この地にまで辿り着き、「扉をこじ開ける」のは、藤堂にとっては3年越しの悲願だったけれど、それはまた、自らの傷口をひらくことでもある。
上陸を目前にして、否応なしに湧きあがってくるのは、あの時の記憶だ。
この回想シーンは以前にも出ている。しかし、通信機ごしに遺された貴子の末期のことばが、「きれい……きれいだよ……とても」であったことが視聴者に明かされるのはここが初めてだ。
CVを務める茅野愛衣さんの演技は、死を覚悟した諦念のなかに、押しとどめ難い無念を込めて、ふかい余韻をのこす。
貴子の眠る地を間近に望んで……
その肩が震える。このシーン、CVを務める能登麻美子さんの欷歔(ききょ。すすり泣きのこと)の声は5秒にも満たないほどなのだが、見返すたびに泣かされる
どちらも短い芝居なのだが、脇を固めるお二方の巧さに圧倒されるシークエンスだ。
声を掛けられない
このあと敏夫は、ヤケ酒(ビールジョッキ)をあおって愚痴をこぼす。それを慰める弓子。「その気持は大切に、自分が手を差し伸べられる相手を探しなよ」と言うと、敏夫は「弓子……おまえ」と言って立ち上がる。「ちがうから! そんなつもりないから!」と真顔で拒絶するのだが、ネットでは、「くっついちゃえばいいのに」との声がしきりだ。ぼくも同感である。弓子さん、いくら面倒見のいい性格でも、もともと嫌いな奴ならここまで世話は焼くまい。
いずれにしても、藤堂にとって貴子が「雲のような存在」になってしまっているのであれば、そこには敏夫ならずとも、誰も立ち入れないだろう。