日守麟伍の和歌(うた)日記 Ringo Himori's Diary of Japanese Poetry

大和言葉の言霊の響きを求めて Quest for the sonancy of Japanese word

「花の風」再録

2015年04月16日 | 日記
 関東地方では、ソメイヨシノはすっかり散って、ほかの種類の桜が、ところどころで華やぎを見せています。

 桜の花びらが散る様子は、紋切り型の日本の春の風景で、音もなく散り、人やものに散りかかり、地面に降り敷く様子は、春の移ろいの記号になっています。

 そのような様子を歌った和歌を、『くりぷとむねじあ歌物語』の「三の巻、行き違い」より、再録します。桜の花びらが音もなく散る様子をみると、私はこの和歌を口ずさみ、ある人の面影を想い出します。


おともなき たまやにそそぐ はなのかぜ ゆめのなごりを とむろうがごと
音もなき 霊家に注ぐ 花の風
夢の名残を 弔ふが如

(死者の見果てぬ夢を、まるであなたが静かになぐさめるかのように、音もない風が花びらを散らして、立ち並んだ墓石に降り注いでいます)

 この歌には、いくつかの情景がコラージュのように、織り込まれています。真新しい本堂に座っていたときの思い出、表面に水分を保った石造りの崖、立ち並ぶ墓石、荒々しい桜の幹、繊細この上もない花びら、などです。
 また、若いころ愛読したムージルの、のちに再読した遺構の一節、「花びらの無音の流れという自然の祭典」というイメージが、いつも連想されます。技巧的な話をすれば、この和歌は、ムージルの作品の翻歌を、一部に含んでいます。

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