figromage

流出雑記 

白い足袋の話

2008年07月01日 | Weblog
朝から奈良の美大でポーズし2時半頃京都に戻る。
いつもその後スーパーで専業主婦に混ざり晩ご飯の買い物をして帰る。

家に帰るには友人曰く「一種の行」にもなる坂を登らねばならない。
家の近所にはどうにも購買意欲のわかない商店しかなく、用事や買い物は出たついでに済ませるのが鉄則です。

アボカド丼が食べたかったが、青いのしかないのでやむなく予定変更。
しばらくアイデアがわかず店内を徘徊する。

豆あじが安い。
豆あじ…
南蛮漬けに決め、油ついでに茄子とピーマンの揚げだし。みそ汁はオクラとミョウガ。
独りの夕食ならあじのはらわたを引っぱり出す気も起こらないが、一緒に食べる人がいるとそういうこともしたくなる。

日傘付き自転車にスーパーの袋を積んでいつもの如く立ちこぎで坂を登る。
夕方帰宅。
隣のおばちゃんによく会う。
植木に水をやる時間帯。

おばちゃんは一人暮らしをしている。
40代くらいの息子と娘があるが既に家を出て、旦那さまは数年前に亡くなっている。
私の祖母に近い年齢だと思われる。

長く住んでいる人が多いこの町内に突然やってきた、何をやっているのかよくわからないワカモノの私たちに気さくに話しかけ、お隣さんとして受け入れてくれた。
時々ひとりでは料理しきれなかった野菜などをいただく。
先日はりんごを3つ。それは赤ワインとスパイスで煮てジャムにした。差し上げようかと迷ったがちょっと個性派ジャムなので見送った。
栗ご飯を炊いたときなどはおすそわけするご近所付き合い。

しばらく立ち話。

最近はとても疲れやすく、何を食べたら元気出るやろか というので、やっぱり鰻じゃないですか と薦めたが鰻は苦手な蛇に似ているのでダメだそうだ。
お里は海辺。鰻以外の魚は好きで、新鮮な魚を見る目は利くそう。

旦那さまはお刺身が好きだったので、毎日駅前の市場まで歩いて買い物へ。
おばちゃんは、旦那さまの体が悪くなる平成11年まではずっと着物で暮らしていたという。
それに白い割烹着、白い足袋。
特に足袋は毎日必ず真っ白なもの。
汚れた足袋を履いているということは、その家の掃除は行き届いていないと言っているようなことなので、真っ白な足袋にこだわったおばちゃんはその家の嫁、妻、母としてどこにも恥じない生き方をしてきたということだ。
美しいと思った。
真夏も真冬も着物姿であの坂を。

私たちの生活。
いろんな責任から免れて、私たちのためにすべての時間を好きに使って生きている。
夜中に散歩に出てアイスを求めてコンビニを渡り歩くことなんておばちゃんにはなかっただろう。

生きた時代が違う。
今は女性の生き方も幅広くなったが、おばちゃんたちの時代、女はもっといろんなことに耐えてきたのだろうと思う。

ただ、現在の、わたしの時間をすべてわたしのために消費する ということにこだわることが、どこか貧しいようにも感じられる。

「生活」を引き受けた潔く清々しい強さの白。

私の知らなかった美しさにはっとしたのだ。