ケイの読書日記

個人が書く書評

北森鴻 「凶笑面」 新潮文庫

2020-03-08 17:30:54 | 北森鴻
 蓮丈那智フィールドファイル①。 このシリーズは前から読みたいと思っていた。前回UPした『ミステリ国の人々』 にも取り上げられていたので買ってみる。5つの短編が収められていて、表題作は『凶笑面』だけど、『不帰屋(かえらずのや)』が、一番出来がいいと思う。この『不帰屋』は、実は以前、なにかのアンソロジーで読んだことがあって、印象に残っていた。
 戦前、こういった伝承は日本のあちこちに残っていたんだろうなと思う。

 東北のある雪深い村に、東敬大学助教授の那智と、助手の内藤三國が招かれた。彼らの専門は民俗学。依頼主は、生家にある建物の調査を頼んできた。母屋から少し離れた江戸時代からある離屋(はなれ)が、いったい何に使われていたものか、民俗学的に調べてほしいというのだ。
 どうも昔は神事を行っていたらしいが、資料はない。依頼主は、ここで神事を行っていたのではなく、「不浄の間」として使っていたのではないか? それを証明してほしいと言う。(不浄の間とは、女性が生理の期間中、家族と隔離されて暮らす離屋)
 依頼主はフェミニストの論客で、女性蔑視の考えを毛嫌いしている。が、彼女の家族は、そんな依頼主に批判的である。

 那智や三國が家族の冷たい視線にさらされながらも、調査を進めていくと、驚くべき事態が展開する。依頼主が、離屋で殺されたのだ。しかも、離れ屋の周りには雪が積もっていて、そこに足跡は残っていない。完全な密室の中で。

 なかなか読み応えのある作品。とても悲しい神事だが、日本だけでなく世界中で似たような事が行われていたんだろう。大昔から。

 他にも、民俗学者である那智が述べる蘊蓄が興味深い。特に、フランシスコ・ザビエルが日本に初めてキリスト教を持ち込んだのではない、もっと前に、キリスト教は日本に入って来ていたという話。
へぇぇえ、そうなの? ただ、キリスト教が景教という名前で中国に広まっていたという話は、世界史の教科書で読んだことあるから、日本にも中国の景教が入って来ていたんだろう。ただ、さほど広がりを見せなかっただけで。

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