スダヌスは足を踏み鳴らした。説明がうまくできない、もどかしい、そのたどたどしさに顔を赤らめた。
心が定まらない、恥をかいてもかまわん、聞くほうも知らないことを語るのだ、彼は開き直った。
『しかし、何ですな。俺らが生計を立てている、この社会が変わろうとしている。この木片に書かれた数字は、新しい金勘定の数字ですな。まあ~、我々は『はい、そうですか』と言うよりほかにないわけです』
『ほう、その様な数字なのか。言われてみれば解らんでもない。物の数でないことは確かだ。しかし、正直なところ何も解っていない、それが本音だ。明後日、統領が来るとき、軍団長もパリヌルスも俺ら二人も同道する。浜頭、その時は我々が納得するように話してもらいたい』
『承知しました。委細について、納得いただけるよう調べておきます。今日の俺は、説明に戸惑っています。全く恥ずかしい。しかし、この数字は、ガリダ方に支払う、新艇建造用材の総額であることは間違いのないことです』
三人は、木片の数字に目線を注いだ。
『ご両人、よく見てください。この数字が用材の総額です。ここに書いてあるのが金額の呼称単位を表している字です。今の俺が言えるのはそこまでです』
オロンテスとオキテスは、頭を傾げながらうなずいた。
『浜頭、俺らが帰る時間の事もある。今日はここまでにしよう。明後日、統領と来たときには、これについてしっかり教えてもらう。宜しく頼む』
『判りました。その日は、昼食をこちらで準備しておきます。統領によろしくお伝えください。朝からの風もおさまってきてはいますが、海の荒れには充分に気を配って帰ってください』
『おう、ありがとう。ではではーーー』
二人はスダヌスの売り場をひきあげた。
パン売り場に戻って来たオロンテスは、直ちに売り場のチエックに取り掛かった。
『おう、パンは売り切ったようだな』
『はい、売り切れました。試食堅パンのプレゼントが効いているみたいです』
『おう、それは重畳、かたずけて帰るとしよう』
一同が船だまりへと向かう、ヘルメスに乗り込む、波はヘルメスをあおる、櫂捌きが泡立てる、ヘルメスは波を裂いて岸から離れた。
雲の切れ間から陽がのぞく、ギアスは、艇上の者たちに気づかれないように姿を見せた陽に帰りの無事を祈った。
彼は、3日後に迫っている試乗会の事を思案していた。その思案は、帆張りに関することであった。