mRNAの品質検査法を開発している論文で、mRNAをcDNAに転写せずに直接ナノポアシークエンスする実験結果がありました。
ナノポアシークエンスでは、分子の電荷分布を測定し、経験的にどの核酸なのかを決定しているようです。
実験結果から、N1-メチルシュードウリジンで修飾すると、U(赤)がC(青)と間違えられていることがわかりましたが、グラフをよく見ると、実は、UがA(緑)と間違えられている箇所があることがわかります。
Aは、終止コドンUAA、UAG、UGAのすべてに含まれています。
修飾mRNAをタンパク質に翻訳する際、tRNAがmRNAのUをAと混同してしまったらどうなるでしょうか。
終止コドンUAA、UAG、UGAのAがUに変更された、UUU、UUG、UGUの3つのコドンが、終止コドンとしてふるまえることになります。
コドン表をみると、UUU→Phe/F、UUG→Leu/L、UGU→Cys/Cとなっていますので、mRNAがこれらのコドンを使用していると、そこで翻訳が終止され、切断型タンパク質となってしまいます。
前回のブログで紹介した論文で、N1-メチルシュードウリジン修飾mRNAから、20kDa付近と40kDa付近にタンパク質が観察されている結果がありました。
5-メチルシチジンとN1-メチルシュードウリジンの両方で修飾したmRNAでは、目的物よりも40kDa付近のタンパク質の方が多くなっています。このタンパク質は、5-メチルシチジンだけの修飾mRNAでは生成されないので、N1-メチルシュードウリジンとより強く関連していることが示唆されます。
シュードウリジンの塩基のピリミジンは、下記のように2つの構造の間を変換することが比較的容易です。
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ウリジンでは、窒素の一つにリボース(糖)が結合しているので、ケト体が安定している可能性がありますが、シュードウリジンでは、リボースが炭素に結合しているのでより安定なエノール体が多く存在していると考えられます。N1-メチルシュードウリジンの場合は、Nの一つにメチル基があるので、ケトンのひとつだけがエノールとなっていると思われます。
N1-メチルシュードウリジンmRNAのナノポアシークエンスで、UがCに間違えられている結果は、この考察を支持しています。
次に、UがAに間違えられるのはどうしてかを考察してみます。
それぞれの核酸を、電気的に見てみると、上から下に
Gは、マイナス、プラス、プラス
Cは、プラス、マイナス、マイナス
Aは、プラス、マイナス、
Uは、マイナス、プラス、マイナス
となっていて、GとC、AとUがそれぞれ電気的に引き付けられるようにして、水素結合を形成しています。この場合、Uの3番目のマイナスは結合に使用されません。
シュードウリジンは、ケト体の場合は、ウリジンと同じですが、
上のケトン(C=O)がエノール体になると、プラス、マイナス、マイナスとなり、Gと水素結合を形成できることになります。
同時に、最初の2つのプラス、マイナスだけを使って、Aとしてふるまうことが可能なのかもしれません。
あるいは、もうすこし踏み込んで、分子軌道を考慮するともっと端的に説明できるかもしれません。