スパイクタンパクを接種しなくても、スパイクに結合するメモリーT細胞(CD8+Tem)が存在することを示している実験結果を説明します。
この実験では、食塩水あるいは4種類のmRNAワクチンをマウスに注射し、28日後に脾臓を摘出して、脾細胞をスパイクタンパクの存在下あるいは非存在下で培養し、CD8+T細胞の比率を比較しています。
上の図のMがCD8+ Tcm (CD44+ CD62L+ CD8+ T cells)の比率、NがCD8+ Tem (CD44+ CD62L− CD8+ cells)の比率です。2種類の異なるメモリーT細胞です。
スパイクの存在下で培養した時に、比率が高くなるということは、スパイクに特異的に反応するCD8+T細胞が存在していたことを意味します。
Mの実験結果では、青色で示すサンプルだけが、スパイクに特異的に反応するメモリーTcm細胞を作ったことを示しています。緑色のサンプルは、何か他の者に対するメモリーTcm細胞ができているようです。
Nの実験結果は、食塩水を含むすべてのサンプルが、まったく同じ比率で、スパイクに特異的に反応するメモリーTem細胞を作ったことを示しています。
つまり、このスパイクに特異的に反応するメモリーTem細胞は、mRNAワクチンを打っていないマウスでも作られていたということです。
以下、仮説。
実験用のマウスなので、外部からの病原体に暴露されているとは考えにくいので、おそらく腸内細菌叢などの共生細菌に対する免疫が確立しているのではと思います。
2020年前半に既に新型コロナのスパイクタンパクと交差反応するT細胞を持っている人がいるという報告は多数の国から報告されていましたが、このメモリーT細胞も、ヒトの共生細菌に対するT細胞である可能性があります。
また、ワクチン接種後に、臓器でスパイクタンパクが検出されたという報告も、共生細菌の一部を検出しているのかもしれません。
共生細菌そのものではなく、感染時の免疫反応で産生される糖タンパクに対する免疫かもしれません。
このマウスの実験で使用したスパイクはRBDですが、臓器でスパイクタンパクを検出した時に使用した抗体がどの部分に結合するのかも、ひとつひとつ確認する必要があります。
もうひとつ考えているのは、がん細胞ならば、mRNAワクチンのmRNAがタンパク質に翻訳される可能性はあるかもしれません。がん細胞は、健全な細胞における安全装置が壊れていて、タンパク質が合成されやすい環境にあると思うので。
追記
大阪大学の研究で、新型コロナに感染する前に交差反応をするT細胞を持っている人の免疫は、共生細菌に対するものという論文です。
新型コロナの重症化を防ぐT細胞、阪大が同定に成功
大阪大学(阪大)は10月14日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を認識するヘルパーT細胞受容体の構造を明らかにしたと発表した。
TECH+(テックプラス)
マウスとヒトの共生細菌を比較
種のレベルでは10%程度が共通
理研の論文
日本人が新型コロナに感染しても重症化しにくいことで、日本人に多いヒト白血球型抗原(HLA)タイプのHLA-A*24:02に結合するSARS-CoV-2のSタンパク質中のエピトープの同定したという報告。季節性コロナウイルスに対する記憶免疫キラーT細胞は、このエピトープを交差認識し、SARS-CoV-2に対して抗ウイルス効果を示すということ。
新型コロナウイルスに殺傷効果を持つ記憶免疫キラーT細胞
理研は、ヒトの体内に存在する季節性コロナウイルスに対する「記憶免疫キラーT細胞」が認識する抗原部位を発見し、その部位が新型コロナウイルスのスパイクタンパク質領域に...
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