この項続く)

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