『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  487

2015-03-17 06:28:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、オキテス』
 『あっ!軍団長、何か?』
 『オキテス、お前、何か用事でもあるのか?』
 『え~え、キドニアからの帰り船を待とうかと。ガリダの方へ使いに出した二人の事を気にしています』
 『おっ、そうか。俺も同じだ。ギアスが持って帰ってくるであろう返事が気になってな』
 『そうですか。パリヌルスもそう言っていました。いま、彼はドックスと新艇の方へ行っています』
 『日足が延びて、一日が長くなったな』と言いながら、イリオネスは、陽が傾いているほうへと顔を向けた。陽は身を沈めるのにまだ間がある。陽の落ちる歩みが秋のころに比べて、日暮れを惜しむようにのろかった。
 イリオネスは、夕陽が照らす浜辺の風景に目を転じた、クレタの海の遠望を視野に入れて、目を閉じた。いつかは成るであろう事象がつかの間であったがまぶた裏に映じた。
 いつのまに来たのか、パリヌルスが傍らに立っている。
 『おう、パリヌルス、キドニアからの帰り船を待っている』
 『もう、この頃合いです。程なく帰ってきます』
 言葉を交わして、二人は東の海上に目をやった、二人はこちらへ向かってくる船影を目にした。
 『おう、帰って来た、来た!』
 舟艇が春ののたりと凪いだ海を割って浜に向かってくる。着岸までに時間を要しなかった。浜がにぎやいだ、オロンテスが艇から降りてくる。
 『あっ!軍団長、ただいま帰りました。ギアスから聞きました。まず、用事を済ませます。少々時間をいただきます』
 『おう、待っている。パリヌルスもオキテスもいる、少々時間をとって打ち合わせよう』
 『判りました』
 マクロスとソリタンが降りて、オキテスの前に立った。
 『おう、ご苦労。話はうまくいったか?』
 『はい、うまくいきました。喜んでください』
 『こいつ、それは重畳!どんな具合だった?』
 『ガリダ頭はとても乗り気です。明後日、こちらに来ることになりました』
 『それだけ聞けば、それでいい。詳しいことは後から聞く、まあ~、休め』
 『判りました』
 イリオネスとパリヌルスは、ギアスの用済みを待った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  486

2015-03-16 07:59:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスら三人は、これまでに体験したことのない領域に踏み込んでいく。それなりの覚悟と認識の必要を身をもって知ろうとしていた。
 一方では、アヱネアスが改めた想いで決断思考へと踏み込んでいく。父アンキセスとの確執を第三者的なスタンスでイメージするとともに己の考えている建国の姿を描き想いやった。
 
 アヱネアスとイリオネスは、アヱネアスの宿舎に戻ってきた。
 『軍団長、ざあ~っとでいい旅程について話してくれるか』
 『判りました』
 二人は目を合わせた。
 『先ず第一日目ですが、朝食を終えたら、間をおかずに出航します。目指すはスダヌスのスオダの浜へです。遅くとも彼の地には、昼過ぎまでに着きます。そこでスダヌスと旅程について打ち合わせ、その日のうちにパノルモスまで行こうと考えています。このパノルモスがイデー山行きに最もいい地点であると同時に艇の停泊地としても最良である考えられます。このパノルモスからイデー山の麓まで約100スタジオン(20キロメートル)歩いて2刻半(5時間)くらいの行程です。いま、私が言えるのはここまでです。このあとについてはスダヌスに詳しいことを聞かないと解らないのです。このあとはスダヌスと打ち合わせての行動になります。いずれにしても、2日目、3日目、4日目の半日はイデー山域にての行動です。帰りのパノルモスからニューキドニアの浜までの行程は1日を必要とします。大体以上です。イデー山域の事については、1日ですが余裕を見ています。明日、アサイチにはイデー山域の事について、クリテスに質してみようと考えています』
 『おう、解った。俺のイデー山行の用向きは、よく考えておく。それについては、また、軍団長、お前に相談する』
 『解りました』
 二人は打ち合わせを終えた。
 『しかし、イリオネス、お前よくこれらの事を知っていたな。パノルモス、そこからイデー山の麓までの道のりとかーーー』
 『あ~、それはクノッソスに出かけた折、スダヌスからの貰い知恵です。クリテスがイデー山のゼウスの神殿について知っているかどうか、明日、聞いてみます。また、今回の統領のイデー山行については、今日、ギアスがスダヌスに伝えているはずです』、
 『よし!判った。明後日、朝食を終えたら、即、出航だな、心得た』
 イリオネスは、山行予定の第一日目の予定をアヱネアスに伝えた。
 『では、統領、私は、この後、浜の方にいます』
 『おう、イリオネス、ありがとう』
 アヱネアスは、友としての言葉使い、ニューアンスで気持ちを伝え、互いが友情で結ばれているといった心情をかみしめた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  485

2015-03-13 07:25:14 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスら三人は、脳漿を搾って思考作業と取り組んでいる。
 『おう、ドックス、どんな具合だ。新艇建造の場は浜に5か所造るのだぞ。そこに配置する2人組だぞ。この業務に携わるすべての者たちが新艇建造に関する情報を共有して、作業をやっていくわけだ。そして、お前が彼らを取り締まっていく、そういうことだ。仕事が始まったら、副長及び建造に携わる者たちの人事権はお前にあるわけだ。適材適所の配置もだが、いいモノづくりは、人が身に宿している技倆にある。それを見極めるのはお前なのだ。一同の教育指導もそれに基づいてやってくれ。技倆とは、モノづくりの技術だけではない、モノづくりの心構えもそこにある。それを切り離さずに考えてやってくれ。我々が目指しているのは集団で保持する優れたモノづくりの技術であり、心構えなのだ。一人が新艇を造るのではなく、それに携わる集団が1艘の新艇を造るということなのだ。頼むぞ!』
 パリヌルスは、言葉尻の『頼むぞ!』に力を込めて話し終えた。
 『了解しました。新艇を造るということは、一人の船大工がハシケの1艘を造るということとは違うということですね』
 ドックスが例をあげてパリヌルスの言うところを理解した。これを聞いたパリヌルスは、硬い表情で深くうなずいた。オキテスは傍らでじい~っとパリヌルスの言うことに耳を傾けていた。
 オキテスが棚を背にしているパリヌルスに声をかけた。
 『おう、パリヌルス、のどが渇いていないか。ドックス、お前はどうだ?』
 『え~え、渇いています、何か呑みたい、そんな気持ちです』
 『パリヌルス、お前のうしろの棚のその壺は何だ?ちょっと振ってみろ!次は、ふたをとって匂いだ、かいでみろ。何だ?』
 『ぶどう酒みたいだ。ちょっと口にしてみる』
 彼は、壺に口を当てて一口、喉に通した。
 『旨い!ぶどう酒だ!呑むか』
 『いいだろう、この際だ。マワシ呑みだ。お前からやれ』
 パリヌルスは、二、三口呑んで、ドックスに、オキテスにと酒壺をまわして口にした。
 『パリヌルス、やっている作業も進んだようだ。ドックスに五か所に造る建造の場の施設設計、工具類、木材以外の建造資材の事などについても考えをまとめてもらいたい』
 『ドックス、その件はどのように考えている?』
 『大体の腹案は出来ています。買い整えなければならない物も多々あります。そのあたりについての配慮はどのようにしたらいいかと思案しています』
 『おう、それは大事なことだ。それについては、明日、オキテスと検討する。軍団長との打ち合わせも必要とするところもある。オキテス、どうだ。このことについて知恵のあるやつがいるか?』
 『よし!それについては俺に任せろ。才覚のあるやつを探してくる。今日はここいらできりあげよう。こんな頃合いになった、ガリダの方へ出向いた二人の事が気になる。俺が行くべきであったと気にしている』
 『そうか、判った。ドックス、いいな。木材以外の建造資材、設備、工具類の件よろしく頼む。それについてはキドニアの集散所に出向いて調査することを考える』
 『判りました』
 『オキテス、なんだかんだと考えなければならんことがある』
 『そりゃそうだろう。5艇も同時建造に着手するのだ、それなりの考えと覚悟のいることだ。並みの努力で足るわけないだろうが』
 『お前の言うとおりだ』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  484

2015-03-12 08:31:46 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二人は目を合わせる、見つめ合う、交わす言葉はない、頷き合った。
 『漁の調子がよさそうだな』
 『はい、春めいた今日この頃、大漁と言えるような漁獲が続いています。この仕事に携わっている一同、喜んでいます』
 『そうか、それはいいことだ。して、売れ行きの方はどんな具合だ?』
 『売れ行きの方も好調と言える状態に向かっています。うれしいことです。ヒルイチの獲れたてが売り場で客にうけています』
 『それはいいことこのうえなしだな。なあ~、軍団長、スダヌスの采配もなかなかと思われる』
 『はい、彼の采配に信頼をおいています』
 『こうして、小島を見渡したところ、獲れた魚を干す設備もなかなかのスケールではないか』
 『はい、今のところ作業環境に不足を感じてはいません』
 アレテスが声をかけてくる。
 『統領、こちらへ、どうぞ!昼めし時となりました、皆と一緒にいかがですか。魚の獲れたてを調理しています。どうぞ、おいでください』
 『おう、アレテス、ありがとう』
 『軍団長もどうぞ』
 『おう、ありがとう』
 アレテスの案内で二人は、昼めしの場へと向かった。一同が歓声と拍手で迎える。場に腰を下ろした。
 アヱネアスが立ちあがる、拍手が沸く、彼は一同に声をかけた。
 『諸君!ご苦労!君たちが仕事に取り組んでいるところを目にした。感動した。アレテス隊長が漁獲のいい日が続いているといっている。ありがたいことだ。いい今日が、いい明日にいつながっていく。今日は馳走になる、皆、ありがとう』
 再び場に拍手が沸いた。全員が焼きあがった魚に手を伸ばし、一斉といっていいタイミングで魚に噛みついた。昼食は早々と終った。
 用船ニケには獲れたての魚が積まれている。キドニアの集散所に向けて、島のなぎさを離れて行った。
 『おう、アレテスうまかったぞ!馳走になったな』
 『そうでしたか。それはよかった』
 イリオネスも続いてアレテスに声をかけた。
 『アレテス、馳走になったな、うまかった。皆とともに食べる昼めしは最高だ。ありがとう』
 『軍団長、どうされますか?ハシケですが浜の方へ送ります』
 『そうか、それはありがたい。頼もうか』
 『判りました』
 二人は浜に戻った。
 『統領、小島、どうでした?』
 『魚、獲れたて、焼く、塩を振る、口へと運ぶ、うまかった』
 イリオネスは、アヱネアスの感想を受けとめた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  483

2015-03-11 08:25:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アヱネアスとイリオネスの二人は、小半刻、木剣を打ち合った。打ち合いの場を囲むように人垣ができていた。二人の打ち合いが終わる、適度の間合い、軽く頭を下げる、ごく自然な成り行きで拍手が沸いた。
 二人が顔を合わせる、額から汗が流れ落ちる、手で拭い、拍手の起きた人垣を見渡した。
 『なあ~、イリオネス、この木剣と防具だが、なかなかだ!手加減せずに対手に打ち込めるところがいい』
 『道理で、あの打ち込みは手加減なしの打ち込みでしたか、こたえましたな』
 『ちょっと、わるかったな、許せ』
 『一瞬、息が止まりました』
 『そうだったか、いい汗を流した。どうだ、汗を流しに浜へ行こう』
 『そうしましょう』
 二人は撃剣の装いを解いて、浜へと足を向けた。訓練の場の者たちが歓声で二人を見送る、二人は、手ををあげて応えながら坂道を下った。
 イリオネスは、道すがら山行の人員構成について、アヱネアスに伝えた。
 『統領、山行の船旅のメンバーですが、私たちのほうが14人です、スダヌス方が2人と考えています。クリテスを同道させます。ギアスたちが11名、統領と私とクリテス、スダヌスと他一人です。停泊地についてからの山行のメンバーですが、これは7名で構成します。統領の身辺警護には、私とギアス他1名が当たります』
 『判った。それでいい』
 『それから旅程ですが、これについては、あとから詳しく説明いたします』
 『判った。宜しく頼む』
 浜について渚に立ち、海を見渡した。
 『水ぬるむ春か。水が肌になじみやすい』
 『そうですね』
 二人は、のたりとした春の海に身を浸して風情を感じながら汗を流した。
 『統領どうですか、小島に行ってみませんか?』
 『おうおう、行こう』
 二つ返事である。イリオネスは、用船ニケの担当の者たちに言いつけて小島へと向かった。
 この時間の小島は多忙の時間帯である。島に着いた二人は、今日の漁で捕獲した魚を船からおろし、選別作業の場へと足を向けた。
 アレテスが陣頭に立って指揮、差配している。アレテスが場の者たちに声をかける。
 『おう、今日も期待どうりの漁ができたな』と顔をほこらばせる、場の者たちも笑みをこぼす。
 アレテスが場を見ている二人に気づいた。
 『おう、アレテス、忙しそうだな』
 『あ~っ!統領も一緒に』
 『そうだ。今日の漁は、どうであった?』
 『ここのところ、漁は上々の日が続いています』
 『おう、アレテス!』統領が声をかけた。
 『統領!ようこそ』
 二人の声がけが同時であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  482

2015-03-10 07:30:33 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おおっ!そうか。あいつ、それは喜ぶ。蜂蜜入りのパンか、セレストス、ありがとう』 
 アヱネアスが礼を言う、代わって、イリオネスが声をかける。
 『ここへ来たのは、セレストス、特別の頼みだ』
 『何用でしょう?』
 『ある用向きで、統領と俺が明後日から出入り5日の予定で旅に出る。総員17人5日分のパンを焼いてほしい。出航は、こちらで朝めしを済ませたあとだ。それに間に合わせてくれればいい。ということだ』
 『判りました。このことオロンテス隊長は、知っているでしょうか?』
 『それは知っていないと思う、まだ、彼には話していない。これを知っているのは、二、三の者とお前だけだ』
 『オロンテス隊長に伝えてよろしいですね』
 『あ~あ、いいとも。気を使わないでもいい。明日には、皆に伝えることだ』
 『判りました』
 用件を伝え終えたイリオネスは、アヱネアスに声をかけた。
 『統領、行きましょう。用件は終えました』
 二人は撃剣訓練の場へと足を向けた。木剣の打ち合う音が聞こえてくる。
 『おう、者どもやっておるな』
 気合の掛け声も聞こえてくる。
 『誰がコーチしているのだ?』
 『はい、リナウスです』
 二人は、林を抜けて場を見渡せるところに立った。イリオネスとリナウスの目があった。リナウスが駆け寄ってくる。
 『あっ!統領もご一緒ですか。軍団長、見てやってください。木剣、木槍にしてから、怪我が少なくなって、訓練に励むようになりました。そして防具を使うようになって、一段と訓練に身を入れてやるようになりました。パリヌルス、オキテス両隊長の配慮があったればこそです』
 『そうか、それはよかった。イリオネス、やるか』
 『え~え、やりましょう。リナウス、木剣と防具を頼む』
 『判りました。いま、お持ちします』
 リナウスが二人分の木剣と防具を持ってきた。
 二人が防具を身に着ける。
 『おう、これはなかなか具合がよさそうだな』
 『統領は、初めてですね。私は何度か身に着けてやっていますが』
 『こいつ、俺に内緒で腕を磨いておるな。俺に打ち込むとき手加減せずともいいからな。イリオネス、覚悟してかかって来い!』
 二人は、場に立つ、木剣の切っ先を合わせると、とび下がって間合いをとった。息を整え、ジリッと間合いをつめた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  481

2015-03-09 08:18:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
アヱネアスは、イリオネスの宿舎に姿を見せた。
 『おう、イリオネス、お前の今日の予定は?』
 『はい、私の今日の予定ですか。統領の山行メンバーの決定、その命令の下達と旅程の詳細策定作業です』
 『二人で頭を突き合わせることもなさそうだな。俺は今度のこの旅で、俺がやるべきをを考える。何時、何を、如何、決断するかを考える。『如何』の中身は我らの未来だ』
 『それはありがたいことです。統領に未来を考えていただいてありがたいことです。それをカタチにしていく。私たち民族は幸せな民族と言えます』
 『そんなに心を込めて、この俺を『ヨイショ!』するな。そうすることが俺の役務であり、当然のことだ。それをカタチにする、お前たちのほうがいろいろと考え、心労と努力して、計画実行してくれている。そこに民族の安泰のあることを充分に理解している。お前に感謝している』
 『ありがとうございます。今日、山行の旅程とメンバーが決まりましたら打ち合わせをやります』
 『ありがとう』
 彼らは話し合ったあと雑談を交わした。そこへパリヌルスとオキテス、ドックスの三人が姿を見せた。
 『おはようございます。山行の旅程の打合せですか』
 『まあ~、そういったところだ。お前たちの今日は?』
 『私たちの今日は、組織の編成と工程表作成です。軍団長の宿舎の部屋が使いいいものですから、そこでやろうということです』
 『そうか、そういうことなら部屋を使え。俺と統領はパン工房へ出向く、そのあと、撃剣訓練の場へ足を運ぶ』
 『そうですか、では、よろしくお願いします』
 『部屋にあるものは何でも使っていい、ではな。あ~あ、それから、お前たちが考えてくれた撃剣訓練に使う、あの木剣、木槍、そして、あの防具はなかなかいい、あれを使えば、怪我を気にせず訓練に励むことができる。あれは、重宝なものだ。上達効果もいいと言っている。では、俺たちは出かける、統領、まいりましょう』
 二人は宿舎をあとにした。
 『統領、パン工房で打ち合わせを終えたら、ひと汗流しませんか』
 『おう、それはいい!やろう』と言って、パン工房へと歩を進めた。
 『おう、セレストスはいるか?』
 イリオネスが声をかける。声を耳にした、セレストスが姿を見せる。
 『あっ!統領に軍団長!』
 『おう、セレストス、いそがしいか?』
 『はい、今日、久しぶりに蜂蜜が届いたので、ユールス君のパンをと思い立ち、その練り合わせをやっていたところです』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  480

2015-03-06 07:45:14 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスとオキテスの朝は早かった。『おっ、おはよう』の挨拶も簡単に交わし朝行事を終えた。
 マクロスとソリタンが舟艇の傍らに立っているのを目にした。オキテスが寄っていく。
 『おう、両人、お前ら早かったな、ご苦労。ではお前ら二人に託す用件を伝える』
 オキテスは、ガリダに伝える要件を説明した。
 『以上だ。二人とも判ったな。相手方からこちらに出向くと言わせるのだ。その様に話を運べ』
 『判りました』
 マクロスが返事をする。
 『それから、これだ。ガリダに渡してくれ。ガリダへの贈り物だ。焼きあがったパンが入っている。話のスベリがよくなる』と言ってパンを入れた袋を渡した。
 パリヌルスとギアスが言葉を交わしている。
 『この知らせをスダヌスに伝えると、彼は喜ぶぞ。欣喜雀躍の知らせだ』
 今日も西風が吹いている、舟艇が浜を離れていった。
 舟艇を見送ったパリヌルスとオキテスは、今日の予定を打ち合わせた。
 『判った。朝めしを終えたら軍団長の宿舎で話し合おう、あの場所が何かと話しやすい。木板、木炭が手許にあるからな』二人はうなづき合って浜をあとにした。

 アヱネアスは、イデー山行きを決めたことについて、複雑な想いを抱いていた。その想いを抱いての朝行事である。
 父アンキセスは、この山行に賛意を示している。アンキセスは、その賛意の思惑をアヱネアスに押し付けてきていた。彼は、父の想いとは裏腹の想いを胸に抱いていた。己の想いと父の想いを天秤にかけて思考した。
 『父の想いにうなづける点もある、だがだ、俺の想いは、父の考えている次元とは次元が違う。俺には俺の考える次元がある。俺の肩には民族全員の生命と建国千年の未来がのっている。このクレタが建国の地であるか、そうではないのかを正しく判断して決断しなければならないのだ。そのためにイデー山の出向くのだ。我が意を貫く!』
 彼は春の海に身を浸して決断した。
 『俺が迷えば、民が迷う。進むべき道を誤ってはならないのだ』
 昇る太陽を仰ぎ見て立つべき迷いを断ち切った。太陽がはねた。腕に抱いたユールスが震えた。
 イデーの山のゼウスの神域に立つ自分をまぶたに描いた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  479

2015-03-05 07:37:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスの宿舎をあとにしたオキテスは、風風感知器の作業場へと足を向けた。パリヌルスとドックスは、広場から浜への坂道を下って行った。
 作業場に立ったオキテスは、マクロスを目で探し声をかけた。
 『おう、マクロス、仕事ははかどっているか、どんな具合で進んでいる?』
 『はい、あと5日ぐらいで仕事が終わる予定です。それより早くなっても遅くなることはありません』
 『おっ、そうか。いいぞ!マクロス、話がある、新艇の建造が決定した。そこで用材調達の件だが、明朝、ソリタンを連れてガリダのところへ行ってほしい。お前、いま、ここから手を放すことができるな、ソリタンを呼んできてくれるか。浜にいると思う。パリヌルス隊長に、その旨を伝えて連れてきてくれ』
 『判りました』
 マクロスは浜に向かった。
 
 イリオネスは、アヱネアスのイデー山行きの件でギアスに伝える用向きを考えた。彼は宿舎の前にいる従卒を呼び寄せた。
 『浜へ行って、ギアスにすぐここへ来るように伝えてくれ。もうキドニアから帰ってきていると思う』
 従卒は浜へと走った。程なくギアスが姿を見せる。
 『おう、ギアス、早かったな。まあ~、中へ入れ。急用といえば急用だ。用件は二件だ。先ずは、統領のイデー山行きが決まった。ここを出るのは三日後の朝だ。用船は新艇を使うことになっている。お前とお前の配下の漕ぎかたに頼むことになっている。頼むぞ。詳細は、お前が明日キドニアから帰ってきてから打ち合わせをしよう。出入り五日ぐらいの旅になる。いいかな。もう、一つは、明日、キドニアに行ったら、スダヌスに、このことを伝えてほしい。三日後、明日になったら、明後日の夕方だ。スオダの浜に着くからよろしくと伝えてくれ。あとは言わずともスダヌスが心得ている。多くを言わなくても話の内容についてはスダヌスが知っている。判ったなギアス』
 『はい、判りました。先に言われたことですが、先ほど、パリヌルス隊長から聞いています』
 『おっ、そうか、それなら話は早い。一行の総員は15名くらいだ。その旨もスダヌスに伝えてくれ』
 『判りました』
 ギアスは、イデー山行きの内容を把握した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  478

2015-03-04 07:23:27 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『班長は、オキテスと俺とで決める。いいな』
 『おう、それでいい』
 オキテスは承諾した。
 『ドックス、そういうわけだ。このたびの新艇建造に携わった者たちの中から、先ほどオキテスが言ったように12~3人選んで、明後日の打ち合わせに出席させてくれ』
 『判りました』
 『班長役の5人は、オキテスと俺が任命して、当日出席させる』
 『了解しました』とドックスは答えた。
 『ご両人、これでいいかな?』
 『おう、それでいい。承知した』
 オキテスが答えて、三人の打合せが終わった。
 これを見計らったように、イリオネスが帰ってきた。
 『おう、お前ら、話は終わったのか?君らに伝えておく、統領のイデー山行きの日程を決めた。明日にでもスダヌスに使いの者を向かわせたい』
 『ほう、そうですか、統領のイデー山行きが決まりましたか。いつになりましたか?』
 『三日後の朝、出発してその日は、スダヌスの浜まで行く予定にしている。新艇を使いたい、いいか?』
 『いいですとも、是非お使いください。ギアスと彼の漕ぎかたを使ってください』
 『おっ!それはありがたい、その様にする。出発から帰ってくるまで、出入り五日ぐらいを予定している』
 『判りました。私たちの打合せも終わりました。これで引きあげます』
 『そうか、ご苦労であった』
 『明後日の午後には、班長副長格の者たち15名ほか4名くらいで班編成の長となるものを決めます。統領と軍団長に引き合わせます。任命をお願いします。また、ガリダとの予備交渉も始めます。そのように段取りしています。以上です』
 『判った!』
 『この仕事に関するマインドは『最新にして最良の新艇を造る』です。これを旗心として、この仕事に携わる全員が懸命に業務の遂行に励みます』
 『おう、そうか。最善を尽くしてくれ。俺のやることがあれば何でも言ってくれ』
 イリオネスは話を結んだ。
 『軍団長、私たちはこれにて話は終わりました。明後日の午後には、統領と軍団長に新艇の建造計画、工程のあらましを報告いたします』
 三人は、軍団長の宿舎をあとにした。