この第9話の構成は、全13話のなかでいちばん手が込んでいる。前回述べたクロスカッティングとフラッシュバック、さらにはカットバックが多用され、過去と現在、そして複数の場面が交錯する。しかしもちろん、それが混乱を招いたり、うるさく感じられることはない。結局は、全てがひとつに収斂(しゅうれん)し、南極到達~ラミング(砕氷)~上陸へと至る怒涛のクライマックスへと一直線になだれ込む。ただ舌を巻くしかない鮮やかさである。
報瀬が子供のころ、貴子はしょっちゅう藤堂を家に招いていたらしい。しかも、そのたびに口実をもうけては席を外し、藤堂と報瀬を2人きりにしていたようだ。
どちらも口下手なので、間が持たない。じっと並んでテレビを見て……。
「あ。ペンギン」
そんな思い出話をきいて「何だそりゃ」と、かなえ。しかしすぐ真顔になって、「彼女、お母さんが待ってる、って言ってるのよ。貴子のこと、ちゃんと話しておかなくていいの?」という。
藤堂の脳裏をよぎるのは、中学生になった報瀬と、最後に会ったときのシーンだ。
「捜索は打ち切ったの。私の判断で」
こういう湿っぽいムードになると、すぐ陽性に転じるのがこのアニメのよいところである。「突撃インタビュー」に押しかけてくる3人。かなえの一存で、許可を出していたのだ。ただ、それは報瀬と藤堂との距離を近づけるための計らいだったのだが、かんじんの報瀬はこなかった。かなえは少しがっかりするが、すぐに気持を切り替える。でもって、あとはわちゃわちゃ。
好きな男性のタイプは!?
シーンがかわって甲板。「目、もうちょっと大きくしたほうがいいかな」と、アプリで藤堂の写真をいじるキマリ(爆笑必至のギャグ画像)。海面に浮かぶ氷塊が、だんだん大きさを増している。「南極圏に入るっていってましたからね」と結月。キマリは太陽を眺めて「沈まなくなるんだよね……」という。
その上部に、日向、報瀬、それに敏夫と弓子がいる。いちおう藤堂から「好きな男性のタイプ」を聞けたので、それを敏夫に伝えているのだ。「雲みたいな人」というのがその答なのだが、敏夫にはまるで解せない。
太陽のカットから、日向たちのほうにカメラが切り替わって、「雲」の話になる。こういう繋ぎがほんとうに上手い。すべての台詞、すべてのシーンが有機的に絡み合っている
報瀬が、「たぶん……」といって、子供の頃の記憶をたどる。貴子と3人、草原で寝っ転がって空を見上げているときに、藤堂がこんなことをいった。
「雲ってすごいよね……掴めないのに、上見るといつもそこにある」
報瀬のTシャツの英字は、3行目が映らないが、「touch your heart」だろうか、「dream」だろうか
女性3人は「なんとなくわかるね……」と遠い目になるが、気の毒な敏夫にはさっぱりだ。「え……どういうことどういうこと?」
この「雲」についての挿話は印象ぶかい。「見上げるといつもそこにいる。でも、手を伸ばしても届かない」。……藤堂のことばを、そう言い換えてもいいだろう。そのときの彼女は、もちろん理想の男性について述べていた。しかし、今となってはそれは、ほかならぬ貴子のことを指しているようにみえないだろうか。
見上げるといつもそこにいる。でも、手を伸ばしてもけして届かない。
敏夫のラブストーリーも切ないが、藤堂のラブストーリーも、哀しい。