ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

24.02.22 ちょっとだけ経済の話

2024-02-22 | 政治/社会/経済/軍事
 日経平均株価の値上がりにつき、NHKのネットニュースは以下の要因を挙げてます。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240220/k10014364381000.html



1 アメリカの株高
2 日本企業の好調な業績
3 株価を意識した企業経営
4 円安による輸出関連への追い風
5 円安による日本株への割安感
6 中国からの資金シフト
7 日銀の緩和継続姿勢
8 NISA拡充による期待




☆☆☆☆☆☆☆




 いっぽう、「これで景気が好転し、暮らし向きが一挙に楽になり、日本がまたGDPで世界2位の座を(現在はドイツにも抜かれて4位)取り戻す!」なんて思っている人は、よほど楽観的な人の中にもいないでしょう。
 これは昨年あたりにネットに出回った図表らしいけど、ここ30年てぇものは、まあ、こんな按配でした。ふつうに見れば、やはりこれ、衰退と呼ぶのが自然でしょうね。いかに株価が急騰しても、この流れがとつぜん覆るとは思えないわけで。




 こういうのもありました。




 よく言われることだけど、いわゆる〝アベノミクス〟以降は、株価ってものが必ずしも景気の指標とはならない……。もちろん、上記の8項目の中にも「日本企業の好調な業績」や「円安による輸出関連への追い風」があるように、まるで無関係ってことはとうぜん無いんだけども、かつてのバブル時代のように、おカネがぐるぐる国民のあいだを回って、いろんなことが活性化する……という勢いにはなっていかない。問題はそこですよね……。






「これは面白い。」と思った小説100and more パート2  番外編 『六人の嘘つきな大学生』

2024-02-05 | 物語(ロマン)の愉楽
 30 六人の嘘つきな大学生 浅倉秋成 角川文庫
 
 



 

 今回は番外編です。作者は1989年の11月生まれとのことだから、この「『これは面白い。』と思った小説100and more」で紹介する方の中では、初の平成生まれになるのかな。
 official髭男dismとかking gnuとかYOASOBIとかVaundyとかAdoとか、さいきんの若い世代のつくるポップスの進化は目覚ましいけれど、エンタメ小説の領域においても、似たことが起こっているようですね。純文学のほうは、正直よくわからないけども……。
 発端は、2011(平成23)年、あの東北大震災が起こった年。成長著しいIT企業「スピラリンクス」の就職試験が行われ、その最終選考に、6人の大学生が残る。女性ふたりに男性4人。はじめ彼らには「6人で力を合わせてひとつの課題をやり遂げてください。その結果いかんでは、6人全員の内定もありえます。」と告げられるのだけど、彼らがミーティングを重ね、お互いの人柄や能力を認め合って、「ぜったいに6人で入社しような。」と意気投合しているさなか、とつぜん「選考方法が急遽変更になりました。合格者は1名だけです。最終選考日当日、本社にてグループディスカッションをしていただき、全員でひとりを選出してください。」というメールがとどく。
 そして当日、その最後のグループディスカッションの席上、ある「事件」が起こる……。
 こう書くといかにも、作中で登場人物のひとりが述懐するとおり「ソフトでチープなデスゲーム」を連想してしまいそうだけど、けっしてそんな安っぽい作品ではありません。
 特筆すべきは、本作が、「二転三転(いやもっともっと多いけど)する仕掛けを凝らした極上のミステリ」でありながら、同時に「いまどき珍しい純愛ラブストーリー」でもあること。もとよりその両者は別個のものではなく、ストーリーやトリックや人物描写、さらには作品のテーマそのものと見事に絡みあい、響きあいながら、全編を織りなしているわけですが。
 ざっとネットを見たかぎりでは、称賛の声は数あれど、その「純愛ラブストーリー」の側面に気付いている人がほとんどいないようなので、「もったいないなあ。」と思ってる次第。
 ポイントは、Bパートの主人公が「あの人」に向けてそっと呟く「ありがとう」ですね。この人が本当は誰のことが好きだったのか、それをきちんと見極めたうえで、あの「ありがとう」の真意がわかれば、感動はさらに膨らむでしょう。そうそう。それと、ラストにおける主人公のあの「決断」の意味。そこに込められた作者の皮肉……。
 「就活もの」としては、直木賞をとった朝井リョウさんの『何者』が有名で、あれも佳作なんだろうけど、読後感の重さでいえば、ぼくにとってはこちらのほうがずっと上でした。これほどキャラが「生きて」いる小説は、純文学プロパーでもなかなかないから。ただ本作は、芥川賞はむろん、直木賞をとるようなものでもないんだなあ。その理由を書くとネタバレに抵触するし、いろいろと角が立つので差し控えるけど、ともあれ本作が、ジャンルを超えた一流の「小説」であることは間違いありません。










24.02.01 芦原妃名子さんの悲劇について考えるための2本の記事

2024-02-01 | 政治/社会/経済/軍事
 芦原妃名子さんのご冥福を心よりお祈りいたします。








① ITmedia ビジネスオンライン
『セクシー田中さん』の悲劇で加速する 日本マンガ実写化ビジネスの海外流出
窪田順生
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2401/31/news045.html





 「テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動」(記事末に付された肩書より)しておられる方が、このたびの事件の経緯をまとめ、問題点を指摘したうえで、このような事態を齎すに至った日本社会の構造的な欠陥までをも分析した記事。
 いちいち尤もであり、ことに、
「芦原さんが必死の思いで訴えたことについてはこのままフタをするべきではない。なぜこんな行き違いが起きたのかと日本テレビは第三者調査を実施、その結果を踏まえて、テレビドラマ業界、漫画原作者、そして代理人を務める出版社が知恵を出しあって、漫画の実写化で二度とこのような問題が起きないようにすべきだ、と強く思う。」
 といった提言にはふかく頷かされる。ただ、惜しむらくはこの記事、冒頭部分に誤解をうむ余地がある。事情を知らぬまま一読すると、あたかも先に原作者たる芦原さんがネット上(ブログおよびX。現在はいずれも削除)にて発言をされたようにみえてしまうが、じっさいはまったく逆であって、脚本家の側が先にインスタグラムで内部事情を暴露したのである(現在は閲覧不能)。そのため、火の粉が降りかかるかたちになった芦原さんのほうが、小学館の担当者とじっくり検討したうえで、そうなるにいたった経緯をていねいに説明せざるを得なくなったわけだ。
 この時系列をがっちりと抑えておかねば、肝心のところがぼやけてしまうし、芦原さんの名誉のためにもいかがなものかと思う。
 すでに原文が削除されているので、ぼくはスクリーンショットで拝見したのだが、芦原さんの文章は、とても誠実かつ繊細で、心を打つものであった。筋が通っており、関係各位への配慮も行き届いていた。『セクシー田中さん』というタイトルから、「どうせ軽薄なラブコメだろう。」と判断してこの件に無頓着だったぼくが、一転して関心をもつようになったのはその文章を読んだためだ。
 脚本家によるインスタグラムの投稿は、いまは閲覧不能になっているので、こちらもぼくはスクリーンショットで見たのだけれど、芦原さんの文章に比べてずっと見劣りがした。短いうえに曖昧なため、責任の所在が定かでないし、なによりも悪いことに、原作者への敬意が微塵も感じられない。むしろ不満がそちらに向かっているように読める。そこに付いている同業業者のコメントと併せると、原作者に非があるような印象操作をしているとしか映らないのだ。
 こんなものを出されたら、誰だって自らの立場を釈明せざるをえないではないか。そうせざるをえないよう先に仕向けたのは脚本家の側であって、それがこのたびの悲劇につながった。ふつうに時系列を追っていけばそう判断せざるをえず、だからこそこれほどの「炎上」を招いているのだ。
 むろん個人攻撃や誹謗中傷は厳に慎むべきだけど、少なくとも、多くのひとの目にふれるかたちであのような投稿をして火種を蒔いたからには、脚本家の方は、ご自身の口から何らかの言明をすべきだとぼくは思う。いまは混乱してそれどころではないのか、あるいは、日本テレビのスタッフや関係者や法務担当者などと協議してらっしゃる最中なのかもしれないが、いずれにせよ、このままずっと口を噤んでいられるものではない。文筆で口を糊しておられる方なら尚更である。










 とはいえ、繰り返しになるが、個人攻撃や誹謗中傷は厳に慎むべきものである。ぼくなどが義憤に駆られているのは、脚本家さんがインスタグラムに軽率な投稿をして先に火種を蒔いたことに関してであって、そもそもの原因は原作者サイド(小学館)とドラマ制作側(日本テレビ)との齟齬にある。その点においては脚本家もまた被害者なのかもしれない(その根本的な原因にしっかり向き合うことなく、不特定多数が閲覧できるインスタグラムで一方的に内情をぶちまけた非はやっぱりご本人にあるとは思うが)。
 そこでもうひとつの記事。




➁東洋経済オンライン
「セクシー田中さん」悲しい出来事の裏にある現実
ドラマ関係者のバッシング過熱に感じること
木村隆志
https://toyokeizai.net/articles/-/731303



 これは、「コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者」の肩書をもつ木村氏が、「漫画や小説をドラマ化する際、関係者の間などで問題になりやすいところなどを挙げつつ、考えられる対策などを探って」いくために書かれたもの。ちょっと微妙な書き方ながら、「脚本家のインスタグラムのあとで原作者の言明が出た。」という時系列についても明示してある。制作現場の内情を知悉しておられる方らしく、とても参考になるが、率直なところをいわせてもらえば、「やはり業界に近い方のご意見だから、そっちのほうに甘いなぁ。」とぼく個人は感じた。たとえばメディアミックスによる収益配分ひとつ取っても、すべての根源たるべきクリエーター……本来ならば誰よりも大切にされるはずの、「ゼロ」から作品を生み出す原作者その人……がとかく冷遇されているのは周知のことだ。まずはそのあたりから見直していかねばなるまい。
 いずれにせよ、ここで紹介させていただいたお二方がそれぞれのかたちで述べておられるとおり、日本テレビは、なぜこのような行き違いが起きたか、第三者機関を入れて徹底的に調査し、その結果をできうるかぎり公表したうえで、それを踏まえて、ドラマ業界、その代理人を務める出版社、そして原作者たちが知恵を出しあい、実写化のプロジェクトによって二度とこのような問題が起きぬよう、全力を尽くすべきだろう。