人類学のススメ

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文献解題・日本人の起源の本2.『中尊寺と藤原四代』[鈴木(1950)1]

2013年12月17日 | H4.世界の人類学者[Anthropologist of

Asahishinbun1950

中尊寺と藤原四代―中尊寺学術調査報告 (1950年)
価格:(税込)
発売日:1950-08-30

 中尊寺に所蔵されている藤原四代のミイラは、昭和25(1950)年に金色堂が補修される際に人類学者で東北帝国大学名誉教授の長谷部言人[1882-1969]を団長として組織された「藤原氏遺体学術調査団」により、昭和25(1950)年3月22日から同年3月31日まで調査されました。この調査団は、人類学・法医学・医学・微生物学・植物館・理化学・保存科学・古代史学等の専門家が結集し、学際的に調査が行われています。この調査結果は、調査が行われた昭和25(1950)年8月30日に資金援助を行った朝日新聞社から『中尊寺と藤原四代』として公表されました。

 初代:藤原清衡[1056(天喜4)-1128(大治3)]

 第2代:藤原基衡[1105(長治2)-1157(保元2)]

 第3代:藤原秀衡[1122(保安3)-1187(文治3)]

 第4代:藤原泰衡[1155(久寿2)・1165(長寛3)-1189(文治5)](*伝聞としては、藤原忠衡のものとされていた)

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藤原四代のミイラ[朝日新聞社(1973)『日本人類史展』より改変して引用]

◎鈴木 尚(1950)「遺体の人類学的観察」『中尊寺と藤原四代』、朝日新聞社、pp.23-44

 本稿で、鈴木は5つに章立てして記載していますが、今回は保存状態を解説します。

1.保存状態

(1)清衡

①姿勢:棺内で仰臥伸展。

②保存状態

・全体:四体の中で最も保存状態が悪く、広範囲に白骨化している。

・頭部:顔面部は、比較的よく保存されている。脳は残存していない。頭骨の主要三縫合は外面も内面も著しく癒着が進み、等に矢状縫合が著しい。後頭部の外後頭隆起は非常によく発達している。顔は長さが短く、頬骨は張り出しており頬がこけている。顎はあまり横に張っておらず、生前は五角形の短い顔をしていたと推定。眉間の隆起は男性としては弱い。死後に布のようなものを口腔内に詰めていたと推定。下顎骨は角前切痕がなく、動揺下顎である。

・首及び胴部:胸部は前面も背面も軟部が無く、骨格化。骨格には、多くの老年性変化が認められる。甲状軟骨は、完全に化骨化。胸骨は、柄・体・剣状突起すべてが癒着しており、左第四肋軟骨の前端も化骨して胸骨に癒着していた。また、その他の肋軟骨も化骨が進んでいる。左右鎖骨は、中央部が肥厚し一見すると骨折が治癒したように見えるが左右対称であることから体質的特徴であろう。脊椎骨は第三胸椎以下は全部老年性の変形性関節症により骨の増殖が起こり癒着している。腹部は前面も背面も軟部があるが、前面の方が保存状態は良い。腹部内臓は無い。基衡や秀衡と異なり、痩せていたと推定される。

(2)基衡

①姿勢:棺内で仰臥伸展。

②保存状態

・全体:清衡より保存状態は良い。頭部及び四肢末端が骨格化している以外は、全身軟部によって覆われている。

・頭部:顔面は一部骨が露出しているが、大体皮膚に覆われている。頭骨三主縫合の癒合の状態は不明であるが、乳様後頭縫合は癒着が進行中。頬骨は清衡ほど横に張らないが、顎は張り頬はこけておらずでしもぶくれである。清衡に比べると顔は長い。眉間の隆起は弱く、鼻根は陥凹していない。鼻は清衡ほど隆起が強くない。歯列の咬合型式は鋏状咬合である。下顎では角前切痕が強く発達。

・胴部:前面も背面も保存が良い。側面には虫害がある。首は太くて短い。胴の長さは四肢に比較して長い。胸は幅が広く、厚い。肩はいかり肩。肥満体質。長期間病臥していたとは思えず、死因は脳溢血等の病気で急死したと推定。肛門部は、鼠害を受けている。胸や腹腔には内臓はなく、内部に火葬人骨破片及び歯が認められた。レントゲンで見ると、脊椎骨の癒着はない。

(3)秀衡

①姿勢:棺内で仰臥伸展。

②保存状態

・全体:清衡や基衡と比べて、虫害や鼠害があるが、全身の軟部はほぼ原形に近く保存されている。

・頭部:頭部は顔の正中部に骨が露出しているだけで、他の部分は軟部で覆われているが皮膚はない。頭骨三主要縫合のうち、冠状縫合は離開しているが、矢状及びラムダ縫合は著しく癒着している。頬骨と頬骨弓は突出していないが、顎は横に張り、頬の肉はこけていないので、顔の全形はほぼ長めの六角形に近い。眉間の隆起と鼻根の陥凹は弱いが鼻背の高まりは強い。梨状口が露出しているが、形は細長い。眼窩の形はほぼ円形。レントゲンで見ると、下顎の角前切痕は強い。

・首部と胴部:首は太くて短く両側は破損して大きな穴があいている。胴の前面は比較的保存がよいが、側面では左右共に腋窩に始まり下腹部に致広範囲な軟部の損傷を認める。胸部では、肋骨が数本露出しているが鼠害によるものと推定。背面は虫害が著しい。胸は幅広くて厚く、いかり肩と長い胴は父親の基衡と似ている。肥満型体質である。内臓の影もなく、古銭四個の他、火葬された人の歯が多数発見された。肛門部には、前後径五センチ・横径三.五センチの楕円形に拡大しており、死後長期間詰め物をしたためであると推定される。レントゲンで見ると、第十から第十二胸椎の間に癒着を認め、腰椎にも老年性変化である骨増殖がある。

(4)忠衡

①姿勢:首のみで不明。

②保存状態

 極めて良く、皮膚・頭骨・頸椎も残存。第四頸椎で斬首されており、少なくとも、十六箇所の切創や刺創が認められた。後頭部で骨が露出する以外は、軟部はほぼ完全に保存されている。頭部には、九箇所の切創と二箇所の刺創がある。顔は肉付きがよく、頬もこけていない。顔の幅に比して、長さが短く、しもぶくれした丸顔。眉間の隆起は強くなく、鼻背にかけて緩やか弧を描き、鼻根の陥凹はない。歯列の咬合型式は鋏状。前歯の咬耗は比較的強いが、後歯は弱い。上下顎共に、第三大臼歯が萌出。下顎の角前切痕はあるが、基衡や秀衡ほどではない。


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