これまで何匹もの幼虫を見てきて,一つだけ「どうもおかしいなあ」とこころに引っ掛かる点がありました。それは,孵化直後の個体なのに,卵の大きさと比べると意外に大きく感じることです。生まれたばかりと思われる幼虫のどれを見ても,「こんなに大きなものが卵に入っていたのだろうか」とふしぎなほどなのです。卵はせいぜい2mm。この,不釣合いな“でかさ”!
この理由をきちんと突き止めようと思えば,たいへんむずかしい観察になります。 いちばん確かな手は,孵化の瞬間を見届けることです。しかし,これだってずばりその場面に立ち会えるのは,ほんとうにむずかしいのです。
結局わたしは,できるだけ誕生の瞬間に近い時間帯に見届けたくって,卵の付いた葉をたくさん採集してくることにしました。数にして20。卵がある位置にテープでマーキングをしておきます。それを容器に並べておいて,定期的に状況を確かめていけばどうか,と着眼したのです。継続的に調べていけば,どの葉かで誕生直近の幼虫が見られる確率が高くなるでしょう。
この方法は,一つの卵をずっと見続けて観察する労力よりはずっと省力化できます。誕生と出会える確かさは低くなりますが,楽です。程ほどもいいものです。
さっそく,このアイデアが当たりました。ある日,誕生後間もない幼虫を見つけたのです。それも二匹! これまで見たどの幼虫よりも,ずっと小型です。体長は1mm! 色も褐色部分がごくわずか。やはり,誕生直後は卵の大きさに似合った大きさであることがわかってきました。お蔭で謎がすこし解け始めました。
この幼虫たちは,なんと,もうアブラムシを口にしていました。それにはビックリ! 食欲がまことに旺盛です。こんな調子ですから,どんどんからだが大きくなっていくのでしょう。
ということは,誕生直後と思っていた幼虫は,じつは,そうではなかったことになります。誕生後わずかでも時間が経っていて,そのわずかな時間のうちにアブラムシを食べて大きくなっていたと考えるのが筋かと思います。先に,不釣合いな大きさという表現をしました。しかし,けっしてそうではなかったことがわかってきました。
この幼虫より,さらに,もっと前に生まれた幼虫はどうでしょうか。次は,もう誕生場面に巡り合うしかありません。孵化が近づいてきた卵の特徴がすこしわかりかけてきました。これを取り出して重点的に観察をしては,と思っています。この作戦,さて,どんな結果をもたらすでしょうか。