第２章 トラキアへ ６３

　アレテスは一息入れて、話を続けた。
　『敵は、我々をエノスの浜に追い詰める作戦のようです。敵は、我々が動けない、そのように見ています。』
　『アレテス、よくぞ、そこまで探ってくれた。ありがとう。』　アエネアスは言葉を継いだ。
　『う～む、そうだな。質問と言うより、懸念だ。奴ら、夜襲をするか、しないか。両軍一緒に野営をするのか。気にかかる。パリヌルス、オキテス、お前らには経験があると思うが、船旅のあとの戦闘は、どんな具合だ。意見を聞きたい。』
　『トロイからの船旅ですね。最短で７０～８０キロ、早くて６時間、長くて８時間余りかかります。追い風に、櫂による漕走を加えてそれくらいです。現地に夕刻に着いて夜襲に兵を駆り立てるには無理があります。異国の土地事情について知っていない部隊であればなおさらです。夜襲はないと結論づけてよろしいのではないでしょうか。』　とパリヌルスが言えば、オキテスはそれに同調した。
　『判った。天の時、地の利を生かした作戦構想を立てる。パリヌルス、オキテス、二人は、相談して、敵の援軍の到着情報をいちはやく我々に伝えるように段取りしてくれ。イリオネス、アレテス、カピュス三人は、パリヌルスも加えて、明早朝の戦略会議で示す、俺の戦場構想に基づいて、抜かりない布陣を考えろ。作戦の時間的な組み立ては、そのときに打ち合わせる。以上だ。』
　一同は、暗闇の中で頷き合って散会した。