ヘルメスが1時間かけて航走した距離をその半分、30分を切る時間の航走で船だまりへ戻ってきた。彼らにとって快挙といえた。
『キャップ!具合がいいですね』
『戻るときの走りはよかったですね!』
『帆張りの風はらみですかね?』
『お前、いいところをつくな。そうであることは間違いがない。俺には理屈を解しかねるが、俺らにわかることは、結果が良かった。このことだけだ』
ギアスは後部帆柱を担当していた二人に声をかけた。
『おう、後部帆柱担当の二人。展帆操作の面倒はどんな具合だ?』
『展帆操作の面倒具合ですか、それをやらなきゃいけないからやる。深く考えずにやれたことを考えると、それでいいのではないかと思いますが』
『そうか、それならいい。そこでもしだ、こうすればいいと考えられることがあったら言ってくれ』
『解りました』
『よしっ!一同、ご苦労であった。昼めしを終えたら、もう一度、試走と操練をやる』
『おう!』『おうっ!』の返事が返った。
『おう、昼めしにするぞ』とギアスは一同に声をかけた。
午後のキドニア沖の海には北寄りの東風が吹いている。彼らは試走する、繰り返す、帆張りの訓練をする、繰り返す操作練習で練度が向上した。
ヘルメスが船だまりに帰ってくる、船だまりの埠頭には今日の業務を終えた売り場のスタッフたちが待っていた。
『おう、今日は仕事のあがりが、いつもより早いのでは?』
『おう、オロンテス棟梁はまだだが、今日は調子よく売れたのだ。堅パンのサービス効果といったところかもしれない。おっ!棟梁が来た』
『おう、みんな待たせたな。ギアス、帰ろうか。今日はいつもより早い時間のあがりだ。帰りには格好の風が来ているではないか』
『はい、そのようです。帆張りで帰れます』
一同がヘルメスに乗る、船だまりを離れる、風は順風である、艇の波割は快調、総帆を展げて航走した。
『おう、ギアス、この走り、なかなかいい走りではないか』
オロンテスが声をかけてくる。
『今日の午後は、明日の試乗会に向けての試走訓練で操艇がうまくなっています』
『ほう、そうか。それはいい』
ニューキドニアの浜に到着する時間が短縮された感があった。艇上の者たちといえば、一同、ニコニコで浜に降り立った。
浜にはパリヌルスが待っていた。
『おう、ギアス、早かったな、ご苦労、ご苦労。ヘルメスに手を加える、仕事を終えたらドックスのいる浜にヘルメスをつけてくれ』
『解りました。今日は、いい試走結果を報告できます。では、のちほど』と言って、ギアスは作業に取り掛かった。