ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

森の鬼退治・敦盛と熊谷

2012-01-11 | 森の鬼退治
明智光秀「始まりましたよ、信長様の敦盛…」彼が三人の間を取り持ってくれる。
池田「ほ…」明智がいてくれて助かった。彼は聡く場を取り成すのが上手い。難しい交渉や朝廷への使者も担ってくれる。ただ、私たちよりも高齢で…彼、亡き後どうなるか。
その不安は信長の同じで、その不安を抑え、死者の鎮魂のために信長は舞う。
『敦盛(あつもり)』
敦盛は敵に背を向け、馬を走らせた。それに対し、
熊谷「敵に背を向けるとはッ」
敦盛「ならば、」馬を止めて「この首を、取れ」兜を脱いだ。その顔を見ると、
熊谷「年は?」
敦盛「16」の美少年だった。
熊谷「…この場から立ち去られよ」逃そうとするも、
敦盛「敵に、背は向けられん。私を打て」と首を差し出した。
首を落とした熊谷直実(なおざね)は16という息子と同じ年頃の、その若い命を人目にさらしたくないと敦盛の首をこっそり盗んで、別の場所に埋めた。
(後世、二人を弔う霊廟が高野山に並んで建てられました)
若い頃は敦盛に感銘を受けた。今、私も子を持つ親となって、熊谷の、父としての気持ちを考えるようになった。戦での情けは無用、しかし、人として、父としての熊谷の行動が私の心を打った。信長も四十後半に差し掛かり、舞に変化が生じた。年(寿命)のせいかも知れん。
…人間五十年 化天(第六天の寿命)の内をくらぶれば 夢幻のごとくなり
一度生を受け滅せぬ者の有るべきか…
死のうは一定 しのび草には何をしょぞ 一定語りおこすのよのう
(生ある者死ぬ定め、人生50限られた生の中で死に囚われる事無く生きる…それが、悟り)
信長は、第六天になれるものならなぁ、そう零した事がある。長い寿命を持つ第六天になれば、世を泰平にする事叶う。人ひとり、五十という寿命では泰平には足りない。一人天下を治めたとしても維持するのは困難。それ故に後継者がいる。だが、周りが危惧するように織田家では育ってはいない。これでは先代斯波、土岐氏族の二の舞だ。相続争い、そのドサクサに紛れ、家臣が謀反を起こす。天下を狙う鋭い目と、この緊張感の中で糸が弾かれたら…。
せめて、長可と蘭丸が独り立ちするまでは「と、」酒が差し出された「君は、本多…」
本多忠勝「お考え事ですか?」この者とは何かと縁深く、話す機会が多く、
池田「君も、同じ悩みがあるのでは?」酒を酌み交わした。

森の鬼退治・森のエリート衆

2012-01-10 | 森の鬼退治
池田「長可、向こうに…」泉を手当てさせようと合図を出したら、
斎藤「そういや、泉ちゃん…御年頃」向こうにいる泉を見て「うちのと結婚させては…、」
池田「断る」マムシの娘と結婚しているお前と親戚付き合い等出来ん「長可、行け」
長可「…」頭を小さく下げ、無言でヤツに一瞥くれて行ったが、そういう態度もまずい。
斎藤「まさか、あの白鬼と?」
池田「娘は医者と結婚させる」
斎藤「部隊長殿が、」二人の様子を嘗め回すように見て「夫に穴あきを回すんですか?」
その頃、泉は女200まとめ上げる鉄砲部隊長になっていた。その戦いぶりが噂となり、
「どう見ても、鬼の援護射撃」
奴の言うとおり、泉は弟たちを守るため、戦に出ます、そう言い出した。
幼い弟たち…血の繋がった弟と繋がらないが大切な長可の弟たちを守りたい、その一心での心願だった。その事が二人の仲は急速に縮めていった。
長可は無口な男だが、戦中においても筆と紙を懐に携え、心情を綴るという能筆家で、その文才は信長も感銘を受けていた。
あの無口が、礼のつもりで花を添えた文でも贈ってプロポーズしたか、先日、泉「森の、鬼武蔵と結婚致します」と言った。ダメだと言って聞くような娘ではなく、
織田「鬼に鉄砲(金棒のつもりらしいです)だな、ははは」と笑っていたが、
池田「笑い事ではありませんッ」二人が結婚するとなったら、それこそ「タダじゃ…」
サルの、羽柴 秀吉「何が、タダ、で?」ヒヒッと顔を出した。
草履を懐で温めるという器量の良さを買われ、信長が草履取りから小姓に採用して重臣に成り上がった。気回し良く、サービス精神旺盛で人たらし(人の心を掴むのが上手い)。さらに、軍師二人を手懐けるほどの交渉上手で信長も重用している。だた、田舎野猿が森の鬼(エリート)を見る目は鋭い。20代先鋭に、30代猿が危惧するもの当然の事。
蘭丸「御屋形様、準備が整いました」
織田「おう」能の達人は舞台に行かれ、それに付いて行く、
羽柴「蘭丸」を呼び止め…「御屋形様は、お優しいか?」と10代新参に茶々を入れる。
負けずの蘭丸「はい」と、にっこり笑って「夜は、格別に、お優しいです」さらりと返す。
池田「蘭丸ッ」そういう挑戦的な態度が家臣たちには鼻につく。しかし、窘めるも利かない。
そこへ「まるで、信長様二世三世、ですな」ポン、と狸の松平が顔を出した。
羽柴「家康殿」と猿が対峙した。この両者、年の頃も近く、天下乱れた時は…「おッ」と、

森の鬼退治・武蔵の森

2012-01-09 | 森の鬼退治
私の子たちも、森の子鬼たちと共に過す時間が長くなり、稽古も同じで、
織田「おッ。いい勝負じゃないか」
池田「そう見えますか?」息子 之助(ゆきのすけ)が木刀を持ち、勝蔵が長刀で対決していた。
同じ年なのだが、体格が随分と違う。
織田「まるで、」面白そうに「五条大橋の弁慶と牛若丸だ」と見ていたが、
池田「…そうでしょうか?」牛若丸が霞んで見える。
織田「よし、武蔵坊 弁慶を戦に出す」15歳で初陣…それはいいとして、
池田「はぁ?」寄りによって、あの羽柴 秀吉と連座させた。つまり、小姓扱いではなく、いきなり「重臣?」扱いだ。もちろん、農民上がりの元 草履取りは面白くない。家臣共々、早過ぎると危惧したが、信長の期待に応えるべく、森の鬼武蔵は戦火に飛び込み、27の首級を上げた。長槍の振り回した、その戦い振りに、
織田「我が槍を持て」槍の名手が気前よく自慢の十文字槍を譲ったから、家臣はもちろん、織田家一族も驚いた。さらには、「確か、森家は源 義隆が祖だったな」
家督を継ぐ者には祖の一字、源氏であれば”義(よし)”を継承する。
「勝。これから、長可(ながよし)と名乗れ」
勝蔵「え…」
織田「我が字(あざな)“長(なが)”と源氏の字でお前の父の字“可(よし)”で、長可だ」
こうして”森 長可”が誕生した。これは、信長が彼を自分と同格であると認めた事を表す。
だが、この名前の一件でも良からぬ噂が立った。信長は長可に家督を譲るつもりだ、と。
ここで、事を収めておかねば、
池田「これでは、家臣たちに示しが付きません」
軍規違反のお咎めを請うたが、書状で注意するに留まり、
織田「良い働きだった。やはり、鬼ノ武蔵だな」その名の通り、武蔵守に就かせた。
20代にして他の家臣たちより多く石高を貰う等、その早過ぎる出世に、
勝蔵「この武蔵長可」微かな喜びを見出していた。主君に褒められる事がよほど嬉しかったと見え「その名に恥じぬ、武蔵の守(森) 長可となります」その様子を見て、
池田「…」教育係、父代わりの私は「良かったな…」嬉しくも誇らしくもあった。
しかし、依然向けられる家臣たちの鋭い視線が「…と」
「よッ、調教師(教育係)様」と現われた明智腹心の斎藤 利三「よく鬼を、手懐けましたね」
長可「…」サッ、と戦での手傷を隠した。

森の鬼退治・鬼に鉄砲

2012-01-08 | 森の鬼退治
ぐるぐる巻きの包帯が見えた。パッと、彼は羽織を正し、それを隠した。けど…、
蘭丸「にぃちゃん、それ…、まさか、お前がッ!」
池田「…」今度は私が標的か…?
泉「このぉ、やんちゃ丸ッ!父上様になんて事をッ」
蘭丸「え…」一瞬、動きが止まり「ちち…う、え…うえぇー」泣き出してしまった。
泉「ら…蘭丸」彼はお父上様と一番上の兄上様を亡くしたと聞いていた、だから「…ごめん」
勝蔵「泣くな、兄ちゃんがついてる」懐に弟を埋めて、慰めていた。弟思いの兄なのだと分かった。多感な時期に父の死を経験し、私は信長の若かりし頃を思い起こしていた。
17で父を亡くし、人質だった兄も死んだ。次男でありながら家督を継いだが、その時、悲劇が起こった。信長の教育係 平手政秀が諌死(かんし)…織田家の家督相続争いに平手様が息子を押すのでは、との疑いが浮上したのだ。この一件を治めるため、彼自ら死を選ばれた。
さすがの平家赤鬼といわれる彼も堪えたらしく、泣いていた。そんな己と子鬼たちの生い立ちを重ね、織田「こいつらを引き取る」と言い出した。それは良いとして「教育係、頼むな」ポン、私に子鬼どもを預けて、
池田「ふぅ…」参った。
勝蔵「…」無口で何を考えているのか分からん。蘭丸は、
泉「ほら、男の子でしょッ」感受性が強く「いつまで泣いているの」不安定だった。
勝蔵と年の近い泉が弟たちの面倒を見てくれ、助かった。よく世話を焼いて…、
勝蔵「余計な事をするな」
やっと口にした言葉がこれだ…。先が思い遣られる。
泉「なッにぃ!」今度は、こっちの二人に険悪なムードが漂って、
池田「泉、少しお淑やかにな…」
サッと、懐から、
勝蔵「短銃(拳銃・ピストル※)…」を突き付け、
泉「試してみる?」と勝蔵に短銃を「バーンッ」と空打ちした。
池田「泉ッ」
※当時、火縄銃の小型改良版、西洋の短銃を作らせていた。その試作品の、
蘭丸「カッコイイ」おもちゃのピストルを「貸してッ」
泉「はいッ♪」コロッと、池田「…泣き止んだ」それには、
勝蔵「くくっ」小さく笑っていた。弟たちの扱いは泉の方が上手のようだ。

森の鬼退治・死に装束

2012-01-07 | 森の鬼退治
池田「切腹?」羽織の下に白装束を着込んでいた。
ザッ、刀を突き刺した瞬間「待てッ」止めたが、腹から血が流れ…、
織田「面白いヤツだな」織田から笑みが消えた。
池田「な、なんて子だ」表情一つ変えず切腹しようなど、
勝蔵「これで、弟たちを返せ」鋭い目で、俺を睨んだ。
織田「死んだら、戻って来ん。おい、手当てしてやれ」関守を切ったお咎めは免除となった。
池田「…はい」別室に連れて行き、手当てを施した「君が死んだら、幼い弟たちはどうなる?」下の弟は七つになったばかり、その下にも弟が三人「君は、生きて弟たちを守らねばならない。その死に装束は…、」
勝蔵「…人質、なのか?」
池田「違う」関守を切った理由か…「君の弟は、私の子たちと遊んでいる。少し、」
血が止まらない「その緊張を解いてくれまいか、これでは…」
勝蔵「…」素直に治療を受けていたが、私に警戒している。敵意と殺意が剥き出しだった。
池田「君のお父上 可成様は恩義ある方だ。我々は敵ではない。君たちを人質にするなど、」
勝蔵「味方が主君を裏切り、敵となった」いつ、敵になるか…信頼出来ないのも、
池田「…致し方ない。ただ、この時代に生まれ、家督を継いだなら残された氏族を生かす事を考えろ」やっと血が止まった…「これで、手を洗え」水を張った桶を差し出した。
勝蔵「家督…」チャポン、水が血色に染まって、手がきれいに洗い流された。
池田「手を拭け」白い布を渡した。主君が家臣に滅ぼされた。この下克上では「誰に就くか、どこで生きるか、生をどこに繋げるかを考えろ。死の覚悟は、その後だ」白装束を脱がせた。白装束の下には筋骨隆々とした肉体が隠れていた。私の羽織を着せて「すこし、大きいな」成熟している体に未熟な心、何ともアンバランスで…危なっかしい。
若ければ、やんちゃという簡単な言葉で片付けられるが、家督を継いだ以上…「は?」
ダダダダァー、
泉「待ちなさいッ、このぉ、乱暴丸」の首根っこをひっ捕まえて「お仕置きよッ」
乱暴丸と言わているのが、森家の三男 蘭丸で、
池田「泉(せん)…」というのが、私の娘「向こうで、遊びなさい」
泉「遊んでいたら、このやんちゃ丸がッ」
蘭丸「後ろ取られる方が悪いッ」木刀を振り回して、
泉「ここで振り回すのは止めなさい」拳骨を振り上げ「て?」止められた。その男を見たら、

森の鬼退治・事の始まり

2012-01-06 | 森の鬼退治
池田「との、事ですよ」と、妻に文を渡して、
瑠璃姫「私似て、おませになった?」ちらっと泉(せん)を見て「そっちに似たんじゃない?」
池田「俺は、おはじきはしません」娘を見て「アイツ、仕込んだな…」
瑠璃姫「将来、忍と結婚したいとか言い出しかねないわね」
池田「娘は、医者としか結婚させません」
越前 斯波邸に連れて行くと、愛弟子 義隆から何か仕込まれてくる。パチンコ(親指に小石を置いて弾く投石)、手裏剣、吹き矢、しかも…、カーン「…100%100中だ」
瑠璃姫「親の思い通りになる子なんて、いないわよ」その読みも的中し、
「私、森の、鬼武蔵と結婚致します」と言い出した。
池田「ダメだ」と反対したが「…嫁いでしまった」
森家とは何か因縁めいたモノがあるようで、先に義隆も婚儀を結んでいたし、摂津に拠点を置いた我ら池田も信州木曾と信濃森との情報交換と、美濃の押さえとして婚儀を承諾した。戦を避けるため、とは言え、男親としては、複雑だ。
娘の婚儀で摂津(堺)と北陸の北前船の寄合港 岩瀬の森家を中間点として信州信濃との繋がりが360年ほど続いたが、安土桃山 戦国時代に入り、その関係が揺るぎ始めた。
当時、森家は美濃 土岐氏の重臣で、各大名から恐れられる諜報部隊に成長していた。ここに立ち塞がるのが、あのマムシの息の掛かったヤツらだ。元の名は知らないが、膏(あぶら)売りから身を起こし、複数回名を変え、美濃土岐氏の側近と成っていた。
そこで土岐氏族最大の不運が起きる。後継者問題だ。マムシは、このドサクサに紛れ、毒を盛り一族を滅ぼし、美濃の大名に成り上がった。そして、次の標的は、土岐氏族重臣 森 可成(よしなり・長可、蘭丸の父)、彼は主君を土岐氏から織田氏に変えて存続を図っていた。
しかし、織田信治(織田信長の弟)様と共に戦死、享年48歳。戦国乱世人生五十といわれるこの時代、武士として戦で命散らすのは本望だろうが、彼の長男 可隆(よしたか)も父の仇討ちにと敵を深追いし討ち死、享年19。長男の死に、残された五人の弟たちをどうするか…、
池田「彼が、その…弟、ですか」森家の次男は、
織田「とんでもない問題児だな」愉快そうに、笑っていたが、
池田「笑い事ではありません」織田方が作った関所で足止めされ、それに激怒。関守を切って捨てたとか、しかし、見れば「まだ15、6の子どもではありませんか」父と兄を失い、13で家督を継いだというが、咎めるにも年齢が…と「ちょ、ちょっと待て」
勝蔵(かつぞう)「これで…、」羽織を脱ぎ始め、落とし前(けじめ)をつけるために、

医院の前進

2012-01-05 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
長男次男、長女に幼子たち。上の子は下の子をよくよく面倒見て、貴方たち兄弟を見ているようで、微笑ましい限りです。子とは気付かぬうちに親の背を見ているものなのですね。
子供たち、それぞれに己の進む道を見つけたようです。そして、その道に灯りと、道しるべをつけたのは、夫の死なのかも知れません。
長男は父の仕事、政について、下の子は医療、薬学について、娘は介護について質問するようになりました。特に、下の子については専門的知識と教養が必要かと思い、来春にでも泉学舎(せんのまなびや※寺子屋の前進、私塾)に入れたいと考えておりますので、よろしく厳しく御指導下さいませ。
逞しい子たちです。私は、と言えば、女医とは名ばかりで夫の病の前では無力なものでした。
夫の、病と命と向き合い、私の医者としての役目は何だろうと塞ぐ事が多くなりました。
夫から託された7つの命は大きい。しかし、その命のバトンを無駄にしないためにも、これからの時間、自分の思い描いた夢のために使いたいと思います。
先日、三条通りに典薬寮(律令制の医療・調薬施設)の建設申請を朝廷に申し立てました。
薬と治療費はまだまだ高く、民間の手には届かない。それに、もう一度、病と向き合いたい、救える命があるなら、私の手に届く所から救いたい、救えるはずの命がもっとあるはずです。
その思いを遂げるためには、国を挙げて医療支援を行わねば成りません。
それには医学を志す、良き人材が必要です。
本題に入りますが、泉学舎には支援者(スポンサー)になって頂きたい、忌部様には寝具その他寝巻きなど支援を賜りたいと思っております。申請が通り次第、民間医療施設、医院(後の、民間総合病院)を開業させます。
私の、新たな夢と、決意と、未来の医療と命のために、ご協力を賜りたいと存じます。
追伸、
夫が最期、私を妻として良かったと言ってくれました。結婚させてくれた貴方たちのお陰です。ありがとう。最期に必要としてくれたのは女医ではなく、妻だった。そう思える瞬間が私にはある、それが何よりの救いです。これからは、そういう身近な幸せをこの手で救えるよう、尽力したいと思います。
花山院 藤原 冷香
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三条様は、その後、藤ノ木医院を創設され、多くの人々を病から救った。彼女らの、7人の実子養子ともに医院を手伝い、分院を作る等して、医療を広めていった。

夫の病と、女医の妻

2012-01-04 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
兼雅「ふ…」ワインが顔に近づいた。ワインのルビー色のせいか?その顔が陰って見えた。
池田「…まさか、体調が思わしくないのでは?」
兼雅「寝不足な、だけだ」
池田「そう…ですか?」不安が過ぎった。
この不安は的中し、兼雅様の体調は次第に悪化した。
これは、彼らが宮中に戻ってからの話だが、
兼雅様は姫の開発した六神丸を飲み続けていた。しかし、快方に向かわず…。俺たちは薬を届けやすいようにと薬の研究所を故郷 吉備から京と堺に隣接した摂津の北に移した。
ここは匠の父 忌部成明さん越前問屋にもほど近く、反物と薬を運びやすかった。当時、俺の代わりに民の暮らしぶりを調査して報告する諜報部伝令隊に属していた匠が、笈(おい)に薬を入れ、手には反物風呂敷、文を携え、宮中、そこから北上して越前 斯波邸からの三国港から船に乗り、越中、越後の側室と酒田と北陸から東北を回った。
渦中の人 母 呉葉は、俺の娘 泉(せん)の面倒を見ながら、成明さんの呉服屋を支え、表向き若い娘たちに着付け教室を開き、その裏で売薬業を手伝っていた。美しく着付けられた娘たちから、ここを、母の名 呉葉にちなみ、呉服(くれは)の郷と名づけられ、その後、大阪府池田市呉服町(大阪国際空港・伊丹空港近く、宝塚の隣駅)となる。
ここは薬作りには欠かせない水が豊富で、近く五月山の箕面(みのお)の伏流水を利用した呉春といった酒造りが盛んに行われた。堺 港町の物流拠点、産業発展の基盤となった町である。
さて、華やかに行われた花山院 藤原 兼雅様と冷泉院 冷香様の御成婚から11年目のある日、
匠「三条様から文だよ」三条通の新居を構えられ、三条様と呼ばれていた冷香様から、
池田「俺に?」その文の内容は、
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皆々、息災ですか?泉は、もう十になりますね。
瑠璃に似て、おませさんに成長している事でしょう。
先日、夫の一周忌を執り行いました。この一年は長く、過ぎてしまえば早いものでした。
子たちが成長させるに、ちょうど良い期間だったと思います。
来年春、十になる長男が元服したいと申しました。喪明けの皐月に元服の儀を行う事に致しましたので、儀礼服と下の子たちにも心晴れやかなる着物を繕ってやって下さいませ。
六人分の反物、何卒よろしくお願い致します。
思えば、この十年、夫は多くのものを私に授けてくれました。

ペルシャ、シルクの賜物

2012-01-03 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
兼雅「ふぅ…」厠に向かう二人を見て「あれじゃ、宮中の鳥籠には収まらんな」
池田「朝廷の手の内に収まるような兄妹ではありませ、ん?」ふ~んわぁと、
冷泉院「香ばしいわね」こんがり焼き上がった、
池田「ビスケット…?」
基治さん「そ♪」ビスケットと瓶を持って「奥州は黄金の国、異国宝物品がいっぱいでね」
池田「渡来人から…?」
基治さん「そ♪シルクロードから」瓶のコルク栓を、ポン、と抜いて、
池田「ワイン…ですか?」
基治さん「そ♪」ふぅ…ん、香りを堪能して「どうぞ…」婿殿にグラスを渡して、
兼雅「その異国人と…」訝しく、義父上様を見て「何をしておられたのですか?」
基治さん「外交貿易、機密軍事協定…等など」
兼雅「って、それ、私(朝廷)の耳に入れては…」、池田「まずいでしょ?」基治さんを見て、
基治さん「ま、そ、言わず…」ぐいッと、いっぱぁい、ワインを注いで、
兼雅「接待…?」、基治さん「の、つもりの贈呈品(賄賂)を娘と一緒に、どうぞ」
冷泉院「え!?贈収賄…って!?」後ろに、池田「与一…」が、立っていて、
与一「御挨拶を、と思いまして」兼雅様の前に座して「お目通り叶い、恐悦至極に存じます」
兼雅「恐悦?私が来なければ、能子殿と無事駆け落ち出来たはず…」
与一「参ったな…」ポリッと頭を掻き「易々と夫婦になって頂けるような方じゃないですよ」
兼雅「はぁ?」ククッと声を殺して笑う池田を「どういう意味だ?」怪訝な顔で睨んだ。
池田「さぁ。どういう意味でしょう…」与一を隣に座らせて、ワイングラスを手渡して、
与一「ん?」くんと一つ鼻を鳴らし、香りを味わって「何です、これ?」
池田「年代モノの、賄賂(ワイン)だ」
与一「ふぅ…ん。…深いもんですね」
兼雅「…。彼女、宮中に戻るつもりだったのか?」
与一「義経さんはそのつもりで、能子さんもその覚悟がお有りでした」
兼雅「…ところで、君の弟、父親とは会っていないのか?」
池田「いえ、よく…遊んでもらっていました。名乗り出ても良いと言ったのですが、今の幸せを壊したくないと、そのまま…今日、明かしました」由利さんと酒を飲む匠を見て、
兼雅「いいのか?未成年…で、」
池田「いえ、二十歳になりました」抜歯後の酒で歯茎が腫れて「明日、顔をパンパンですよ」

妻の聴取

2012-01-02 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
兼雅「いや、私も掴みたい所だ。世に笑い、民に幸せ。それらを守るのが、大納言(大臣)だ」
“アンタら、偉い人が幸せってモノを分かってないと、俺らの幸せが分からない”
「君の弟も、なかなか生意気な申し立てをしてくれた…」
池田「申し訳ございません」義隆の頭から手を離して、兼雅様に酒を注いだ。
兼雅「その生意気を、私にくれないか?」
池田「え?」
兼雅「松殿が、」能子殿を見て「諦めるとは思えない。それに、美殿も、気掛かりだ」
池田「…その事ですが、」折り紙を見せた。
兼雅「斎藤が…辞職?」
池田「松殿も同じ考えのようです」表向き将軍 鎌倉殿が摂政するに見せかけて、裏で摂政。
「おそらく、松殿の狙いは、二局制政治」
兼雅「一元政治など、見せ掛けに過ぎん」
池田「また、戦を仕向けるので、は…ッ」言葉を止めた。
能子「何のお話です?」
池田「兼雅様が、弟を下に就かせたい、と」
能子「匠君…を?」
兼雅「伝令隊の要請だ」
能子「そんな…」、冷泉院「ねぇッ」話に首突っ込んで「それって、文もOKよね?」
池田「出来ますよ。薬箱や反物に文を忍ばせて…、ほら、嬉しいでしょ?」
能子「…嬉しい、けど…」
義隆「ねぇちゃん、薬、飲まされたんだ。アイツッ、どっかに逃げた」
池田「斎藤…が?」
能子「これ…」黒玉を見せて「何の薬です?」臭いし、苦かった。
池田「正露丸(ダミー)です」
能子「本物は、どこです?」
池田「妻の…聴取が、一番怖いですね」
能子「瑠璃に、渡したわね?」
池田「…」
兼雅「新婚早々、ケンカか?」と笑っていたから、能子「笑い事ではありませ…ん?」と、
義隆「ねぇちゃん、トイレ(厠)行きたい」袖を引っ張って、能子「え、えぇ?」連行された。