ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

宇宙よりも遠い場所・論 28 ざまあみろ! ざまあみろ! ざまあみろ!

2018-12-31 | 宇宙よりも遠い場所

「私は行く。ぜったいに行って、無理だって言った全員に「ざまあみろ」って言ってやる。そう決めたの。」

1話より。キマリとの最初の会話のなかで。この毅然たる言葉がキマリの心を大きく動かしたのは間違いない






「私の自転車なんだけど」「そうなの? 南極号? アハハハハハハ」

「札束もってるらしいじゃん」

「すこし貸してくんない? ちょっとだけー」

1話より。校内にて、心ない上級生に絡まれる。報瀬が汗水たらして貯めた「しゃくまんえん」の重みを知ろうともしない人たちだ




「南極に行くんだ!」

「うふふ、本当に南極って言ったー」「なに考えてんだろー」

「いいの?」
「いい。どうせ行くまで何いっても信じないから。本当に着いてから言うの。ざまあみろ、ざまあみろ、ざまあみろって」

4話より。南極行きがようやく実現に向けて動き出した頃



このプロジェクトが立ち上がってから、ずっと言われ続けているの。おカネが足りない。危険じゃないのか。もう慣れっこ。そんな報道があるたびに、メンバーといつも事務所で言ってるわ、「うるせえ、ばーか!」ってね

4話より。訓練キャンプに向かう車中。いつもにこやかな副隊長のかなえだが、この「うるせえ、ばーか!」のセリフでは、かなり激しい顔つきをする



☆☆☆☆



 ついに南極に着いた。
 かなえの(だけでなく、藤堂をはじめ、隊員みんなの総意ということだろうが)粋な計らいで、キマリたち4人に「初上陸」の栄誉が与えられる。



「ゆづ、カメラ!」「はい!」



かなえ「降りるだけよ。半径5メートルまで。」

寒風が吹き過ぎる

「これが……南極……。」


 ゆっくりとタラップを降りていく4人。
 1段目まできて……。
 キマリ「どーする?」
 日向「報瀬、先いけよ」
 キマリ「どーぞ」
 報瀬、1段目まで降り、大地を見おろして、まず、キマリの手を取る。
 目と目を見交わし、微笑む。
 そして。


せーの

あちこちで引用される名カット



 キマリ「着いた……」
 結月「着きました」
 日向「ゴール!」
 報瀬、むせび泣く。


 キマリ「報瀬ちゃん」
 日向「よかったな」
 結月「お母さんが来たところですよ」

 報瀬、しおらしく涙にくれていたかと思いきや、きっと顔を上げ、
「ざまーみろ!」

 「えっ」とたじろぐ3人をよそに、


「ざまあみろ……。ざまあみろ、ざまあみろ。ざまあみろ。あんたたちがバカにして鼻で笑っても私は信じた。ぜったいムリだって裏切られても、私は諦めなかった。その結果がこれよ! どう? 私は南極に着いた。ざまあみろ、ざまあみろ、ざまーみろー!」


 日向「そっちかよ」
 結月「ずいぶん溜まってたんですね」
 キマリ「いいじゃない、報瀬ちゃんらしくて」
 4人そろって、笑いながら「ざまーみろ!」


それを見ている隊員たち


藤堂の掛け声で



 全員で唱和する「ざまーみろ!」が南極の蒼穹に響きわたって、第9話「南極恋物語(ブリザード編)」はおわる。








宇宙よりも遠い場所・論 27 ラブ・ストーリー04

2018-12-31 | 宇宙よりも遠い場所
 この地にまで辿り着き、「扉をこじ開ける」のは、藤堂にとっては3年越しの悲願だったけれど、それはまた、自らの傷口をひらくことでもある。
 上陸を目前にして、否応なしに湧きあがってくるのは、あの時の記憶だ。



 この回想シーンは以前にも出ている。しかし、通信機ごしに遺された貴子の末期のことばが、「きれい……きれいだよ……とても」であったことが視聴者に明かされるのはここが初めてだ。
 CVを務める茅野愛衣さんの演技は、死を覚悟した諦念のなかに、押しとどめ難い無念を込めて、ふかい余韻をのこす。


貴子の眠る地を間近に望んで……


その肩が震える。このシーン、CVを務める能登麻美子さんの欷歔(ききょ。すすり泣きのこと)の声は5秒にも満たないほどなのだが、見返すたびに泣かされる


 どちらも短い芝居なのだが、脇を固めるお二方の巧さに圧倒されるシークエンスだ。


声を掛けられない


 このあと敏夫は、ヤケ酒(ビールジョッキ)をあおって愚痴をこぼす。それを慰める弓子。「その気持は大切に、自分が手を差し伸べられる相手を探しなよ」と言うと、敏夫は「弓子……おまえ」と言って立ち上がる。「ちがうから! そんなつもりないから!」と真顔で拒絶するのだが、ネットでは、「くっついちゃえばいいのに」との声がしきりだ。ぼくも同感である。弓子さん、いくら面倒見のいい性格でも、もともと嫌いな奴ならここまで世話は焼くまい。




 いずれにしても、藤堂にとって貴子が「雲のような存在」になってしまっているのであれば、そこには敏夫ならずとも、誰も立ち入れないだろう。



宇宙よりも遠い場所・論 26 行ったれぇぇぇぇぇ!

2018-12-31 | 宇宙よりも遠い場所
 アニメを見ていると、よく、クライマックスで「行っけぇぇぇぇぇ!」と叫ぶ場面をみる……ような気がする。あれはいつ頃はじまったんだろう。
 ぱっと思いつくのは、アニメ版『時をかける少女』(2006年)だけど、これが嚆矢(こうし)とは思えない。それ以前にネタ元があるはずだ。
 調べてみたが、「これだ」というのは見つからない。いずれにせよ、「行っけぇぇぇぇぇ!」がうまく決まれば、それは必ずや熱い名シーンになるし、作品そのものが名作になる率も高いと思われる。




 定着氷への衝突を確認した藤堂は、隊長の顔に戻って船橋へ駆け込む。報瀬もそのまま付いてくる。いっぽう、デッキのキマリ・日向・結月たちのほうにはかなえが付いている。ここからは、ラミング(砕氷)に従事する乗組員の動きと、砕氷艦「ペンギン饅頭号」の外観のショットを挟み込みながら、「報瀬×藤堂」組と、「キマリ・日向・結月×かなえ」組との会話を交互にうつすクロスカッティングがつづく。
 しかもそこに、子供時代の報瀬と藤堂との交流の記憶がフラッシュバックで挿入される離れ業だ。そうすることで、南極上陸がどれほどの難事かを示し、かつ、日本の南極観測の歴史も織り込み、同時にまた、「けっして諦めない」不屈の精神が、すなわち「吟ちゃんの魂」が、報瀬に注入されていることをも視聴者に示すのだ。まったく、この第9話に対しては、「編集賞」を進呈したい気分である。




氷の上に乗り上げて、いちど大きくバックして、全力で氷に突っ込んで、船の自重で、氷を壊す。割れなかったら、繰り返す。割れるまで、何度も、何度でも


ことに、この辺りは接岸が困難な場所なのである。なぜか?

「南極観測のルールが本格化したのは、第二次世界大戦後で、……あ……わかる?」
「わかります……」

「敗戦国である日本の発言権は弱く、割り当てられたのは、接岸不可能とまでいわれた東オングルのこの場所」
キマリ「意地悪されたんですか?」
「そういう意図はあったかもね。ま、来れるならどうぞ、来れるならね、みたいな?」
結月「むかつきますね」
「でも、それを聞いてみんな燃えたわけよ」

「日本中から募金でおカネを集めて、造船業者の職人が一生懸命工夫して船つくって。何度も何度も何度も、諦めてかけては踏ん張って進んだの。……氷を砕くように」



かなえ「一歩一歩」

報瀬「何度も何度も」


行け

行け

……

行け




 そして、この人も。

行ったれぇぇぇぇぇ!


着くまで続けるの。毎年毎年。何度も、何度も


何度でも、何度でも





 蛇足を承知で言い添えるなら、このカットはこの9話の冒頭につながる。注入された「吟ちゃんの魂」。けっして諦めぬ不屈の心。すなわちこれが、報瀬があれほど縄跳びのうまい理由だったのだ。