英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

NHK『羽生善治 天才棋士 50歳の苦闘』 その1「AI将棋の進化がもたらしたモノ」

2021-02-24 21:19:54 | 将棋
「羽生さんも本当に新しい将棋には苦労している
 ついていけないのか 年齢的なものか……
 羽生さんでも捉えづらくなっているのかな」(広瀬九段)

 ……かなり厳しい言葉だが、それをきっぱり否定できない羽生九段の現状………

 広瀬九段は羽生から竜王位を奪取、羽生九段のタイトル100期をも阻止した。
 その背景があるので、コメントを求められたのであろう。広瀬九段は番組の意図、質問者の雰囲気を察して、上記のコメントをしたのだろう。

AIの棋力が人間のそれを上回り、将棋の情況が多元的に変わってきている。
①棋士の存在価値……短絡的思考によるディスり(侮辱)「無料で公開提供されている将棋ソフトに及ばないプロ棋士」など
②AI評価値を表示した将棋の中継→「大逆転」「大差の将棋」などの安易な評価
③AIを活用した将棋の研究


 他の要素もあると思うが、③により、将棋の質が大きく変化した。AIの活用により、広域で深いところまで研究が及ぶようになったのだ。
1.事前研究が勝敗に直結
 研究の網が広域で深ければ、それだけで勝勢の局面に持ち込むことができる。もちろん、終盤の入り口あたりまで研究(探索)を深めても、形勢が互角に近い局面も存在し、トップ棋士はそのギリギリの局面で戦っている。
 研究を怠り、不利と結論されている指し手を着手したら、研究の網から逃れられず逆転困難な状況に陥ってしまう。研究がはまれば、事前研究のみで強敵を破ることさえ可能なのである。

2.新手も瞬く間に研究される
 将棋ソフトの進化以前に、ネット環境の発達により情報はとっくに高速化されており、新手の伝達はあっと言う間になっていたが、昨今はその新手をクリックするだけで、大まかな新手の評価が表示され。その対応策も示されてしまう。
 恐ろしいと言うか……味気ない時代である

3.人間がついていけない読みの深さ(評価値の罠)
 AIが検証し、最も高い評価値の指し手を「最善手」として示されるが、私はもちろんトップ棋士でさえ短時間では意味が分からないことも少なくない。(非常に難解な局面では、PCが10分以上かけないと正しい評価が出ないこともあり、迂闊に評価値を鵜呑みにしてはいけない)
 私は、最善手以降の想定手順を観て………《ああ、そういう意味だったのかぁ!》と感嘆するというパターン。
 なので、AIが最善手順を示しても、よほどのトップ棋士で時間を残していないと、その手順を踏襲することは困難。
 たとえば、「評価値+800(大優勢)」を示していても、その高レベルの指し手を読み切ることが困難な場合、人間にとっては「大優勢」ではない。
 対局者は自力で指し手を積み重ねる。当然、評価値など観ることはできず、互角と判断していれば、互角として局面を読むことになり、指し手の方向性も優勢での方向性とも違ってくる。まして、終盤になれば残り時間も少なく、疲労も蓄積されてきている。AIにとっては大優勢でも、人間的にはそうでない。
 さらに、同じ「評価値+800(大優勢)」でも、《候補手5つあって、1つだけが大優勢で、残りの4つは逆転される》という場合と、《候補手の1つが大優勢で、残りの2つは優勢、もう二つが互角》の場合では、相当、評価値が同じでも難易度が違う。
 前者の場合に最善手を選べずに敗れても、「必勝の局面を勝ち切れず、大逆転負け!」と評価を下すのは短絡的なのである。


4.人間の常識が覆された 
 AIに広く深く検討させることにより、人間では“ないとされていた”指し手や陣形が高評価されるケースが少なくない。人間の常識(定跡)が通じないことが増えてきたのだ。

5.AIがコーチやスパーリング相手に
 前項で述べたこれまでの常識を覆す新技法や問題局面での最善手をAIが提示してくれることは、非常に優秀なコーチを得たようなもの。さらに、存分に強い練習相手にもなってくれる。しかも、PCやソフトを揃えれば、電気料以外の報酬は求められない。時間の制約もない。

 
その結果
苦境に陥る羽生九段
  
Ⅰ.棋界全体の棋力の底上げされ、容易に勝てなくなった
 定跡などがより精密になり、良いコーチ・スパーリング相手を得たことで、これまでより棋力がアップした棋士が多い。
 羽生九段も同じ恩恵に与れるはずだが、もともとかなりのレベルにある羽生九段はにとっては、それ以上のアップは難しい。さらに、年齢的に衰えてくる部分もある。

Ⅱ.丸裸にされる羽生将棋
 棋譜データの環境が整ったことで、容易に羽生九段の棋譜を検索・分析できるようになった。それによって、ある程度想定局面を絞ることができ、AIによって対策を練ることができる。
 羽生将棋を解析することで、今まで見えてこなかった弱点も見えるようになった。絶対的な強さだと思っていたが、《強いけれどそこまで強くないのでは?》という疑問が生じた。
 これまでは《羽生は強い。間違えない》という圧力から、疑心暗鬼やあきらめが生じていたが、《羽生の指した手に対抗できる手がある》《あきらめるのはまだ早い》という心理に変われば、指し手も大きく変わってくる。
 《粘っていれば、そのうち間違える》と思っている若手棋士もいるかもしれない。
コメント (2)
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