0.家や部屋について考えてみることにした
小説を読むとき、かならずといっていいほど主人公や登場人物が住む家が描かれる。
幼なじみのファンショーがいなくなったという連絡を、ファンショーの妻から受けた主人公が、ファンショーが暮らしていたアパートを訪れる場面である。
赤ん坊のころに出会って、少年時代にことのほか強い絆を結んだ主人公とファンショーだったが、大人になり、互いに疎遠になり、ずっと行き来していなかった。そういう人間のくらしぶりがこの部屋の描写であきらかにされるのである。
つましい生活ぶり。「本と仕事机に占領」というところから、職業を一定の範囲にまで絞り込むことができる。「きちんと整頓」「快適そう」「金儲けにあくせくする人間でなかったことは明らか」と、部屋の様子は、もちぬしの生活ぶりから仕事、経済状態、そうして人となりまで伝えるものなのだ。
家とは何なのだろう。
ためしに「家」という言葉を辞書でひくとこうある。
「人が住むための建物」がどうしてその人の生活ぶりや人となりを伝えることになるのだろうか。
作品に描かれる家や部屋を見ることで、家とは何か、考えてみたい。
しばらくおつきあいください。
(この項つづく)
小説を読むとき、かならずといっていいほど主人公や登場人物が住む家が描かれる。
それは細長い、うなぎの寝床式の小さなアパートだった。部屋は全部で四つ、家具も少なめである。一つの部屋は本と仕事机に占領されていて、もう一つの部屋は居間の役割を果たしており、残り二つが寝室になっている。どこもきちんと整頓してあって、細かいところを見ればみすぼらしさが目立ったが、全体としてはひとまず快適そうだった。とにかくファンショーが金儲けにあくせくする人間でなかったことは明らかだった。だが僕だって大きなことを言えた義理ではない。僕のアパートはこれ以上に狭苦しく薄暗かったし、毎月の家賃を捻出するのがどんなにたいへんかはよくわかっていた。ポール・オースター『鍵のかかった部屋』(柴田元幸訳 白水社)
幼なじみのファンショーがいなくなったという連絡を、ファンショーの妻から受けた主人公が、ファンショーが暮らしていたアパートを訪れる場面である。
赤ん坊のころに出会って、少年時代にことのほか強い絆を結んだ主人公とファンショーだったが、大人になり、互いに疎遠になり、ずっと行き来していなかった。そういう人間のくらしぶりがこの部屋の描写であきらかにされるのである。
つましい生活ぶり。「本と仕事机に占領」というところから、職業を一定の範囲にまで絞り込むことができる。「きちんと整頓」「快適そう」「金儲けにあくせくする人間でなかったことは明らか」と、部屋の様子は、もちぬしの生活ぶりから仕事、経済状態、そうして人となりまで伝えるものなのだ。
家とは何なのだろう。
ためしに「家」という言葉を辞書でひくとこうある。
(1)(ア)人が住むための建物。住居。家屋。
「立派な構えの―」
(イ)自分のうち。我が家。自宅。
「―へ帰る」「―の者が待っている」
(ウ)生活の中心となる場所。家庭。所帯。
「結婚して―をもつ」(三省堂提供「大辞林 第二版」より)
「人が住むための建物」がどうしてその人の生活ぶりや人となりを伝えることになるのだろうか。
作品に描かれる家や部屋を見ることで、家とは何か、考えてみたい。
しばらくおつきあいください。
(この項つづく)