『マラソングランドチャンピオンシップ』(以下“MGC”と表記)について、いつか書かねばと思っているうちに、明日になってしまった。
先日の特番で、MGCに至るまでのドキュメントドラマで、ある程度の内幕を垣間見ることができた(かなり、瀬古氏周辺を美化している気がする。←邪推に近いです、はい)。
MGCについて記す前に、この特番で語られていた“五輪代表選考における迷走”について
「這ってでも出てこい」
ソウル五輪(1988年)男子代表選考レースで、瀬古選手が「故障により欠場」が発表されたが、その時、中山竹通が発したとされた言葉だが、実際は、「自分なら這ってでも出る」と語ったのを歪曲されたものだった。(中山選手のキャラなら言いそうなセリフと思った者は多いはず)
それはともかく、当時はマラソン代表は1レースでの一発選考だった。実際、ドラマの中では、有力選手に福岡マラソンへの出場が義務づけられていた。
しかし、瀬古欠場を受けて陸連が「他のレースでの成績も代表選考に組み入れる」と変更。福岡マラソンレース後、1位中山選手、2位新宅選手には内定が出たが、3位の工藤選手には内定が出なかった。
皆、一発選考の福岡に向けて練習、調整をしており、それに参加できないのは本人の調整ミスなので、出場できないのは“レースに敗れたのと同じ”だ。しかも、陸連は出場を義務付けているのだから、この変更は愚行としか言えない。
結局、3人目の代表は、琵琶湖マラソンで優勝した瀬古選手が選ばれた。しかも、瀬古選手のタイムは工藤選手より劣っていたので、余計、疑問の声が上がった。(マラソンのタイムは、レース展開や気象条件で大きく左右されるので、単純には比較できない)番組の中で、当時の瀬古選手への世間の風当たり、瀬古選手、工藤選手の心境などが語られ、瀬古選手が工藤選手に申し訳ない気持ちを語っていた。
瀬古選手は五輪には縁がない選手である。1980年のモスクワ五輪では、代表に選ばれながらもソ連のアフガン侵攻によるボイコットで出場できず、ロサンゼルス五輪(1984年)は、暑さ対策を誤り14位に沈んだ。1978年の福岡マラソン以降ロス五輪前の福岡マラソン(1983年)の7レースで優勝6回、2位1回。しかも5連勝中と金メダルの大本命だった。
さらに、ロス五輪後も急遽ソウル五輪選考レースとなった琵琶湖マラソンまで4連勝。なのに、ソウル五輪は9位……
という不運の瀬古選手だが、この瀬古選手への温情というか、瀬古選手起用でメダルが欲しかった陸連の愚行が後々の代表選考の迷走を生んでしまった。
【以下は、『日刊スポーツ』のウェブサイト、「“はってでも出てこい”/過去のマラソン選考もめ事」からの引用】(青字部分が引用)
◆アピール会見 92年バルセロナ五輪女子代表争いは世界選手権4位の有森裕子と、大阪国際で有森のタイムを上回る2時間27分2秒を出した松野明美との争いに。松野は異例の記者会見で「私を代表に選んでください」とアピール。結局、有森が選ばれ銀メダル。
バルセロナ五輪の代表は山下佐知子が世界選手権(1991年)銀メダルを獲得し内定、1992年の大阪国際女子マラソンで当時の日本最高記録で優勝した小鴨由水選手がほぼ内定。残り1枠を有森裕子選手と松野明美選手のどちらかを選考するという形になった。
有森は世界選手権で4位(2時間31分08秒)、松野は大阪国際で2位(2時間27分02秒)。有森のプラスポイントは夏のマラソンの一応のネームバリューのある世界選手権での好成績、松野のプラスポイントは従来の日本最高記録を上回る好タイム(小鴨が同レースで日本最高記録を更新してしまった)。
非常に悩ましい選考となった。
◆最高記録の落選 96年アトランタ五輪前、鈴木博美は大阪国際で2時間26分27秒と、女子代表候補の中では最高タイムを出しながら落選。一時は小出監督が鈴木を強く推薦するなど論議を呼んだ。
代表選考は東京国際を優勝した浅利純子選手(93年世界陸上金メダリスト)が文句なし。名古屋国際を制した真木和選手も優勝インパクトが強く当確。残り1枠は有森裕子選手と鈴木博美選手の選択となった。
鈴木は大阪国際で2位。優勝ではなく2位、しかも初マラソンで実績(信用)がないというのがマイナス材料。有森は北海道マラソン(選考対象レース)で優勝。夏場の高温の中での優勝(大会記録)、バルセロナ五輪での銀メダルという実績がプラス材料。ただし、北海道マラソンは有力選手の参加が少なく、タイムは2時間29分17秒。
結局、有森が選ばれた。有森は五輪で銅メダルを獲得。ちなみに鈴木は同年の日本選手権10000mで優勝し、10000mの五輪代表(五輪では16位)。その後、1997年08月のアテネ世界陸上選手権女子マラソン 2時間29分48秒で金メダルを獲得。
◆早期内定に疑問 00年シドニー五輪女子代表争いは、前年世界選手権で市橋有里が2時間27分2秒の銀メダルで早々と内定。だが11月東京で山口衛里が優勝、1月大阪国際で弘山晴美が2位、3月名古屋国際で高橋尚子が優勝。3つの選考レースで2時間22分台の好タイムが連発された。最後は弘山が涙をのみ、早期内定に批判の声も出た。
◆もう1回? 昨年のリオ五輪女子代表争いでは、福士加代子が1月の大阪国際で派遣設定記録を破る2時間22分17秒で独走優勝。レース後に「リオ、決定だべ」と絶叫。しかし、その場で内定が出ず、3月の名古屋ウィメンズにエントリー。結局、出場は取りやめたが波紋を呼んだ。
五輪代表は伊藤舞選手(世界陸上北京大会7位 2時間29分48秒)、福士加代子選手(大阪国際女子マラソン優勝 2時間22分17秒)、 田中智美選手(名古屋ウィメンズマラソン2位 2時間23分19秒)。伊藤は世界陸上入賞者(8位まで)の日本選手最高位という条件で内定。この時の選考に関する問題点はこちらに記してあります。
ここまで振り返ると、大きな問題点は2つ。
「代表が3人なのに、選考レースとして五輪前年の世界陸上、北海道マラソン、東京国際、大阪国際、名古屋国際(名古屋ウィメンズ)の5レースも指定していること」
マラソンによって気象条件もレース展開も大きく異なるので、単純にタイムで優劣を決めることは出来ない。「代表枠=選考レース数」なら各レースの優勝者で決定という図式が成立するのだが……
そしてもうひとつの問題点は「五輪前年の世界選手権で内定を出してしまうこと」
世界陸上は選考レースの中で最初に行われる。この大会の結果で内定を1枠決めてしまうと、残りの4レースで2枠を争うことになってしまう。
しかも、その世界陸上に参加できるのは5人のみ(しかも、その選考も怪しい)。つまり、他の多くのランナーは代表選考期間が始まった段階で2枠を目指すことになるのだ。
さらに、世界陸上で出す内定の条件が甘すぎる。夏のマラソンということで世界陸上のマラソンは有力選手が敬遠する傾向があり、その中での「8位入賞」という条件はかなり甘いのである。
世界選手権7位入賞での伊藤舞の選出はかなり疑問であり、その余波で福士の「もう一回走る」発言に至ったし、シドニー時の弘山もその被害者である。(松野も被害者に該当するだろう)
なぜ、こんな歪んだ選考状況になってしまっているのか?
推測だが、テレビ局の放映料が大きいのではないだろうか?
五輪代表選考レースかそうでないかは、テレビ中継の視聴率に大きな差が出てきそうなので、選考レースから外すわけにはいかない。世界陸上のマラソンも選考レースに入れるのは、夏場のマラソンということもあるが、やはりテレビ中継の関係であろう。
そんな事情もあり、なかなか一発選考にするのは難しい状況(特番ドラマでは一発選考だと同じようなタイプの選手や一発屋が選ばれてしまう危険性もあると指摘)
そこでMGCの登場。(ようやく本題か…)
瀬古氏の提示したテーマ……
「“一発屋”を生まない“一発選考”」
“誰もが納得できる選考方法”も大事で“一発選考”が有力だが、それだと偶々いい走りが出来た選手が勝ってしまう(上位3人)可能性も低くない。実績のある選手(強い選手)を選びたい。
しかも、育成強化に結び付ける(長期的にマラソンが注目される)システムを考えたい。
で、河野匡氏が捻り出したMGCの基本構想は
「2017年シーズン、2018年シーズンでの各レースを予選会とし、2019年に選考一発選考レースを実施する」……そうすれば、一発選考のレースに出場するのは実力のある選手のみ。
なるほどと思った。
“選考レース”から“予選レース”に格下げになるが(スポンサーは難色を示すかも)、視聴者の興味にはそれほど影響はなさそうだ。
しかし、陸連の尾縣貢氏はこの案に同意しなかった。2つの問題点を指摘。
・1レースで3人を選ぶのは、同タイプの選手に偏る危険性がある。例えば、勝負に拘りスローペースに陥ると、駆け引き上手のランナーやラストスパートが強い3選手が上位3人を占めてしまう。
・一発選考にしてしまうと、その後開催されるレースが全く盛り上がらない(スポンサーを裏切ることになる)
そこで、練り直した改良案は
「一発選考のMGCレースで2枠決定し(2枠目は他の条件が設定されていたが、現段階では即決定という状況)、残りの1枠をその後の3レースで最速タイムを出した選手を選ぶ(かなり高レベルの設定タームで、MGC3位の選手が代表となる可能性も低くはない)」
おお、なるほど! である。
これならファイナルチャレンジ3レースで最速タイムを出した選手が選ばれるので、少なくとも快速ランナーが選ばれることになる(ただし、設定タイムが高レベルなので、それをクリアする選手が出ない場合、3人目もMGCの3位の選手となり、「1レースで3人選出→同じタイプの選手のみ」というパターンの危険性もある)
なかなか秀逸なシステムが出来上がった。
しかし、ちょっとした弊害もあった。それは、予選となった各マラソン中継でマラソンレースそのものより、「MGC出場タイムを切るかどうか」に焦点を当ててしまう中継になってしまったことである。
話は少しそれるが、ドラマ内で河野氏が
「有森裕子や高橋尚子は実績を積み上げ結果を残している。
一方、初マラソンで五輪出場権をつかんだ選手は3人。いきなり日本記録を出した小鴨はバルセロナ五輪で29位と惨敗、他のふたりも入賞することすらできなかった」(真木和…1996年アトランタ12位、中村友梨香2008年北京13位)
としているが、これには反論したい。
真木は日本選手では2番目、中村は最上位。彼女たちより下位の選手はどうなんだ?と言いたい(小鴨選手は選ばれた後、世間の風当たりが強くて気の毒だった)
また、有森の選出については、バルセロナの時は世界陸上、アトランタの時は北海道マラソンでの成績が選考対象で、冬場の有力ランナーが揃う東京、大阪、名古屋は不参加で、ライバルとは競っていない。さらに言えば、バルセロナ五輪からアトランタ五輪の期間で彼女が走ったレースはこの北海道マラソンの1レースのみだった。
さて、明日のMGCの予想は……
やはり男子は大迫、設楽、井上、服部の“4強”が有力。走力(地力)という点では井上、大迫、服部、設楽の順か?
個人的には村沢明伸、今井正人、岡本直己を応援。
女子は鈴木亜由子、松田瑞生、前田穂南、安藤友香が有力。個人的には鈴木、福士加代子、前田穂南を応援。
ちなみに、この記事を書き終えた後、面白いコラムを発見。
『日刊スポーツ』の「東京五輪・パラリンピック300回連載」
「マラソン代表一発勝負MGCは、どん底から始まった」
先日の特番で、MGCに至るまでのドキュメントドラマで、ある程度の内幕を垣間見ることができた(かなり、瀬古氏周辺を美化している気がする。←邪推に近いです、はい)。
MGCについて記す前に、この特番で語られていた“五輪代表選考における迷走”について
「這ってでも出てこい」
ソウル五輪(1988年)男子代表選考レースで、瀬古選手が「故障により欠場」が発表されたが、その時、中山竹通が発したとされた言葉だが、実際は、「自分なら這ってでも出る」と語ったのを歪曲されたものだった。(中山選手のキャラなら言いそうなセリフと思った者は多いはず)
それはともかく、当時はマラソン代表は1レースでの一発選考だった。実際、ドラマの中では、有力選手に福岡マラソンへの出場が義務づけられていた。
しかし、瀬古欠場を受けて陸連が「他のレースでの成績も代表選考に組み入れる」と変更。福岡マラソンレース後、1位中山選手、2位新宅選手には内定が出たが、3位の工藤選手には内定が出なかった。
皆、一発選考の福岡に向けて練習、調整をしており、それに参加できないのは本人の調整ミスなので、出場できないのは“レースに敗れたのと同じ”だ。しかも、陸連は出場を義務付けているのだから、この変更は愚行としか言えない。
結局、3人目の代表は、琵琶湖マラソンで優勝した瀬古選手が選ばれた。しかも、瀬古選手のタイムは工藤選手より劣っていたので、余計、疑問の声が上がった。(マラソンのタイムは、レース展開や気象条件で大きく左右されるので、単純には比較できない)番組の中で、当時の瀬古選手への世間の風当たり、瀬古選手、工藤選手の心境などが語られ、瀬古選手が工藤選手に申し訳ない気持ちを語っていた。
瀬古選手は五輪には縁がない選手である。1980年のモスクワ五輪では、代表に選ばれながらもソ連のアフガン侵攻によるボイコットで出場できず、ロサンゼルス五輪(1984年)は、暑さ対策を誤り14位に沈んだ。1978年の福岡マラソン以降ロス五輪前の福岡マラソン(1983年)の7レースで優勝6回、2位1回。しかも5連勝中と金メダルの大本命だった。
さらに、ロス五輪後も急遽ソウル五輪選考レースとなった琵琶湖マラソンまで4連勝。なのに、ソウル五輪は9位……
という不運の瀬古選手だが、この瀬古選手への温情というか、瀬古選手起用でメダルが欲しかった陸連の愚行が後々の代表選考の迷走を生んでしまった。
【以下は、『日刊スポーツ』のウェブサイト、「“はってでも出てこい”/過去のマラソン選考もめ事」からの引用】(青字部分が引用)
◆アピール会見 92年バルセロナ五輪女子代表争いは世界選手権4位の有森裕子と、大阪国際で有森のタイムを上回る2時間27分2秒を出した松野明美との争いに。松野は異例の記者会見で「私を代表に選んでください」とアピール。結局、有森が選ばれ銀メダル。
バルセロナ五輪の代表は山下佐知子が世界選手権(1991年)銀メダルを獲得し内定、1992年の大阪国際女子マラソンで当時の日本最高記録で優勝した小鴨由水選手がほぼ内定。残り1枠を有森裕子選手と松野明美選手のどちらかを選考するという形になった。
有森は世界選手権で4位(2時間31分08秒)、松野は大阪国際で2位(2時間27分02秒)。有森のプラスポイントは夏のマラソンの一応のネームバリューのある世界選手権での好成績、松野のプラスポイントは従来の日本最高記録を上回る好タイム(小鴨が同レースで日本最高記録を更新してしまった)。
非常に悩ましい選考となった。
◆最高記録の落選 96年アトランタ五輪前、鈴木博美は大阪国際で2時間26分27秒と、女子代表候補の中では最高タイムを出しながら落選。一時は小出監督が鈴木を強く推薦するなど論議を呼んだ。
代表選考は東京国際を優勝した浅利純子選手(93年世界陸上金メダリスト)が文句なし。名古屋国際を制した真木和選手も優勝インパクトが強く当確。残り1枠は有森裕子選手と鈴木博美選手の選択となった。
鈴木は大阪国際で2位。優勝ではなく2位、しかも初マラソンで実績(信用)がないというのがマイナス材料。有森は北海道マラソン(選考対象レース)で優勝。夏場の高温の中での優勝(大会記録)、バルセロナ五輪での銀メダルという実績がプラス材料。ただし、北海道マラソンは有力選手の参加が少なく、タイムは2時間29分17秒。
結局、有森が選ばれた。有森は五輪で銅メダルを獲得。ちなみに鈴木は同年の日本選手権10000mで優勝し、10000mの五輪代表(五輪では16位)。その後、1997年08月のアテネ世界陸上選手権女子マラソン 2時間29分48秒で金メダルを獲得。
◆早期内定に疑問 00年シドニー五輪女子代表争いは、前年世界選手権で市橋有里が2時間27分2秒の銀メダルで早々と内定。だが11月東京で山口衛里が優勝、1月大阪国際で弘山晴美が2位、3月名古屋国際で高橋尚子が優勝。3つの選考レースで2時間22分台の好タイムが連発された。最後は弘山が涙をのみ、早期内定に批判の声も出た。
◆もう1回? 昨年のリオ五輪女子代表争いでは、福士加代子が1月の大阪国際で派遣設定記録を破る2時間22分17秒で独走優勝。レース後に「リオ、決定だべ」と絶叫。しかし、その場で内定が出ず、3月の名古屋ウィメンズにエントリー。結局、出場は取りやめたが波紋を呼んだ。
五輪代表は伊藤舞選手(世界陸上北京大会7位 2時間29分48秒)、福士加代子選手(大阪国際女子マラソン優勝 2時間22分17秒)、 田中智美選手(名古屋ウィメンズマラソン2位 2時間23分19秒)。伊藤は世界陸上入賞者(8位まで)の日本選手最高位という条件で内定。この時の選考に関する問題点はこちらに記してあります。
ここまで振り返ると、大きな問題点は2つ。
「代表が3人なのに、選考レースとして五輪前年の世界陸上、北海道マラソン、東京国際、大阪国際、名古屋国際(名古屋ウィメンズ)の5レースも指定していること」
マラソンによって気象条件もレース展開も大きく異なるので、単純にタイムで優劣を決めることは出来ない。「代表枠=選考レース数」なら各レースの優勝者で決定という図式が成立するのだが……
そしてもうひとつの問題点は「五輪前年の世界選手権で内定を出してしまうこと」
世界陸上は選考レースの中で最初に行われる。この大会の結果で内定を1枠決めてしまうと、残りの4レースで2枠を争うことになってしまう。
しかも、その世界陸上に参加できるのは5人のみ(しかも、その選考も怪しい)。つまり、他の多くのランナーは代表選考期間が始まった段階で2枠を目指すことになるのだ。
さらに、世界陸上で出す内定の条件が甘すぎる。夏のマラソンということで世界陸上のマラソンは有力選手が敬遠する傾向があり、その中での「8位入賞」という条件はかなり甘いのである。
世界選手権7位入賞での伊藤舞の選出はかなり疑問であり、その余波で福士の「もう一回走る」発言に至ったし、シドニー時の弘山もその被害者である。(松野も被害者に該当するだろう)
なぜ、こんな歪んだ選考状況になってしまっているのか?
推測だが、テレビ局の放映料が大きいのではないだろうか?
五輪代表選考レースかそうでないかは、テレビ中継の視聴率に大きな差が出てきそうなので、選考レースから外すわけにはいかない。世界陸上のマラソンも選考レースに入れるのは、夏場のマラソンということもあるが、やはりテレビ中継の関係であろう。
そんな事情もあり、なかなか一発選考にするのは難しい状況(特番ドラマでは一発選考だと同じようなタイプの選手や一発屋が選ばれてしまう危険性もあると指摘)
そこでMGCの登場。(ようやく本題か…)
瀬古氏の提示したテーマ……
「“一発屋”を生まない“一発選考”」
“誰もが納得できる選考方法”も大事で“一発選考”が有力だが、それだと偶々いい走りが出来た選手が勝ってしまう(上位3人)可能性も低くない。実績のある選手(強い選手)を選びたい。
しかも、育成強化に結び付ける(長期的にマラソンが注目される)システムを考えたい。
で、河野匡氏が捻り出したMGCの基本構想は
「2017年シーズン、2018年シーズンでの各レースを予選会とし、2019年に選考一発選考レースを実施する」……そうすれば、一発選考のレースに出場するのは実力のある選手のみ。
なるほどと思った。
“選考レース”から“予選レース”に格下げになるが(スポンサーは難色を示すかも)、視聴者の興味にはそれほど影響はなさそうだ。
しかし、陸連の尾縣貢氏はこの案に同意しなかった。2つの問題点を指摘。
・1レースで3人を選ぶのは、同タイプの選手に偏る危険性がある。例えば、勝負に拘りスローペースに陥ると、駆け引き上手のランナーやラストスパートが強い3選手が上位3人を占めてしまう。
・一発選考にしてしまうと、その後開催されるレースが全く盛り上がらない(スポンサーを裏切ることになる)
そこで、練り直した改良案は
「一発選考のMGCレースで2枠決定し(2枠目は他の条件が設定されていたが、現段階では即決定という状況)、残りの1枠をその後の3レースで最速タイムを出した選手を選ぶ(かなり高レベルの設定タームで、MGC3位の選手が代表となる可能性も低くはない)」
おお、なるほど! である。
これならファイナルチャレンジ3レースで最速タイムを出した選手が選ばれるので、少なくとも快速ランナーが選ばれることになる(ただし、設定タイムが高レベルなので、それをクリアする選手が出ない場合、3人目もMGCの3位の選手となり、「1レースで3人選出→同じタイプの選手のみ」というパターンの危険性もある)
なかなか秀逸なシステムが出来上がった。
しかし、ちょっとした弊害もあった。それは、予選となった各マラソン中継でマラソンレースそのものより、「MGC出場タイムを切るかどうか」に焦点を当ててしまう中継になってしまったことである。
話は少しそれるが、ドラマ内で河野氏が
「有森裕子や高橋尚子は実績を積み上げ結果を残している。
一方、初マラソンで五輪出場権をつかんだ選手は3人。いきなり日本記録を出した小鴨はバルセロナ五輪で29位と惨敗、他のふたりも入賞することすらできなかった」(真木和…1996年アトランタ12位、中村友梨香2008年北京13位)
としているが、これには反論したい。
真木は日本選手では2番目、中村は最上位。彼女たちより下位の選手はどうなんだ?と言いたい(小鴨選手は選ばれた後、世間の風当たりが強くて気の毒だった)
また、有森の選出については、バルセロナの時は世界陸上、アトランタの時は北海道マラソンでの成績が選考対象で、冬場の有力ランナーが揃う東京、大阪、名古屋は不参加で、ライバルとは競っていない。さらに言えば、バルセロナ五輪からアトランタ五輪の期間で彼女が走ったレースはこの北海道マラソンの1レースのみだった。
さて、明日のMGCの予想は……
やはり男子は大迫、設楽、井上、服部の“4強”が有力。走力(地力)という点では井上、大迫、服部、設楽の順か?
個人的には村沢明伸、今井正人、岡本直己を応援。
女子は鈴木亜由子、松田瑞生、前田穂南、安藤友香が有力。個人的には鈴木、福士加代子、前田穂南を応援。
ちなみに、この記事を書き終えた後、面白いコラムを発見。
『日刊スポーツ』の「東京五輪・パラリンピック300回連載」
「マラソン代表一発勝負MGCは、どん底から始まった」