経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

カネのとれる仕事

2007-11-11 | プロフェッショナル
 熊川哲也が出演した「たけしの誰でもピカソ」という番組を見たのですが、いろいろ感じるものがありました。カンパニーの若手のホープを何人か連れてきていたのですが、ちょっとした動き一つをとっても、素人目から見ても熊川哲也とは全く違う、明らかな差があります。番組の最後のほうで彼の目標を問われて、自分が踊り続けたいということに加えて、「彼ら(若手ダンサー)をカネの取れるダンサーにしていきたい」ということを言っていました。「カネが取れるかどうか」という部分には、周りから見てもわかるような明らかな差があり、その域に到達するのは並々ならぬ努力が必要ということです。
 これに対して、たけしが、
「バレエダンサーは大変だね。だって、バレエって、お客さんからするとあってもなくてもかまわないわけだから、それでも見たいと思わせるレベルまで頑張らなきゃならない。そういう点では、お百姓さんなんかのほうが、食べなきゃいけないもの作ってるからある意味楽で(ちょっと問題発言かもしれませんが・・・)、形のないものを提供する仕事って、ホントに厳しいよね。
というようなことをコメントしていました。

 我々知財人の仕事には、お客さんにとって‘must’のものもありますが、顧客から‘あってもなくてもよい’と思われやすい仕事の占める割合も決して低くはありません。バレエダンサーが「見たい」と思わせられるのと同じように、「頼みたい」と思われるような域に達していくことが必要で、そのことをもっと自覚していかないと本当に「カネのとれる仕事」はできない、今みたいな状態ではまだまだぬるい、と反省させられた次第です。

織込済&冗談みたいな話

2007-11-10 | 企業経営と知的財産
 キヤノンのインクカートリッジ特許侵害訴訟の勝訴確定が話題となっています。高収益を生むビジネスモデルを守る上でも重要な訴訟と見られてきましたが、市場はどのように評価したのでしょうか。報道明けの昨日の株価の前日比をみると、
 キヤノン  -1.41%
 日経平均  -1.19%
 TOPIX -1.49%
ということで、殆ど影響はなかったというところです。以前にも、特許に関する事件が報道された翌日の株価をいろいろ調べたことがありますが、どんな知財業界の大事件であっても市場に目に見えるようなインパクトを与えた例は皆無といった感じでした。個々の事件は知財的には大きなトピックであっても企業収益全体から見ると影響は軽微、といった理由が考えられる例がほとんどでした。一方で、今回のキヤノンの場合は、この事件の持つ意味は結構大きいような気がしますが、おそらくこの結論は「織込済」であったという部分が大きいのしょう。

 これとは別に、「特許」で飛躍的に「企業価値が高まった(!?)」企業を見つけました。地理情報システムのドーンという会社ですが、7日の場中に地図データ提供システムに関する新たな特許取得を発表、そこから3日間で株価は約50%上昇、この間の時価総額の増加額は5億円以上です(ということは、この特許の評価額は既に5億円超?)。時価総額の小さい小型株だと、ちょっとした「材料」で投資家がおもちゃにしてしまうことはよくある話ですが、特許公報も発行されていない段階で、まぁ冗談みたいな話ですね。

知財業務の5W1H

2007-11-09 | 知財一般
 アルファガーの磯崎氏が、「『法と経済学を司法試験科目に』に大賛成!」と論じられています。司法試験の科目にすることの適否まではよくわかりませんが、前提となる問題認識には大いに共感するとともに、我々の業界にも同じことがいえるのではないかと思います。特に、
普通の企業や会社員が、何が「得」で何を「損」と思っているかを理解してもらえればなあ
という部分は、知財業界で私がよく感じていること(このブログでもよく書いていますが)と全く同じ感覚です。
 弁理士のことを、よく「技術と法律の専門家」といわれますが、弁理士のような知財の専門家が登場すべき場面を5W1Hに沿って考えてみると、
 What(何を)・・・ 技術
 How(どのように)・・・ 法律
となりますが、それ以外の、Who(誰が・・・自社と競合他社の関係etc.)、When(いつ・・・事業計画のどのタイミングでetc.)、Where(どこで・・・企業内のどの部門でetc.)、Why(どうして・・・どのような競争環境を作り出したいかetc.)は、いずれも経済的な要因によって判断されるものです。これらの要素は企業側(企業内であれば知財部以外の部門)で判断するから、WhatとHowさえ考えてくれればいいよ、というポジショニングも構造上はやむを得ないところはあるのですが(最終的なサービスはそこで提供されるので収益源はどうしてもその部分に限られてきてしまうわけですが)、WhoやWhyなどを捉えられる感覚があると、受け渡しがはるかにスムーズになるのではないかと思います。

知財コンサルと現状認識

2007-11-08 | 知財業界
 本日は、11月30日に予定されている弁理士会の知財コンサルティング研修の講師打合せ、その後は弁理士会の知財コンサルティング委員会、とコンサルティングについての議論漬けの一日でした。議論している時間があったら体動かせ、というご意見が聞こえてきそうですが・・・至極ごもっともです。

 個人的に思うのは、コンサルティングの方法論やスキルなどをあれこれ議論する前に、「現状認識」をしっかりさせておくことが重要なのではないか、ということです。知財実務をベースにした日頃の取り組みから、どういった問題点を感じているのか。それに対して「こうやってみたら解決できるのではないか?」という方法が考えられないか。「コンサルティング」という言葉に踊らされるのではなく、自分自身が感じている現状認識を出発点にしないと、何をやるべきかということは見えてこないし、机上の空論に終わってしまうのではないかと思います。

ちょっと羨ましい・・・か?

2007-11-06 | 新聞・雑誌記事を読む
 医薬大手の武田、エーザイが、最高益の中間決算を発表したのに、株価が急落しているそうです。その理由には、「2010年問題」があるとのこと。両社は2010年前後に主力製品の特許切れを迎え、収益への影響が懸念される中、新製品の開発の遅れを公表したことが打撃になったそうです。特許がこれだけストレートに収益、さらには企業価値に影響するというのは、特許が効いているのやらどうやらわかりにくい業界で仕事をする知財人からみると、モチベーションが高められそうでちょっと羨ましくも思えたりします。
 一方でおそろしいと思うのは、注目されている新製品も、当然に「特許で保護されているので高収益が約束されている」という前提で評価されているということです。特許が効いているのやらどうやらわかりにくい業界では、特許が明らかに効いて収益に貢献したという実績をあげることができれば、それは「よくやった」となるわけですが、医薬品業界では‘must’なので、それはそれでしんどい仕事なのでしょう。きっと。

知的財産経営(&知的資産経営)

2007-11-05 | 知財発想法
「知的財産経営」
「知的資産経営」
 知財人にとってのキーワードであるはずなのですが、何となくわかったようなわかんないような言葉です。

 私の理解する「知的財産経営」とは、
企業の競争力の源泉となる「知的財産」を「知的財産権」によって適確に保護することによって参入障壁を形成し、価格決定力を強化することによって、高い利益率を確保することを目指す経営
といったところです。アウトサイド・インですね。これが「知的資産経営」ということになると、「知的資産」については「知的財産権」のような具体的な保護手段がないため、どう定義したらいいのかちょっと困ってしまう、といった感じになってしまいます。

 パテントの最新号によると、経産省知的財産政策室前室長のご説明の中では、
知的財産を中心とした企業のもっている価値、こういったものを評価して、企業の経営の中に活かしていく
これが「知的資産経営」あるいは「知的財産経営」である、と説明されています。インサイド・アウトですね。おそらくこのように定義するのが今の通説だと思うのですが、どうも個人的にはストンとこないというか、腑に落ちない部分があります。というのは、それはそれとしてもちろん筋の通った考え方だとは思うのですが、知的財産、さらには知的資産と呼ばれるようなもの、すなわち技術や人材を経営に活かすといわれると、タイガースの岡田監督ではないですが「そらそうよ」と言いたくなってしまいます。多くの会社がそれはあたりまえのこととして考えているように思いますし、逆に「知的資産経営」「知的財産経営」でない経営(こういう概念が持ち出されるということは現状多くの会社はそうなっていないということでしょうから)とは一体どんな経営なのかよくわからない、という印象をどうしても持ってしまいます。

 パテント誌の中では、丸島先生がもう少し具体的な目的として「競争力を保つ」ということ、つまり、
自社の知的財産による競争力を増やして他社の知的財産による攻撃力を減らす
ということが経営戦略上重要だ、と説明されていますが、確かに「自社の知的財産による競争力が不十分で他社の知的財産による攻撃力の脅威に晒されている」という企業は決して少なくないと思われるので、このように具体的な目標設定がされるとストンと腑に落ちてきます。
 結局、知財の仕事としてやるべきことは変わらないはずなので、どのように定義するかということは、さほど本質的な問題ではないのかもしれませんが。

チザイの会社

2007-11-03 | 新聞・雑誌記事を読む
 ジャスダックの先端技術企業向け新市場NEO」の第1号銘柄として、株式会社ユビキタスが13日に上場するそうです。さて、どんな会社なのでしょうか。
 日経金融新聞の「ルーキー診断」によると、携帯電話機等に搭載する「軽い・早い・小さい」を特徴とするインターネット接続ソフトを開発しているそうで、任天堂のDS向けが主力となっているそうです。今期の予想売上が930百万円に対して経常利益が440百万円と利益率が非常に高いのですが、ハードの出荷数に応じてロイヤリティを受取るというビジネスモデルで、知的財産フル活用型の「チザイの会社」ということのようです。
 先端技術企業向け市場の第1号ということですから、特許制度はどの程度利用しているのでしょうか。IPDLで検索しましたが、どうも該当すると思われる出願はヒットしません・・・。ソフトウエアビジネスと特許の関係、まだまだ考えるべきことが多いテーマです。

‘三位一体’は脱・パック旅行から

2007-11-02 | 知財業界
 知財業界でいろんな仕事を経験していると、その中で会う人の数も年々増えていくわけですが、人脈や経験という観点からみると、年数を重ねるに従ってタテ方向への深まりはあるものの、ヨコ方向への広がりが起こりにくい、ということを感じます。

 海外旅行に行って得られる経験や感じとれるものは、一緒に行く人数の分だけ割り算した量になる、という話を聞いたことがあります。1人であれば100感じとれるものが、2人なら50、5人なら20になってしまうということです。勿論、パック旅行であっても、美しい景色を見たりその場所についての知識が広がったりはするので、エンターテイメントとしてはそれで十分に楽しめるのだと思いますが、異文化から何かを得ようと思うならば、ある種の経験や感覚というものは1人でないと得られない部分があると思います。

 知財業界の仕事、殊に事務所側の仕事を続けていると、外に出るよう努めていてもどうしてもパック旅行化が起こりやすく、センサーの進化を妨げてしまいやすいのではないかと思います。‘三位一体’(事業戦略・研究開発戦略・知財戦略の三位一体)を実践するには、まずは他部門の意図をセンサーでしっかり感じ取るところから。というわけで、バックパッカー魂を思い出さなければいけないな、と思う次第です。