ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

宇宙よりも遠い場所・論 16 宝箱を開けに。その①

2018-12-18 | 宇宙よりも遠い場所
 OP前の短いパートを「アヴァン」と称するんだけど、第7話のアヴァンは、3年まえ、「初の民間観測隊」の隊長として、インタビュアーに取り囲まれた藤堂のアップからはじまる。この手のことが苦手な藤堂はまるで報瀬のように(いやそこまでヒドくはないが)固くなっているのだが、その緊張をほぐそうと、少し離れた船のタラップから、貴子、かなえがおかしな顔をしてみせる。


 これでリラックスした藤堂は、うってかわって堂々たる態度で質問に応じる。ところがそのあと、かなえが「そうそう。それでいいのよ」というふうに頷くのに対し、貴子のほうは、引き続き変顔をしてるのである。本気で笑わせたがってるとしか思えない。


 第4話で、「報瀬ちゃんのお母さんってどんな人でした?」とキマリに訊かれた藤堂が、「どんな人かと訊かれると、変な人って答しか出てこないわね。」と答えてたのが思い起こされる。たしかにユニークな人だ。
 しかし、社会人として見るならば、「ユニーク」では済まず、すこしアブないようにも思う。むりな単独行動をして、遭難にまで至る一端が、こんなところにも表れている……と思ってしまうのは穿ちすぎだろうか。
 そして現在。同じ場所に停泊している船を前にして、藤堂は3年前のその時のことを思い出している。今回は、周りには取材陣など誰ひとりとして居ない。だが、船のタラップから、かなえがまた、おかしな顔をしてみせる。もちろん彼女も、あの時のことを思い出しているのだ。

 そこに居るべき貴子が不在だという冷厳たる事実。その亡友を偲びながらも、藤堂の胸中を慮って、あえて変顔をしてみせる前川かなえという女性。この人も、藤堂に劣らず魅力的なキャラには違いない。


 OP明けのメインパートは、12月7日の「11 人情コメディー(青春編)」でも述べた、コメディエンヌ報瀬の一幕コント……じゃなかった、ポンコツ・レポート第一弾から始まる。抱腹絶倒……なんだけど、報瀬のこの「上がり症」という属性が、今回のクライマックス~ラストシーンでは熱い感動に変わるんだから、まことに油断のならぬアニメなのである。
 乗船前のレポートを終えた4人は(結局は結月がぜんぶやるのだが)、かなえに招かれていよいよ船に乗り組む。藤堂とかなえは、4人にとっての「導き手」だが、藤堂がより深いところから、いわば精神的に彼女たちを導くのに対し、かなえは、もっと端的にわかりやすく、日常レベルで彼女たちを案内するわけだ。こうした役割分担は、ことさら「物語論」がどうのと言わずとも、ドラマやアニメをさんざ見てきた現代の視聴者にはお馴染みだろう。
 割り当てられた部屋に入って、ひととおり備品の説明をうける。「ここからは大人として扱うからね」とのことで、あれこれ指示はされない。結月は、「今のうちに船内のレポートをしておきましょう」と、年下ながら相変わらずしっかりしている。
 レポートのためにカメラをもって出ていく4人。これは船内探検も兼ねている。
 いしづか監督へのインタビューによると、とにかく船内は広くて複雑で、船内図なしでは迷子になるらしい。その点も、もちろん再現されている。
 キマリは大はしゃぎ、日向も右に同じで、高所恐怖症の結月はやや引き気味。報瀬は無口だ。もともとふだんは物静かな娘なんだろう。
 ひととおりあちこち見てまわったあと、船橋へ行き、藤堂隊長へのインタビュー……なのだが、報瀬のポンコツぶりはここで絶頂に達し、ついにそのレッテルを文字どおり(額に)貼られる(これも「11 人情コメディー(青春編)」を参照)。そしてやっぱり、結局は結月がぜんぶやる。
 息抜きのお笑いシーンのようだけど、じつはここ、第4話の訓練いらい、報瀬と藤堂とが久しぶりに顔を合わせる重要な場面なのである。正面から二人を対峙させるのではなしに、「本当にとうとうここまで来てしまった」亡友の娘を、藤堂がまずは背中から見やる、という演出が巧い。
訓練のさいは鉄面皮だった藤堂だが、ここでは憂いを帯びたまなざしを報瀬(の背中)に向けている



 さらに藤堂は、「船内はどう? 部屋には行ったの?」とキマリたちに声を掛けたあと、報瀬に対して「大切に使ってあげてね。あの部屋、貴子が使っていた部屋だから」という。その表情や声音の優しさも、訓練のときには見せなかったものだ。



 察するに、あの時はまだ藤堂のほうも、報瀬が同行することに戸惑いをもっていたのだろう。あれからどれくらい経過したのか正確にはわからないけれど(3~4週間くらいか?)、そのあいだに藤堂も腹をくくって、報瀬を受け入れる覚悟を固めたのだと思う。
 ただ、報瀬のほうは、ずっと割り切れぬ気持のままでいる。
 プロらしくレポートを見事にこなす結月だが、いっぽうで、今回のプロジェクトに参加する人員の少なさに疑念を抱きはじめている。第7話「宇宙(そら)を見る船」はコメディータッチのミステリー仕立てで、結月の抱いたこのギモンを4人でわちゃわちゃしながら解き明かしていく話でもある。
 藤堂のことばを受けて、いったん部屋に戻った4人は貴子の残した痕跡を探すが、いたずら書きすら見つからない(3人が報瀬のために探し物をするこのシーン、初見の時はどうってこともないけれど、第12話を見た後で見直すと、それだけで胸が熱くなってしまう)。



 そうこうするうち、外の廊下を通りかかった調理担当の鮫島弓子(「歌舞伎町鬼ごっこ」でおなじみ)に頼まれて、市場まで食料品の買い出しに出る。ほんとうに人手不足なのだ。