まずは一枚の画像から。
これは、第4話で日向が見ているスマホの画面。「七神屋」という和菓子メーカーがスポンサーに名乗りを上げ、「南極チャレンジ」の2度めの計画が実現に向けて動き出したことを報じるニュースだ。
この七神屋さんは、かねてより「ペンギン饅頭」という銘柄を売り物にしており、そのCMの謳い文句が、「キャッチーでウイットでセンセーショナル」であるらしい。
ほんの一瞬ちらりと映るだけだから、よほど注意ぶかくて動体視力の良い人でなければ、ビデオで何度か見返さないとわからない。それでこうして貼らせて頂いた。
第7話のOP明けのシークエンス。レポートのさい、報瀬はアドリブがきかぬので、日向に台本を書くよう頼んだ。気の利く日向はスポンサーに配慮してその謳い文句を取り入れ、報瀬のために口上を作ってやった。だが台本があろうがなかろうが同じことで、ポンコツはあくまでポンコツなのだった。
はぁいっ。女子高生観測隊員、こっ、小淵沢報瀬です。ここきゃら、キャ、キャッチーでウイットでセンセーショナルなリポートで、皆様を南極まで、ごあんなーい
というわけで、やっぱりぜんぜん使えないから結局は結月がぜんぶやるのだが、「しょーがねえなあ」と笑いながら見ていると、第7話の最終パートで、その笑いはナミダにかわることになる。
「南極チャレンジ」のメンバーが、熱い思いを共有する、強い絆で結ばれた人たちだってことはわかった。
では報瀬は、4人は、そのなかに入っていけるのか。そのなかに溶け込んで、「同志」として受け入れてもらえるか。
その始まりの一歩を描くのが、第7話の最終パートになる。
出航前夜のパーティー。藤堂と報瀬とが望遠鏡のかたわらで話した夜の翌日と思われる。
愛嬌たっぷりの前川かなえが司会を務め、ユーモラスな前口上で場の雰囲気を和ませる。それから「同行者」たるキマリたちを迎え入れ、隊員全員の先陣を切って、4人は自己紹介することになる。4人とも緊張を隠せぬが、とりわけ報瀬は顔も上げられない。
「ホンモノの女子高生ですよー。わかってますね? 言っときますけど犯罪ですからね犯罪。敏夫わかってる?」
「なんでオレなんすか!?」
と、かるく敏夫イジりも入って、いよいよ空気が和らいだところで、一転、かなえが厳粛な面持ちになる。
「3年まえ、あのとき約束したように、あの時のメンバーは全員帰ってきました。そして、新たなメンバーを加え、ここにいる全員で、このメンバーで、あの基地に、南極に向かいます」
たちまち空気が引き締まる。
挿入歌「ハルカトオク」。
隣は船長の迎さん。元自衛官で、以前にも観測船の艦長を務めていた
報瀬が顔を上げる。
こうして始まる自己紹介。
玉木マリといいます。キマリって呼んで下さい。えっと、私は、ここじゃない何処かへ、このままじゃない何処かへ行きたくて、気がついたら南極めざしてました。右も左もわかりませんが、よろしくお願いします。
キマリはふわふわしたことを言ってるようだが、「ここではない何処かへ」というキーワードだけは外さない
白石結月です。3人よりひとつ下の、高校1年生です。私は、仕事でこの船に乗ることになっていて、じつはとても厭だったのですが、……でも、誰かと一緒に何かをしたくてここに来ました。よろしくお願いします。
結月のばあい、ここで「友達」とか「仲間」と言わず「誰か」といっている所に注目
三宅日向です。明るく元気が取り柄です。受験勉強がはじまる前に、なにか大きいことをひとつやりたいと思ってここに来ました。背はちいさいけれどー、心はでっかい日向ちゃーん。よろしくお願いしまーす。
日向は物おじせず、プロの結月よりもうまいくらいだ
そして問題のこのひと。
さっきいちどは顔を上げたが、やはり自分の番となるとこうなる
「こ……小淵沢……報瀬です……」
そこから先が続けられない。
そのとき日向が、文字どおり「背中を押す」。
気遣うキマリと結月に対し、「だーいじょうぶ、オマエならできるって」とばかりに泰然と構える日向がいい
こうなったらもうしょうがない。もともと気は強い娘さんなのだ。
「キャッチーでウイットで、センセーショナルなリポートをしに、この船に乗り込みました!」
「母が言ってた南極の宝箱を、この手で開けたいと思っています。皆さん、一緒に、南極に行きましょー!」
おー!
今はもうここにいないかつての同志。その娘の、ちょっとヤケっぱち気味だけど力強い宣言に、一気に高まる全員の士気。藤堂さえも笑顔をみせる。
キマリたち「やったあー!」
報瀬のこの表情に、ライトに照らされた「ペンギン饅頭号」のショットがかさなって、第7話「宇宙(そら)を見る船」は幕をおろす。