ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

そんなモンじゃなかった

2012-01-21 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
すみか「でも、髪。結わいてくれたんですよね」
愛「そ、二度も。酷い事言ったのに…。繭子さんがどんなに苦しんでいたか、考えてなかった。知ろうともしなかった。結婚して、幸せなんだと勝手に思い込んで…傷付けた
すみか「…」
愛「それを、簡単に許せるって…あの人、バカよ」
櫛が、す…と通るのね、きれいな髪…羨ましいわ。
ちょっと、遊んでいい?
ねぇ、こんなの、どう?
微笑んだ繭子さんに、ドキッとした。どうして、私に、笑い掛けられるの?
気恥ずかしくなって、繭子さんから目を逸らして、鏡に映った自分を見た。
そこには自分じゃない自分がいた。
かんざし…って付けた事無かったから、幼い顔が少し大人びて、嬉しかった。
あら、もう崩れちゃったの?クス…貸しなさい。
いい?髪をこう束ねて、クルルと二回巻いて、かんざし180度、キュッと挿す。
挿すのは得意でしょ?
二度目は、自分でも結わけるように挿し方を教えてくれた。
酷い事言ったのに、
ありがと…って言ったの、私に。酷い事言った私に、ありがとって…
すみか「…」
愛「斯波さんも、かんざしくれて…こんな私に、優しい…」
すみか「愛さん…」
愛「ほっとけば良いのに…他人なんて。でも、優しいの」
大切なモノを奪われ、自棄(やけ)になって…
“能乃女”
この傷の誓いと、現実から目を逸らしていた。
「しっかり見てないと…そういうバカ…逃すよ」
すみか「これでも…」ゆっくり、胸から手を離して灸の痕を見せて「…ですか?」
“傷モンかよ”
愛「ちっぽけな傷ね。繭子さんの傷は、そんな可愛いモンじゃなかったわ」
すみか「え…?」

真の愛の、刻印

2012-01-20 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
土岐「今、叫び声が聞こえたような…」様子を見に来た。
斯波「…愛の雄叫びだ」ごろ…と面倒くさそうに横向いて、背を向けた。
土岐「飲み直しますか?」直さないと分かって、背中に聞いてみた。
斯波「もう…飲めねぇよ」
土岐「…風邪、ひきますよ」斯波さんの隣で、空を見た。
斯波「そんなヤワじゃねぇよ」
土岐「そうですか…」
一筋の星が流れた。それが、斯波さんの涙のように思えた。
二人で…、料亭内の大浴場に行って、脱衣所でこっそり、
すみか「…」サッと胸を隠しながら、着物を脱いでいたから、
愛「女同士よ」小娘の乳見たって…ちろっと睨んだら「…(でかッ)」発育が良かった。
その胸のふくらみに、ケロイドが見えた。
白い胸に、灸(やいと)の痕。理由は何となく分かった。
幼い胸を隠す理由が、彼女から見て取れた。
「いくつ?」
不意に質問したから、
すみか「あ、あ…15…に、なりました」びくびく、おどおどして、声が小さ…。
愛「ねぇッ」着物を捲し上げて、バンッと「見てッ」太ももを晒した。
すみか「…能乃女…?」太ももに、文字が刻まれていた。
愛「私の許婚 能盛(よしもり)…自分でやったの。だから、ちょっと…へがんじゃった」
すみか「自分で…」
愛「アイツの女だって証…これ、消えないのよ」
すみか「それ…消しては…」
愛「死んで三年。この世に…いない。戻ってこないのよ、私だけ進んじゃった」
すみか「…」
愛「って、いじけてたら…斯波さんに、お前は、汚ねぇって、さ…」と脱いで、ガラ…と浴室に入って、掛け湯で太ももを流して…「きれいになぁれ」と呪文を唱えて、湯船に入って、「風邪、ひくよ」と、すみかちゃんを湯船に誘った。
すみか「はぁ…」左胸を隠しながら、片手で掛け湯を流して、ちゃぷ…と小さく入浴した。
愛「私さ、繭子さんの、ここに」胸の辺りを手刀で「ざっく…」と切る真似をした。

それしか…、無い

2012-01-19 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
斯波「そんな事させるかッ」
たった一回の過去で、
死んだ末摘花、それに苦しみ続けるすみか…
慰めればいいのか?
何を言えばいい?
優しいウソでも付いて、本音を隠して、口から出任せを言えば、
救いになるのか?
答えが出ず、息苦しい沈黙が続いた。
すみか「…死んだら、きれいになれますか?斯波さん…」
斯波「バカがッ。そんなんで、」末摘花の思いと、すみかを抱き締めて「なれるかッ」
ムクッ、起き上がって、
愛「私も、きれいになりたーいッ!能盛ぃー!うぁーーー…」
好いたヤツに死なれるってのは…、
斯波「愛…」救いようがないのか?
すみか「め、愛さん…」
ガシッ、抱き締めたら、
愛「うッ…」吐き気が…「ぐぇ」びちゃッと、
すみか「あ…」着物に…、
斯波「…。出直して来い…」
すみか「…はい」
愛「ご、めぇ…ん」涙と吐き気が吹っ飛んで、一気に酔いが醒めちゃって、
すみかちゃんと二人で、お風呂を借りに料亭に戻った。
その背中を見送って、斯波「…たくッ」ゴロン、と寝転んで「どうすっかな…」
キラキラ…輝く星たちが、
ケラケラ…笑ってやがる。
遊郭から出した事、
末摘花の名をやった事…全て、裏目に出た。
一度振られた賽(さい)は覆る事無く、人生に逆転はない。過去を消すには…、末摘花…
「それしかなかったのかよ…」
すみかの処遇を考えあぐねていたら、

傷モンの売りモン

2012-01-18 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
おいッ、売れなくなったらどうするッ。
う、売る?
うちには、金がない。弟たち、腹空かせて…、お前なら、メシ、食える。
そ…、そんな、おとう、義母(おか)ぁ…私、や…
咲良、お前も男ならな。
12歳になった。その日に、私は売られた。
愛想の無い子だね。ほら笑ってみな。
いいかい?男の前だけでも笑って。目ぇ瞑ってりゃ、すぐ…済む。
目を閉じ…、
なんだぁ?傷モンかよ、ほかの禿(かむろ・10代の遊女)に替えてくれ。
…すみません。
何で黙ってたんだい。そんなじゃ…商売になりゃしないよ。…手元でもしてな。
はい…。
旦那ぁ、ちょっと傷あるけどいい子なんだ。どうだい?
あん?なんでもいい、連れて来い。
あいよ。
気の良さそうな御男(おひと)だよ。好きなったフリして、愛想しな。可愛く転んでみせて、
馴染みにしな。王子様になってくれるよ。
王子様…、この傷を見たら、どう思いますか?
…さぁ、行っといで。
ドン、背中を押されて、
「斯波さん、私の、」着物を、グッと掴んで、左胸を出して「…汚いですか?」
斯波「…。だから、出した」その胸の傷痕は…、
すみか「私…、何も、してないです」
斯波「あぁ」
すみか「でも、汚いん…です」
斯波「すみか…」
“お前は、今日からすみかだ、いいな”
「そんなんじゃ…末摘花になる」
すみか「末摘花さんになれば、きれいになれますか?」

遊女の傷痕

2012-01-17 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
羽目外した酔っ払いを、
斯波「おい、大丈夫か?」介抱して、
愛(めぐ)「ぐぇ…吐、き…そ」
斯波「たくっ」背中をさすってやって、
愛「かんざし…、ありが…と」って、斯波さんの方を向いたら、満天の銀星がキラキラ煌いて、まるで、斯波さんがくれたかんざしみたいで「きれ…」だっ…た。カク…と、
斯波「おいッ」…寝ちまった?
そこへ、すみか「あの…」お碗に水を汲んで持って来たが、
斯波「無駄足だったな」すみかから碗を引っ手繰り、一気に飲み干し「ん…」と碗を返した。
「お前も寝ろ。明日、送ってく」
すみか「…戻りたくありません」
斯波「あん?」
すみか「私、汚いですか?」空になったお碗を見つめて「…そんなに醜いですか?」
斯波「何か…」折檻の痕…「言われたのか?」
すみか「…消えないんです」12で遊郭に売られ、斯波さんに出してもらった。でも…、
「どんなに時間が経っても、毎日、洗っても…消えない…んです」
遊女…だったらしいわよ、あの子。
へぇ、可愛い顔して…やるモンだ。
姑息な手ぇ使って、誑かしたんだろ。
ち、違います。私、何もしてません。
平気でウソ付いて、おっか、泣くぞ。
「だから、末摘花(すみか)さん、逝ってしまったんですね」
斯波「ち…」
すみか「今でも聞こえるんです。離れないんです。…汚いってッ」
過去に浴びせる罵声、見下ような冷たい視線が「もう痛くないはずなのに…痛いんですッ」
斯波「…」事情も知らないヤツが、キレイな心を腐らせやがって。遊郭から出したのは、
すみか「何もしてないのに…毎日毎日、汚いって言われるんです」
いつまで、メシ食ってんだい。このッ穀潰しがッ。
グイッ、着物を引っ張って、ジュッ
あつッ、

森の鬼退治・白鷺と愛筆と、物語

2012-01-16 | 森の鬼退治
泉「中村様、いろいろと、ありがとうございます」夫を弔うことが出来た。しばらくして、私は男(おのこ)を出産し、この中村 一氏(かずうじ)様と再婚した。
時は流れ、弟たちも大きくなり、関ヶ原開戦。その時、池田方は徳川方に付き、勝利した。
その後、海上貿易の拠点 姫路に移った池田は姫路城主となっていた。
輝政「姉上、いかがです?」城の改築工事が終わったので見に来いと私を姫路に呼び寄せた。
泉「見事な…まるで、父上様を見ているようです」白く大きな翼を広げ、立ち舞う姿…、

輝政「白鷺城です」
泉「雄々しいお姿…」白鷺と、脳裏に浮かぶ父上様が重なって見えた。
輝政「どんな事があっても、決して落城致しません」(彼が断言した通り大戦中、砲弾を受けず無傷だった。その事からも難攻 不落城と讃えられ、昭和26年世界文化遺産に指定された)
「きっと、義兄上様も、天から眺めておいでしょう」
輝政は父や兄たちの意志を継いで立派な城主に成長していた。城下町や運河の整備、また、芸能文化、教育にも熱心だった。しかし、五十歳で急遽。長男 新之助が家督を継いだ。しかし、貿易拠点を任すには年若く、国替えとなった。白鷺城には本多 忠勝様の嫡男 忠刻(ただとき)様が城主となられ、大坂夏の陣で助け出された家康様の孫娘 千(せん)姫様と婚儀を交わし、ここで暮らすことになったという。
本多「心苦しく思います、安養院様」その後、本多殿と話す機会が設けられた。池田と私を配慮しての事である。その頃、私は剃髪し尼となり、泉から名を安養院と改めていた。
安養院「いいえ。長久手の、お礼のつもりでしょう」
小牧 長久手の戦いでは、世話に成ったと、そう父が言っているように思えた。
あの戦は、私から多くのものを奪った。代わりに彼らの意志と、忘れ形見の子を授かった。

戦以来、鉄砲を持つ事が出来なくなり、代わりに夫の形見の、愛筆を持つようになっていた。長可の筆を見つめ、湧き上がる思いとは…我が子たち、教え子たちに男の生き様と死に際を伝えたい、という事で…、池田の父と弟たち、森の鬼と恐れられた夫と、それを見届けた男たちを後世に遺したい。この乱世、刃突き合わせる事止むを得なく、しかし、戦においての弔い(敬意)を決して忘れない。それを教えて下さった信長様の思い『敦盛』と共に、私は男たちの物語を描いていた。
コト…、長可の愛筆を置き、安養院「父上様、もう…よろしいでしょうか」
天を仰ぎ、私は目を閉じた。夫、長可の元へ「逝かせて頂きます」
物語を完結させ、私は来世へと続く永い眠りについた。(番外編・森の鬼退治-完-)

森の鬼退治・鬼の離縁状

2012-01-15 | 森の鬼退治
中村「池田様は最期まで長可様を…、立派な最期でございました。それと、長可殿の懐に、」
血に染まった書状を差し出した。その内容は、
泉「遺言…?」ではなく、離縁状だった。
---
泉、腹の子は、よく蹴っているか?
女子なら、銃等持たすな。医者に嫁がせろ。
男子なら、御父上様のような武将に育てよ。
俺のように、最後の最期まで聞き分けのない、出来の悪い息子にはするな。
俺は御父上様の後を追う。あの世でまたお叱り受けるだろう。
だが、父と子と、ゆっくり酒が飲みたくなった。戦に飽きた。
戦の度毎に心が壊れた。流れる血が己の血か、人か、鬼か。
そんな鬼の血を流させ、手当させてしまって、泉、すまん。
ひと時であったが、白装束を脱いだ時、幸せと思った。
心残りは、お前と子を幸せに出来ぬ事、許せ。
今回の件、お前たちの事は“秀吉様”にお頼みした。案ずるな。
今後、火急の時は“家康様”に御相談するよう、弟たちによくよく申し付けよ。
申し付け終わったら、再婚して好し。幸せになれ、子を頼む。

泉、白装束が嫌いだと言っていたな。
俺も嫌いだ。お前の白装束など見たくもない。
だから、先に逝く。

もし、来世、許されるなら、
白き水に咲く花の如し
美しき白鷺の子を愛でたいものだ

さらば、森 武蔵 長可
---
享年27、源氏の白鬼といわれた長可の首は父の眠る可成寺(岐阜県可児市)に埋葬された。
こうして、一番下の弟 千丸を残し、森の鬼退治は終わった。

森の鬼退治・貫かれた父の背

2012-01-14 | 森の鬼退治
「“羽柴軍”より、使者にございます」サルからの買収と、
池田「家康殿が…羽柴に寝返った?」情報が錯綜し、混乱を招いていた。
之助「もはや、家康も…敵?」小牧 長久手で両軍に挟まれ、長い膠着状態が続いていた。
池田「…」これではまずい「私が奇襲をかける。二人はその隙に、本陣から撤退だ」
之助「なりません。父上、それは…」自殺行為だった。
池田「酒が飲みたくなった…逝かせろ」人生五十、息子と娘婿の勇姿を拝め、満足だった。
長可「共に、飲みます」
池田「ダメだ。お前には、泉がいる。それに、腹の子も。下がれ」
長可「…。はい」久しく聞いていない素直な返事と…「義父上様…」そう呼ばれて、
池田「父は、」それだけで本望だった「先に逝く」長可の隊を本陣の後ろに下げ、私は家康方に奇襲をかけ…「何ッ!?」鉄砲隊の連射が、紫紺の空に響いた。
之助「森の陣に奇襲ッ!?」
池田「援護に、」向かおうとした時、本陣が家康方「本多…」の別動隊に囲まれ交戦となった。
之助「ち、ち…うえ…」息子が討ち取られ、私も、
池田「長…よ、し…、」背を、槍で貫かれた。
本多「長可殿は…、」
池田「…」息子たちを守れぬ父で「…す、ま…ない」
“共に、飲みます”
あの世で父子水入らず、飲む…か。
池田 信輝、享年49。奇しくも信長と同じ年であった。
一方、長可の陣では彼の鎧は剥ぎ取られ、白装束は無残に切られ、その体に首は無かった。
その首の行方は…、
中村「御方様にお目通りを…」血に染まった布包みを抱え、使者がやって来た。
泉「中村…様?一体…何?」恐る恐る包みを開いた。その中に「ハッ!」長可の首があった。
中村「本多が泉様に、と…」
泉「本多様…」彼の首を人目にさらしたくないと、私に戻してくれた。
長可の額には、鬼の角をへし折られたような鉄砲の傷跡があり、鼻はそげ落とされていた。
中村「池田様は…、」徳川方に手厚く葬られたと聞いた。
泉「家康様と…本多様に、お礼を…あ、ありがとうございます」夫の首を抱き締めて、
千丸「兄上ぇー」弟たちと共に、泣いた。

森の鬼退治・戦の鬼と、花

2012-01-13 | 森の鬼退治
池田と、せんと本多は後に深い関わりを持つ事になる。
泉「ありがとうございます」小さく頭を下げ、ゆっくり顔を上げた。
松明に照らされた本多様のお顔と逞しい腕が見えた。それをぼんやりと眺めていたら、
池田「泉、失礼だぞ」
泉「は…申し訳ございません。本多様の、甲冑のお姿しか拝見した事がなく、」…うつむいた。
本多様は前立に大きな鹿の角をあしらった鹿角脇立兜、姉川の合戦での活躍が信長様の目に留まり『花実(かじつ)兼備の勇士』と讃えられた。
戦法は長可と同じく、単独で敵陣に突入する、けど「戦では、かすり傷一つ負わないとか…」
血の気多く、無茶しがちな彼とは似て非なる方で、羨ましく思った。
本多「…長可殿は、」武田征伐の際に手傷を負って「…大事ないですか?」
泉「大事…、ありません」見え透いたウソだった。小指が切断され…出血がひどく、
池田「もういい。長可に付いてやれ」
泉「はい。では、本多様、失礼仕ります」礼をして、下がっていった。
本多「…」彼女の、か細い背中を見送り「長可殿の…白装束は、いつからなのですか?」
池田「さぁ、いつからでしょう」家督を継いだ13には、死に装束(死ぬ覚悟)をまとっていた。
…だから、家族を持たせたい、そう思うのは父の、私のエゴかもしれない。新たな家族を持ったなら死をまとう事、止められる。その役目を泉が果たしてくれるなら…と、その後、二人の結婚を許した。長可もこれを機に死に急ぐことはあるまい、死に装束を脱いでくれると信じた。しかし、本能寺の変が起き、再び死をまとった。
我ら主君が討ち取られ、織田後継者 信忠が死に、
“池…田様、気を、つけて…”
池田「蘭丸が、討ち取られた…?」
泉「そ、そんな…、幼い子たちまで、どうして…」
長可「武功は武功だ」三人の弟たちの死に涙も見せず、ただ、グッと堪えた拳を作っていた。
ポタッ、切断された小指から血が滴った。
泉「長可…」森家で残されたのは彼と、一番下の弟 千丸のみ。
私は白鬼の血の涙を受け「千丸は、私が守ります」再び、鉄砲隊長を志願した。
とうとう織田後継者争いが起きたのだ。信長の孫 三法師(後の秀信)を押す秀吉と、信長の、最愛の方 吉乃(きつの、生駒方)様の忘れ形見 信雄(のぶかつ)を援護する家康との戦いで、
池田「我ら、信雄殿をお守りする」家康方に付き、陣を取った。しかし、

森の鬼退治・せん、という名の女

2012-01-12 | 森の鬼退治
本多は家康の今川義元に人質時代から仕える重臣だった。
家康には今川の姪 瀬名姫(築山殿)との間に信康(信長の娘 徳姫と結婚)がいたが、その正妻が信長のライバル関係にある武田勝頼と内通しているという疑惑から、
信長「よきに計らえ」と、家康は瀬名姫と長兄に切腹を命じた(築山事件)。
その年に生まれたのが、三男 竹千代(後の二代将軍 秀忠)で、本多はその教育係だ。
父が兄に切腹を命じた、その真相を知って幼心に傷を残したのだろう。父が許せぬ、と。
本多「心開かぬ子で困っております」
そういえば、長可も幼き頃、心開かぬ子だった。
“…人質、なのか?”
そう言って、私を見た。その鋭くも哀しい目が焼き付いている。
池田「若君は、おいくつになられた?」
本多「四つ…、もう五つになります」
池田「一番、多感な時だな」
本多「一番、伸びる時です」
池田「という事は、」その伸びる時期に、本多に任せたという事は「家康殿は若君を、」
本多「さぁ、それは…」言葉を濁した。
(次男は長久手の戦いの後、秀吉との和睦に養子(人質)出された)
池田「そうだな」彼は思慮深く、沈着で言葉を選ぶ男だった。
そこへ、追加の酒を運んで来た泉「父上、お持ちしました。どうぞ…」本多様に酒を注いだ。
本多「お初にお目にかかります」女鉄砲部隊長の「噂は兼々伺っております」頭を下げた。
泉「噂…は、その…」気恥ずかしくなり、深々と頭を下げ「あ…ありがとうございます」
池田「くッ」と笑って「噂など、信じるに値せず」
本多「は?」
泉「父上ッ」シーッと人差し指で合図して「言わないで下さい」とお頼みしたのに…、
池田「裏で、ベソかいておりました」チビッと酒飲み、娘を酒の肴にした。
本多「はぁ…」噂では、男たちの度肝を抜き玉無しにして撤退させたとか、
泉「…怖かった…戦は、」訓練と、実戦の違いに相当応えたらしく…「もう嫌にございます」
本多「よく、頑張られました」
泉「弟たちは、」森家の末っ子 千丸も「まだ幼く、戦となれば女も城を守らねばなりません」
本多「それは心強い」武将の妻に相応しい、泉殿を見て「…美しい響きの名ですね」