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生活保護問題の本質は、不正受給ではない - 制度そのものが根本的にモラルハザードの誘因になっている

2012-05-28 | いとすぎから見るこの社会-格差の拡大
当ウェブログは昨年、「反貧困運動は冬の時代を迎える」と
予言したが案の定の展開となっている。
経済停滞が続けば遠からず弱者を見捨てざるを得ない社会となるだろう。

↓ 参考

反貧困運動は、もう世論の支持を期待できない - 生活保護の期限設定にも医療扶助見直しにも強硬に反対
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/5923b5e80c3c104b1482e391d9fd0ef5


現在、本質ではない部分に焦点が当たっているだけでなく、
「生活保護費の削減」という愚劣な方向へ話が進んでおり、
この国の政策リテラシーの低さがありありと現れており寒心に堪えない。

まずはっきり言っておくと、自民党がこの問題を批判するのは
見え見えの政治的パフォーマンスに過ぎない。

自民が長らく政権与党の座にあり、成長率が低下し失業率が上昇する中で
雇用政策にも貧困対策にも大した施策を打ち出さなかったのは明白な事実だ。

麻生内閣の雇用助成と民主党政権の生活保護受給増は
どちらも本質的に変わらない。両者とも明白なバラマキである。

更に、低所得層の実態を踏まえ社会保障制度を再構築すべきだったのに、
乏しい税収から高齢者3経費へのバラマキを続けてきた責任は重い。
生活保護は3兆円程度だが高齢者3経費にはその10倍前後の公費が投入されている。
(しかも巨額資産を持つ者にもバラまいているという無責任ぶり)


生活保護を批判する前に、以下の基本は踏まえておきたい。
不正受給は悪質であるが率としては低い。

○生活保護費の一人当たりの額は大きいが、要支援層のカバー率は低い
 (=ずうずうしい人間の方が正直者より得をする構造)
○生活保護は受給者の給付への依存度を高める悪影響あり
○生活保護の世代間継承(親が生活保護なら子も生活保護)が確認されている
○就労支援の仕組みが無いに等しい
○生活保護費のほぼ半分が医療扶助、不正が疑われている
○高齢人口が増大し続けるため、生活保護受給増は必至

急がなければならないのはまず医療扶助の不正摘発である。
これは不正受給より圧倒的に額が大きい。

一部の病院・診療所が生活保護を食い物にしているのは明らかであり、
患者名を伏せて症状と治療内容、給付額を病院・診療所ごとに公表すべきである。
不正が発見された場合には重罰もしくは医師免許の停止が必要だ。

↓ 参考

社会保障を食い荒らす人々 - 利権化する生活保護、医療扶助を狙う診療所が増加中
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/11007818569d7537006882401f4a14e4

第2に、生活保護受給者とその家族の情報把握に問題がある。
マイナンバー制度を生活保護受給者とその家族からまず適用すべきである。

資産把握ができない欠陥を持つマイナンバー制度も改善すべきである。
2世議員の多い自民が抵抗するだろうが、見逃してはならない。

そして生活保護不正受給(特に所得隠蔽)に対しては脱税と見なし、
税務調査の適用対象とすべきである。

↓ 資産把握ができないのは明白な欠点

預金4000万円でも生活保護を受けた悪徳経営者 - 富と倫理性は比例せず、橋下維新公約の資産課税は正しい
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/8f4d072653ce180257e239a62b164637

第3に、年齢が若く健康で働ける稼働層は、生活保護と別枠にすべきである。
経済に無知な反貧困の「活動家」が批判するだろうが妥協してはならない。

北欧のように、給付額を逓減(徐々に減らす)させるともに
職業訓練の義務づけ、職業斡旋の拒否に制限をかけるべきである。
鈴木亘・学習院大教授の提言する強制貯蓄口座も検討すべきだ。

▽ 北欧は数万円の所得も課税対象、銀行口座に個人番号が付く厳しい監視社会。

『スウェーデン・パラドックス』(湯元健治/佐藤吉宗,日本経済新聞出版社)


同時に、強力な雇用創出政策と給付付き税額控除の創設が必要だ。
長期的にモニタリングし、根気よく制度の細部を手直ししなければならない。


時給1000円1日8時間のバイトを週5でやるよりも生活保護なのか!?(excite)
http://www.excite.co.jp/News/reviewbook/20120528/E1338126738649.html
「今の生活保護制度は、いったん受給してしまうと、そこから抜け出すインセンティブ(動機)がまったくない制度となっている。そこが一番の問題です」
 社会保障論を専門とする鈴木亘教授からこの言葉を聞いて、NHK取材班は共感したという。それまでの取材で彼らも繰り返しそれを感じていたからだ。
 近年受給者が急増し、不正受給も多いとされ、問題視されている生活保護。それについてNHK取材班はずっと、取材してきた成果をまとめ、何度も番組にしてきた。2012年現在その集大成番組ともなった『生活保護3兆円の衝撃』が、書籍化された。
 生活保護は年間3兆3000億円支給され、増加中。大阪では18人に1人が受給しているなど、その多さも問題になっている。受給者は医療費や年金も免除される。受給者の医療費は3兆円の中の半分くらいを占めている。運営の厳しい病院が、受給者に本当は必要ない薬を処方しまくって儲けるような問題も多い。
〔中略〕
 受給者本人の所得があるのに隠していたり、そういう不正は当然許されない。しかし現在の受給者200万人以上のことを考えると不正を調べる職員給与だけでも相当な額になる。なにより、一部の不正を正すために、本当に必要な人が受給できないようでは福祉の意味がない。2009年までの生活保護問題はそういう、「不正との戦い」だけで済んでいた。
〔中略〕
 リーマンショック後、派遣切りや工場閉鎖などで失職した人が急増した。2008年末、厚生労働省前の日比谷公園「年越し派遣村」のことを覚えている人も多いだろう。本来失業者は雇用保険の給付などで生活しながら次の仕事を探す、というシステムになっているが、給付日数が終わるまでに次の仕事が見つからなかったり、そもそも保険をもらえる条件を満たせない人が多かった。
 20年以上働いていても、失業すれば150日しか雇用保険の給付は行われない。10年未満だと90日。3か月でなんとかしないといけない。もらえない場合、貯金だとか世話してくれる人がなければ、すぐに生活できなくなる。
 こういう人たちが生活していくために、緊急で生活保護の基準を「働けるけど仕事が見つからなくてお金もなくて困ってる人」もオッケーということにしたのだ。
 本書ではさまざまな理由で生活保護を受けることになった受給者に取材しているが、やはり「働けるけど働けない受給者」の問題は深刻だということが理解できる。
 失業者を支えるいくつかのセーフティーネットはあるが、その網目が、どれも新しい時代の失業者を受け止めることができていない。失業者を生活保護でしか受け止められなくなっており、生活保護は失業者のためにデザインされたものではなかったので、失業者が元の生活に戻ることを阻害してしまっているのだ。
 時給1000円、1日8時間のバイトを週5でやっても、年金やら税金を払うと生活保護のほうが多くなったりする。役所もハローワークも、職員は大勢の失業者を受け持っていて、細かいチェックや手厚い就労支援までは手が回らない(そもそも就労支援のデザインとかも疑問が多いもので、職業訓練などの成果も極めて低い)。
 そしてそのうち働く意欲そのものがなくなってしまう受給者が少なくないという。それは受給者への取材の印象でもそうだし、本書中にデータでも出されいる。念のため書いておくが、多くの受給者は、働く意欲を持っていて、だけど失業中の生活をなんとかする手段が他にないので生活保護を選んだ。だけど持っていた意欲が下がるような要素がそこにあるのだ。
 そうした新しい問題に加え、もらうべきなのにもらえない人、相変わらず悪さをしているやつ、いろんな問題が残っていて、それぞれの問題が次々にマスコミで報じられる。すると人々はどの問題がどの程度の大きさで、何がどういう条件で「不正」なのかとか、よく解らないままごちゃごちゃになり、「とにかく生活保護はやばいらしい」という問題意識になっていく。
〔中略〕
 本書『生活保護3兆円の衝撃』では生活保護制度の経緯、受給者の事例、役所で働く人への取材、専門家の考え、そういったものが一通り読める。一般の人向けに書かれており、読みやすい。
(香山哲)”

高齢層や重病人のように働けない人々と、
働ける人々の生活保護とは完全に別にして、
「受給しやすいが継続はされず、就労支援に重点を置いた給付」が必要だ。

▽ 紹介されているのはこの本。お薦めである。

『NHKスペシャル 生活保護3兆円の衝撃』


不正受給ではなくモラルハザードが問題の本質であることを
この問題の当事者が気づいていない。この件は「延焼」するだろう。


河本母親「世間が勘違い。悪いことは何もしていない」(デイリー)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120526-00000003-dal-ent
”次長課長・河本準一の母親の生活保護費受給問題で、渦中の母親が25日、フジテレビ系報道番組「スーパーニュース」の取材に応じ、「(不正受給の)事実はない」と主張した。
 同日午前に都内で会見に臨んだ河本には電話で「頑張って話をしなさい。一切そういう(不正受給の)事実はないんだから」と伝え、送り出したという。騒動に関して母親は「決して悪いことは何もしていない。勝手に世間の人が勘違いして騒いでいるだけ。言う人は言うし、私はあんまり気にしていない」と力強い口調で話していた。”

第4に、世代間継承を防ぐために生活保護受給世帯の子供の
教育・就労支援を強化すべきである。支援と不正摘発の両輪が必要だ。

この意味で、問題の所在を知らしめた河本問題の功績は大きい。
聞くところによると河本母だけではなく姉なども受給者であるという。

▽ 慶大の駒村教授が生活保護受給の世代継承と悪習に言及されている。

『大貧困社会』(駒村康平,角川SSコミュニケーションズ)


第5に、高齢化の進展による生活保護費の膨張は不可避である。
駒村教授の調査で無年金が貧困高齢層の特徴であることが分かっている。
歳入庁の創設を急ぎ、年金から生活保護への流入を防ぐべきである。

また、労働力の増加による税収増がなければ福祉は破綻必至だ。
人口政策と女性就労率引き上げ策を同時に推進し、
保育・看護・介護など慢性的に人不足の分野で給付付き税額控除の適用を急ぐべきだ。


不正受給防止策も必要だが費用対効果や制度設計を考えなければならない。
例えば給付の9割を個人番号入りのバウチャーにすれば
不正は激減するだろうが、行政コストは間違いなく上昇する。

▽ 北欧は常に厄介なモラルハザードとぶつかり、制度を手直ししてきた

『福祉国家の闘い―スウェーデンからの教訓』


監視体制を学ぶとしたら効率的な北欧社会に限る。
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