一夜が明け、ついに出航の朝がくる。
OPまえのアヴァンは、「満喫しといてね。あったかい地面には当分さわれないんだから」というかなえの勧めで、大地に横たわる4人のカットからだ。
「南極でも、これ、やろうね」とキマリ。それは13話で実現する(もちろんそれまでにもやっていたかも知れないが、本編で映像として確認できるのは13話だけだ。OPでは思いっきりやってますけど)
このあとすぐ、
①係の人たちが港の側からアンカーを外すカット、
②隊員たちが船上でアンカーを手繰り上げるカット、
③船橋で、迎船長が「じゃあ、行きますか」、かなえが「いよいよね」といい、藤堂が「違う、やっと」と答えるカット、
④キマリたちが甲板から紙テープを投げ、乗り出し過ぎたキマリと日向が危うく落ちかかるカット(日向は結月に無難に助けられるが、キマリのほうは、慌てた報瀬にヘッドロックを掛けられて絞め上げられる←爆笑)、
⑤海上を滑るように航行する船を陸の側から捉えたカット、
⑥小旗を振って見送る人たちのカット、
⑦手を振ってそれに応える隊員たちのカット……
などがテンポよく点綴されていく。
なぜくだくだこんな羅列をしたかというと、これがキマリにとっての2度めの「出発」だからだ。この2度めの出発が、しごく丁寧に、堅実なリアリズムで描かれているのを強調したかった。
1度目の出発、すなわち例の「絶交、無効」の際は、キマリは後ろも見ずに走り去り、そのまま一気に空港まで突っ走っていった。画面の上ではそう見えた。まるで空港が駅前あたりにあるかのような勢いだった。もちろん実際には、途中で切符も買えば電車にも乗れば歩いたりもしてるわけである。「青春の旅立ち」の疾走感を出すために、いしづか監督は余計なものを切り捨て、あの映像をつくった。
キマリの1度目の出発は、そんな大胆な省略法で描かれた。対してこの2度めは、じつに手堅いリアリズムで描かれる。
旅はもうキマリたち4人だけのものではない。たくさんの人たちの協力のうえで成り立っている。そう感じさせるのだ。
陸地がどんどん遠ざかっていく。行く手にはもう、海しか見えない。
船が陸から離れる
この旅に何の意味があるのかなんて、わからない
学校を休んで試験も受けず、受験にだって影響する
でも今の私たちは、一歩踏み出せないままの高校生ではない
何かをしようとして、何もできないままの、17歳や16歳ではない
キマリ「海だけだ……」
日向「あたりまえだろ」
キマリ「世界ってほんとうに広いんだね」
それで、じゅうぶんだ
茫洋として果てしない海原を眺めながらのキマリのこの述懐は、シンガポールでの夜景を見ながらの感慨ともまた違う。青春の瑞々しい感受性は、行く先々で新たな経験に反応してきらめく。
と、ここまではたいへん麗しいのだが、このあと、前半(Aパート)はおおむねわちゃわちゃ、後半(Bパート)は全員そろって船酔いである。
キマリたちは「同行者」だが「お客さま」ではない。けっこう忙しい。まず研究員へのインタビュー。相手は安本保奈美と佐々木夢(17 宝箱を開けに。その② 参照)。インタビューアーは結月ではなく黒髪ぱっつんコメディエンヌさんだ。
保奈美は寝坊して眉毛を描いておらず、キマリたちは外で待たされる。キ「眉毛なかったね……」日「べつに珍しくもないだろ」結「むしろふつうというか」というやり取りがあって、キマリが「ほんと?」と報瀬の眉毛を抜いてみるのは、さっきのヘッドロックのお返しか。
ようやく始まった保奈美へのインタビューで、報瀬は例によって噛みまくり。つづく夢へのインタビューではこうである。
ある意味、キャッチーでウイットでセンセーショナル……かもしれない。少数のカルトなファンが付きそうだ。頑として位置をずらさない夢さんも夢さんだが
結月が「マイク……近い、近い」と小声で注意するも、報瀬はピンときていない。それをよそに、キマリと日向が「あの人は眉毛あるね」「ちゃんと話きけよ」と話してるのがまた可笑しい。しかしこの手の細かいギャグを記述してたらいつまで経っても進まないので、いいかげん自重しましょう。
それが済んだら調理室に駆け込み、弓子のもとでじゃが芋の皮むきの手伝い。4人あわせても、スピード、正確さとも弓子ひとりに及ばない。そのあとは「艦上体育許可」ということで、広大な甲板をぐるりとランニングするのだが、他の乗組員たちとの体力差を思い知らされる。隊員はもとより、一見するとデスクワーク派の研究者にしか見えない夢さんでさえ、相当なスピードで走り抜けていくのだ。
「これではならじ」と、部屋に戻ってにわかトレーニングに励むも、とりあえず、たんに消耗しただけ……のようにしかみえない。ダンベルのやりすぎで腕が上がらなくなった結月は「何かしたら軽く死なせますよ」の警告も空しく、こういう羽目になる。こんな真似をするのはもちろん日向だ。
場面が変わり、「バカじゃないですか⁉ バカじゃないですか⁉」と鏡に向かって額をごしごし洗っている結月の背中のカットから浴室シーン。「海水風呂なので肌に沁みる」「髪がキシキシする」といった体感トリビアが語られる。キマリの「前髪切り過ぎた系」ヘアスタイルの謎も判明。
4人そろって湯船に浸かっている時に「配食用意」の艦内放送が入る。まことに慌ただしい……というより、ここでの時間割がまだ身についていない、というべきか。
「そういえば洗濯機の使える時間も決まってたよね」と気がつき、食事もそこそこに(まあ完食したのだが)洗濯室へ。どうにか間に合ってほっとしたところで、立ったままうとうとする結月。またしても喜んでサインペンを取り出す日向。さすがに阻止する報瀬。「疲れたんだよね、忙しかったから」といつも優しいキマリ。
このシーンで特筆しておくべきは、「だよな。これ明日からも続くんだろ。もつのか?」と珍しく弱音を吐いた日向に、「がんばるしかないでしょ。ほかに選択肢はないんだから」と報瀬が応じ、それにキマリが「ん?」という顔をするところだ。これがクライマックスの名場面への仕込みになる。
キマリのとなりにいるのが結月。このあと、とつぜん顔をあげる
ふいに覚醒した結月が口元をおさえ、「気持ちが……わるい……です」と呻くように言って、Bパート突入。