『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY             第5章  クレタ島  132

2012-09-27 06:32:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 風は力をゆるめず北東から吹きつけてきている。船団は風に押され加速して波を割っていた。
 舟艇は風と波に翻弄されていた。ギアスは為す術に頭をしぼった。船尾の三角帆はたたみ、メインの帆は高さを半分くらいまでに降ろして対処した。ゆるんだ帆を風があおる。船上の者たちが身体をかけてあおりを抑えた。
 パリヌルスは、パロス島の浜を離れてからの時を振り返った。時間の見当がつかない、不安が感覚を襲う。全天を覆う雲は低く、流れが速い。時をおかず雨がくるであろう予感が働いた。太陽の位置がわからない、太陽の存在、その重要性を痛感した。彼はいらついた、自分を失いそうである。居ても立っても居られなかった。
 船団は、どこにいるのか、どこを進んでいるのか、それを推し量る術を手にしていない。船団はミロス島に向かっているのか、風に押されるままに海上を彷徨しているだけではないのか。
 彼は大自然の力に屈していく自分の無力さを感じた。彼の己との闘いはここにあった。これに打ち克たないかぎり、船団は道無き迷路を進み目的地に行き着くことが出来ない。彼の心中の葛藤、己との闘い、彼はそこに自分を見た。そのような自分を嫌悪した。
 彼は迷わず、直ちに嫌悪する自分をかなぐり捨てた。少しづつではあるが冷静さを取り戻しつつあった。
 目明きの盲目状態から脱出する。それには何をどうするかを考えた、壁をひっかくようにもがきながら考えた。一縷の望みの光を見た。『不思議な勝ちを得る』者の、自ら助くる者を助ける力が訪れるのを感じとっていた。